Snow White


#7 聡







あの日以来、俺と浦佐は更に仲が良くなった気がした。
いや、気じゃないだろう。
事実、俺は浦佐という呼び方から『亜矢』へと変わった。
特に意識したわけじゃないけど、もうちょっと親しみを込めてということで。
亜矢も呼び方は変わってこそいないけど普通に話しかけてきてくれる。
そう、本当に仲が良くなったんだ。
でなければ、こうはならないだろうし……






「なぁ水沢」
「なんだ?」
「一つ気になるんだけどさぁ」
「ふむ」
「浦佐と……付き合ってるのか?」
………………
「…はぁ?」
「いや、そう呆れた顔すんなよ。別にふざけて聞いてるわけじゃねぇし」
「呆れてはないけど……なんでそんな事?」
「だってよぉ、最近ずいぶん一緒にいること多くないか? つい最近まで喋った事すらなかったのに」
「あ〜……まぁ」
それは俺が眠いからと言う理由でクラスの親しい連中以外は話さないからだな。
基本も応用も、俺は寝てる!
「それに、今なんかおまえ普通に起きてるし。いつも寝てる奴が起きてて更に話した事のない女子と一緒にいればそう思うのが普通ってもんだろ?」
「ん〜む……どうかな」

「――――水沢君、帰ろう」

「ん、あぁ亜矢。今いく。まぁそんな訳だ。じゃあなっ」
「えっあ、あぁ……またな」
なんか言いたそうな顔してたけど……今はこっちの方が大事だし。
話ならまた今度聞くことにしよう。


「(……お前が浦佐のこと名前で呼ぶようになったのが一番気になるんだけどな……)」


「わりぃわりぃ。じゃあ行くか」
「うん」
学校終わったばっかだってのに、もう空は暗くなりつつある。
外で部活やってる運動部連中は寒いわ暗いわで大変だろうな〜と、心の何処かで思いながら亜矢と学校を後にする。
ま〜俺には関係のないことだけどね。
「今日もこれからバイトなんでしょ? いつもいつも大変だね」
「まぁな〜。でもつまんない訳じゃないから苦痛でもなんでもないさ」
最近の恒例ごとになりつつある事。
俺がバイト先に行くまでの間、一緒に帰ること。
その時たまにだけど亜矢は店によってコーヒーを飲んでいく。
もうマスターともすっかり打ち解けたようで、にこやかに談笑する事だってある。
…ネタが俺のことばっかってのは勘弁して欲しいけどな。
「なんか、アレだよね」
「ん?」
「こうやって軒を連ねてるお店中がクリスマスモードだと、もう目の前なんだなって思っちゃう。小さい頃は24日がすんごく楽しみだった事、今でも覚えてるなぁ」
「はははっそうかもな。亜矢って子供の頃はサンタって信じてた派?」
「うん。さすがに今は何ともないけれど…子供の頃はイブの夜って寝れなかった事、けっこうあったよ。興奮してたんだろうなぁ。水沢君は?」
「俺? 俺はダ〜メ。幼稚園くらいまで。小学校の頃に親がこっそり置いてるの目撃して以来覚めました」
「あらら……」
クリスマスムードで賑わう商店街を、これまたクリスマストークしながら歩いてる。
そうだよな、明後日はイブなんだよな。
去年は何やってたかな……あ、バイトだ。
どうせ一人でいるのもなんだから〜と、確か朝から最後までいた覚えが。
マスター苦笑いしてたっけな。
「おっもう着いちまった。やっぱ話してるとあっという間だな〜。今日はどうする、コーヒー飲んでいくか?」
「ん〜、じゃあ今日もお邪魔しちゃおうかな」
「邪魔でもなんでもないって。大切なお客様でございますから」
カラン、と言うベルの音と共に店の中に入る。
相も変わらず、今日もお客さんは誰もいない。
お客と勘違いしたマスターが営業スマイル見せたのが少しだけ笑える。
「うーっす」
「おぉ聡。今日もガールフレンド連れて来店か? まったく見せ付けてくれるよ。はっはっは〜」
「だからぁ。――ってのはもう言い疲れました」
「ん、そうか。こっち的にはいつもって感じがするんだけどなぁ。んじゃ、今日も頑張りますか」
「了解。じゃあ着替えてきます」



