Snow White


#7 亜矢







水沢君…
私、本気にしてもいいんだよね…?






「亜矢……明後日、予定空けといてくれるか?」

水沢君のあの言葉。
さっきからずっと頭の中で繰り返されてる。
予定、か…。
そんなの、始めから何も入ってない。
あえて言うなら家族と過ごすって言うくらいで、大切な人と過ごすような事は……。
私、今まで男の人苦手だったもの。
それなのに、今は気が付けば普通に話せてる。
もちろんこれは水沢君だけで、他の人とはまだ話せないけど…。
どうしてかなぁ、水沢君だけは緊張しない。
自分でも驚いちゃうくらい。
12月24日、クリスマスイブ。
いよいよ……今日なんだね。
「お〜い、亜矢ぁ」
「……えっ?」
目の前で手を振られてハッとなる。目の前にいるのは……美香。
「やっと復帰したか〜。人の話は聞かないとダメだぞっ」
「あ、ごっごめん。ちょっとボーっとしちゃって」
「やれやれ〜。頭の中はもうすっかり水沢君でいっぱいと言うわけね」
「えぇっ! そ、そんな事ないってば〜」
「嘘言わないの〜。さっき小さい声で呟いてたでしょう。『水沢君…』って」
「う、うそ……出ちゃってたの?」
「あらら、まさかと思ったら本当だったとは」
「み、美香ぁ」
これが悪気なくてやってるんだから怒るに怒れない。
あうぅ…。
この前水沢君と一緒に出かけた日以来、事あるごとにどうだったの?と聞いてくる美香。
なんでも私のことがすっごく心配とかで…。
『亜矢の恋が実るかどうかを見守るのが私の使命!』
――って普通に言うんだもん。
「いよいよ学校も終わりだし、そんでもって今日はクリスマスイブ! 亜矢は勿論予定入ってるんでしょ?」
「あ……その、一応。水沢君が空けておけって」
「よし!」
まるで自分のことのようにガッツポーズ。
そ、そこまで喜ばなくても…。
当事者の私より美香のほうが期待してるような気が。
「これで亜矢にもやっっっっっっっっっっっっと、春が来たわね。おめでとうっ」
「おめでとうって言われても……まだそうと決まったわけじゃあ」
「あのね亜矢。クリスマスイブに男が予定を空けておけと言えばそれはもう他に何があるって言うの。 何もなければそいつは気がないか、本当のバカなのかのどっちかよ」
「は、はぁ」
「あぁ、私にもそんな日が来ないかなぁ」
今度は美香が一人の世界に……

学校がクリスマスモードに包まれる。
誰も校長先生とかの話は聞いてないね。
みんなこの後のことで頭がいっぱいだろうから。
水沢君は、今どういう気持ちでいるんだろう…?
私と、同じ気持ちなのかな…?
緊張と不安が入り混じったこの気持ちを。

考え事をしてるうちに集会も終わって、あっという間に今年の学校生活が終わった。
クラス中もう開放感に満ちた感覚とクリスマスの事で盛り上がってる。
友人同士で集まって遊ぶとか、恋人持ちの人はそのことに関して。
さっさと帰っちゃった人もいる。
みんなそれぞれの思いを胸にこれからを過ごそうとしてる。
そして私も……
「……亜矢」
その時水沢君が私のところにやってきた。
いつものどこか眠たそうな感じじゃない、真剣な表情をしてる。
心臓が一つ大きく鼓動を打った。
「今日、空いてるか?」
「もちろん…空いてるよ」
「じゃあ……夕方の5時、この間の公園に来てくれるか?」
「……うん」
「それじゃその時に」
「あっ……」
今日は一緒に帰らないみたい。
そうだよね、緊張しちゃって……しゃべれないよ。
私も、きっと何も話せないかも。
「あれあれ? 亜矢、水沢君と一緒に帰らないの?」
「うん……また後でね」
「あら〜そうなの? 私てっきり学校帰りかと思ったのになぁ」
「学校帰り?」
「うん。実は去年そうやって結ばれた先輩がいてね。だから亜矢と水沢君もそうかなって」
「そうだったんだ…」
「2年じゃ結構有名らしいよ。隣の席の知り合いから始まって、今では恋人らぶらぶだって。どこか似てるよね。亜矢と水沢君にさ」
「そ、そう?」
「うん。 さてっと〜。じゃあ私達も帰ろうか」
いつもは水沢君と帰ってるから、美香と一緒に帰るのは久しぶり。
昇降口から空を見れば、今にも雪が降りだしそうな色をした雲が徐々に空を覆い始めていた。
朝まで、晴れてたのに。
「こりゃあホワイトクリスマスも夢じゃないかもね。風流〜」
「積もるかなぁ」
「雨が降らなければ後は量だけ……たくさん降れば積もるかも」
「雪、積もるといいなぁ。クリスマスに雪が降って積もったらきっといい事あるよ」
「そうね〜。あぁ、私もこんな良き日に良い人が現れないかなぁ」
「あはは……」
「亜矢にはもちろん幸せになって欲しいけど。私も幸せに入りたいよぅ」
「ねぇ、美香」
「ん〜?」
「私……幸せになってくるね」
「ぐはぁ〜! あ、亜矢にノロケられたぁ!」
「うふふっ冗談だよ」
「冗談に聞こえないのよ〜。あ、でも絶対に冗談にしちゃだめよ。そんな事したら怒っちゃうからね」
「美香……」
「絶対に、亜矢が言ったとおり幸せになりなさいよっ」
「…うん」
「よし! それでこそ私の親友だぞ」
頑張れ! と言わんばかりに美香がにっこり笑った。



