Snow White


#エピローグ







―――太陽……いや、月が顔をのぞかせる事が出来ないほど濃密な雲が空を覆っていた。
その雲が薄くなるぐらいの闇が辺りを支配する。
そこにはらはらと舞い降りてくる白い結晶。
漆黒の闇は、その白い結晶を更に引き立てていた。
いや、言うならばそれは、闇という海に白い精霊が舞い降りるような。そんな……。

そして、この雪の降る冬の夜空の下、一組の男女が誰もいない公園の一角で向き合っていた――――


「……水沢君?」
話の途中で止まってしまった聡を見て、亜矢が声を掛ける。
固まってしまったのか、聡はビックリしたように慌ててしまう。
「あぁ、すっすまん。止まっちまって」
「どうしたの? 急に」
「いや、その……思い出してたんだよ。亜矢と知り合ってからのこと」
「私と…?」
「あぁ」
大きく頷くと、聡は一歩前に移動した。
一瞬傘と傘が触れて、少しだけ積もっていた雪がはらりと落ちていく。
「出会ったのはつい最近。最初はお互い同じクラスだってことすら知らなかった。それが今じゃあり得ないくらい……大事な存在」
「水沢君……」
「緊張してないなんてことはない。むしろ今はドキドキしてる。けど、言葉は伝えないと伝わらないから、態度だけじゃ曖昧だから」
「………………」

「亜矢、俺な――――亜矢の事、好きだ」

ハッと亜矢の目が大きく開いた。
だがそれはすぐに優しい眼差しへと変わる。
そして、聡の方を見据えて静かに口を開いた。
「やっと、言ってくれたね」
「…え?」
「この前水沢君眠ってたから覚えてないと思うけど、あの時に一度……聞いちゃったんだ。水沢君の気持ち」
「俺の…?」
ここで聡は思い出す。
あの時、帰り際に言った亜矢の意味深な一言を。

『――――それに……水沢君の気持ちもわかったし』

「俺、寝てる時から告ってたんだな」
「うん……あの時はビックリしたよ。抱き寄せられたと思ったら好き、なんて言われるから…」
「抱き寄せる…?」
「水沢君、寝てる時に私の事をギュッて抱きしめたんだよ」
「そら……今の俺から考えればずいぶん大胆な行動だ。俺って寝てる時は気をつけたほうがいいかも」
「そんなことないよ。あのお陰で今があるって、私は思ってる」
「そうか……じゃあもう一回、かな」
「え、みなさわく―――あっ…」
ハラリと赤い傘が地面に落ちた。
その持ち主は、青い傘の持ち主にしっかりと収まって寄り添っている。
「俺の気持ち、今度は起きてるから伝えられるぞ。 好きだ、亜矢の事。絶対に離したくない」
「みなさわくん……」
「亜矢は……俺のこと、どう思ってるんだ?」
「私…? 私はもちろん、水沢君の事……好き、だよ」
「…ありがとう」
「絶対に離さないでね。私も……離れないから」
「あぁ、もちろん。誓うよ」
「本当に?」
「言葉で信用してもらえないなら……この方法以外にはこうするしかないよな」
片手で抱きしめている亜矢を少しだけ持ち上げるようにして背伸びをさせると、そっと聡は唇を重ねた。
「…ん……」
ひとしきりの後、名残を惜しむように離れる。
目が潤んだ亜矢の瞳がすぐ側にあった。
「…これで、水沢君は私のものだよ」
「もちろん。亜矢だって俺のだ」
「他の人には上げないよ」
「こっちだって」
「約束、だからね」
「あぁ、約束だ」
「……言葉じゃない、もう一つの約束」
「誓いの印ってやつかな…?」
二つの影が一つに重なる。
漆黒の空からは止まることなく白い結晶が舞い降りている。
幻想的ともいえるこの空間で、二人は恋の誓いをした。
それは、瞑っている亜矢の目元から流れていく雪とはまた違った輝きを見せる結晶が強く強く表していた。



〜.... Happy Merry Christmas ....〜







Back...→