着替えてから戻ってみると、マスターと亜矢がカウンター越しに話をしていた。
これはいつものことだからいいけど……こっちを見て笑うのはなんでだ?
「おいおい、俺がどうしたか?」
「ううん。なんでもないよ。ねっマスターさん」
「おうよ〜」
「なんだよぉ。すっかり仲良くなっちゃって。悪巧みまでされちゃかなわんぞい」
「ふっふっふ〜」
「ちょっと亜矢ちゃんに聡のこと教えてあげただけさ。問題ない」
「いや、こっちは問題大ありだっての。マスター一体何話したんですか? ヘンな事は止めてくださいよ」
「さて、それはお客様とのヒミツでしてなぁ」
「そういうことですっ」
「俺一人のけ者〜」
「まぁまぁ、そうガックリするな。どうせお客も来ないし、聡もコーヒー飲むか? 暖まるぞ」
「この前みたいにバイト料から引くとか言うんじゃないでしょうね〜?」
「いやいや、そんな事はないぞ?」
「最後の疑問系がすっごく気になるんですけど!?」
こんなやり取りもいつもの事。
俺も浦佐の隣に座るとマスターからコーヒーを貰った。
うん、やっぱりここのコーヒーはいつ飲んでも美味いな。
「なんだか最近この時間は本当に誰も来ませんよね。何もしてないのにバイト料をもらうのがちょっと悪い気がします」
「ならやってない分は差っぴくか?」
「いえいえ、ありがたく頂戴しますです」
「うふふっ」
「亜矢も笑うな〜」
「そういや、明後日はイブだが……どうするんだ? 休み、入れておくだろ?」
「え? 休みですか? なんで―――」
「おいおい、ここまで来て休まないってのはナシだぞ聡。まさか亜矢ちゃんを一人にするんじゃないだろうな〜?」
「「えぇっ!?」」
素っ頓狂な声を上げる俺ともう一人……亜矢。
「えっ、て。まさか決めてもいなかったのか?」
「いや、決めるとかそんなんじゃなくて……」
「じゃあ決定。聡、24と25はオフな。これ絶対」
「は、はぁ……」
「なんなら年末と年始も休んでいいんだぞ?」
「か、考えておきます……」
「んむ。吉報を待ってるぞ。さて、ここで二人に急な事を伝えなければならないのだ。実は今日は―――――」



もうすっかり暗くなった道を亜矢と二人で歩いていく。
アレには本当に驚いた。
まさか急用が出来るとは…。そういやこの前も早く終わったような気が。
これも偶然かな?
とにかく、30分くらいしか店にいなかったけど本日のバイト勤務は終了した。
今はその帰り道と言うわけ。
「30分だけだぞ? バイト時間。自給半分しか貰えないじゃん!」
「あはは……でも、マスターさんちゃんと1時間分は出すって言ってたしいいんじゃないのかなぁ」
「嬉しいような……ちょっと複雑だな。まぁ、こうして帰れるわけだからヨシとしよう」
「うん。そうだよ」
「にしてもさ、さっきは一体マスターと何を話してたんだ? 気になってしょうがない」
「あ、それはねー……そのうち分かるかもしれない?」
「え、何で疑問系?」
「まだ確定したわけじゃないから……だから、そのうちなの」
「はぁ、何かよく分かんないなぁ。でもまぁそのうちに分かるなら」
「うん」
とは言うものの、なんだろうかねぇ。
深く気にする事じゃないけど、どうしてか気になってしまう。
「……いよいよ明後日、か」
「うん、明後日だね……」
「亜矢さ、明後日って…ヒマ?」
「うん。ヒマ、だよ」
「そうか……」
「………………」
なんか、急に会話が止まった。
言いたい事、あるはずなのに喉から出てこない。
「ねぇ、水沢君」
「…?」
「ホント、あっという間だったよね」
「え?」
「まだ知り合ってから1ヶ月と経ってないのに、もうこんなに仲良くなってる。それに呼び方とかも……あ、イヤだからって言ってる訳じゃないからね。うん。私は、嬉しいんだよ」
「あ、亜矢?」
「あ〜、だからその……う〜」
「……ぷっあははは!」
何も言ってないのに最後のあたりでオロオロする亜矢を見て、思わず笑っちゃう。
「も、もう〜。笑わないでよ!」
「――あ、いや。すまない。表情がコロコロ変わるもんだから可笑しくてつい」
「け、結構真面目に話してたんだからねっ」
「分かってるって。笑ってすまなかった。じゃあ俺も、ちょっと真面目な話を」
「…え?」
「あさって」
「…明後日?」
「――――明後日……予定、空けておいてくれるか?」



………………
いよいよ、か。
さっきは雰囲気からあぁ言えたけど、今考えてみると緊張してきた。
亜矢もきっと、分かってるんだと思う。
でないとこんな事、了解しないはずがないし。
まさか、たった1ヶ月弱の間にこんなになるとは……当初、思いもしなかったな。
学校でぶつかって、知り合って、話して、仲良くなって、出掛けて……
最初はなんとも思わなかったけど、会ってるうちに、話してるうちに、気になるようになってきて。
学校からの帰り、いつもの場所で別れるのがちょっと寂しく感じたり。
気が付けば、亜矢のことを視線で追っていたりもした。
俺、亜矢のこと……好きなんだと思う。いや、思うじゃなくて、好き。
マスターも、きっとその事を分かってたからあんな事を言ったのかも。
だから亜矢のことを一人にしていいのかって…。

頭の中、さっきからいろんな事が巡り巡ってる。
2日後……俺は―――――







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