カッチコッチ……
時計の針が進まない。
さっきから時間を気にしてばかり。
何かしようにも、すぐに気分が乗らずに終わっちゃう。
そわそわ……そわそわ……
何も手に付かず、部屋の中をあっちに行ったりこっちに行ったりせわしない。
自分でも分かってるんだけど、でも落ち着かないんだよ。
心臓がドキドキ言いっぱなしで…。
プルルルル……プルルルル……
『亜矢〜、お母さんちょっと手が離せないから電話に出てもらえる?』
「は〜い」
台所からお母さんが忙しそうに言った。
電話、誰だろう。
「もしもし、浦佐ですが」
『あっあの〜。えっと、水沢と申しますが、亜矢さん…は、いらっしゃいますでしょうか?』
「えっ…?」
水沢…くん?
どうしたんだろう。
「あ、水沢君? 私、亜矢だよ」
『えっあ、亜矢なのか?』
「うん」
『そうか〜。あぁ緊張した。女の子の家になんか掛けた事ないから何て言ったらいいのか分かんなくなっちゃってさ。ははは……』
「それで……どうしたの? 電話掛けて」
『あ、その事なんだが……悪い、時間変更』
「…えっ?」
…変更…?
『ちょっと消化しきれてない用事があってさ。それが終わんないと向かえないんだよ。だから……悪い! 終わり次第電話するから!!』
「そっか……残念だけど、中止になったわけじゃあないんだよね。それなら大丈夫。待ってるよ」
『本当にすまん。じゃあ、また後で掛けるから…』
「うん」
『それじゃ』
「また、後でね…」
……時間。延びちゃった。
水沢君の言う消化しきれない用事って、なんだろうなぁ。
どれくらい…かかるんだろう。
はぁ、それまで何をやってようか。
この何もかもが手に付かない状態……。
外見たって、寒いのは当たり前としても、曇ってて暗くなってるぐらいしかないし。
う〜……

「――――はい、完成! 亜矢、クリスマスの料理できたわよ〜」
お母さんの声が聞こえてきたのは6時を回った頃。
水沢君からの電話は……まだこない。
「やっぱり1年に1回しかない行事だし、奮発しないとね」
「お母さん、頑張ったね〜」
「もちろんっいつも以上に手を入れてみました。お父さんもうすぐ帰ってくるって言ってたから、準備して待ってましょう」
「は〜い」
料理を運んだり、お皿を出したり、こうでもしてないと時間が進まない。
準備が出来たところで、ちょうど良くお父さんも帰ってきた。
今までならこれで準備万端! なんだけど、今年は……
水沢君…。
電話、まだかなぁ。
「それじゃ、みんな揃ったところで、お夕飯にしましょうか」
「おっ美味そうだな。さすがクリスマスだ」
「亜矢も、こっちいらっしゃい」
「う、うん」
「では、さっそくいただきま―――――」

プルルルル……プルルルル……プルルルル……

ガタッ!!
で、電話だ!
自分でも信じられないくらいの反応速度で受話器にとびついた。
「も、もしもし!?」
『あっ夜分遅くすみません。あの〜』
「水沢君!?」
『うわぁ! え……亜矢? 亜矢か?』
「うん、そうだよ」
『あぁ、ちょうど良かった。用事の方やっと今終わったんだよ。だから今から来てもらえないかって』
「うんっこの間の公園だよね。すぐに行くよ」
『了解。俺の方が先に着くと思うから、待ってるよ』
「急いでいくね…うん、それじゃ」
カチャ

ついに……きた。
さっきまで落ち着いてきていた心臓が再びドキドキ言い出した。
…ととっ、そんなこと言ってる場合じゃない。急がないと!
「お、お母さん!」
「どうしたのそんなに慌てて……?」
「私ちょっと出かけてくるね」
「え…これから? ご飯はどうするの」
「一応、残しておいて」
「どこに行くの?」
「あー、とっ友達の家! 急に呼ばれちゃったから……」
「…そっか。呼ばれちゃったなら仕方がないわね。あんまり遅くに帰ってきちゃダメよ」
「うん、分かってる。ごめんね、お父さんもっ」
「夜遊びだけはしないように。それだけだ」
「ありがとう。お父さん。じゃあ、行って来ます!」
しっかりコートを着て、マフラーを首に巻いてから、今にも雪が降り出しそうな空の下へ飛び出していった。







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