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Snow White
#6 聡
このデート、最終的には俺の不覚で終わりを迎える事となる。 でも、浦佐はなんだか嬉しそうな顔をしていた―――― pipipipipiッ―― 起床を促す電子音。 手探りで音源を探し出して、少しだけ強めにてっぺんを叩いた。 音が止まって、ふぅと一息ついた瞬間にふとあることに気が付く。 「俺……寝れてんじゃん」 そういってまぶたを開くと、朝日の入り込む部屋が見えた。 カーテン越しに見えるベランダの手すりでは、スズメがピコピコ跳ねながら動いている。 朝、なんだな。あんだけ寝れないとか言っておきながらも、結局は寝ることができたんだ。 まだ眠いといいたげな体を強引に起こしてベットを降りる。 途端に身体全体を冬の冷気が包み込んだ。 「うぅ……さみぃ!!」 やっぱ冬だ……早いトコ着替えて暖房効いてる居間に行こ。 もう親も起きてるはずだし。 クローゼットに掛けておいた洋服にさっと着替えて部屋を出て、寝巻きを洗濯籠に放り込みがてら歯磨きと顔洗い、髪の毛のセットを済ませる。 冬場は水が相当に冷たいから身体の芯から目が覚める。 最後に水で冷えた手でパンッと両頬を叩いて洗面所を後にした。 「なんだ聡、えらくめかしこんでんじゃん」 居間に顔を出すと、俺の格好を見て兄貴が言った。 うちの兄貴、名前は仁(ひとし)と言って、俺とは三つ歳が離れてて現在大学二年生。 普段は下宿してるから家にいないのに、冬休みだ〜とか言って最近はここに取り憑いてる訳だ。 「なんだ、デートか?」 イヒヒっと笑うような感じで聞いてくる。あぁ、そうだよそうですよ。 「まぁ、そんなとこかな〜」 「うほっマジで? 母さん聞いたか〜今の聡の発言」 「え〜? なんだって」 「聡がデートだってさ」 「あらっそんなの初耳。やったわね聡」 「なにが『やったわね』だよ……とにかく、朝飯にしてくれ〜」 「なんだから精の付くもんでも食わせれば?」 「そうねっ何があるか分からないし」 「こら! なに二人してヘンな事言ってやがる。母さんも兄貴の言う事気にしないでいいからメシ〜!」 朝から疲れさせないでくれ…… こっちは結構緊張してて大変なんだから。 「聡にも彼女か〜」 三人で朝ご飯を食べてる時に、再び兄貴が話を戻した。 ちなみに、我が父は先月から単身赴任で家を空けております。 「彼女とかそんなんじゃないって。そう言う兄貴こそ、和美さんほぉって帰ってきていいのか?」 「和美? 和美となら昨日会って来た。んで、今日も午後から会う予定」 「うちに来てもらったら?」 「そうだな。久しく呼んでないし」 母さんの提案にあっさり頷く兄貴。 和美さんとは、兄貴の彼女……と言うかもうフィアンセですな。 結婚はまだだけど婚約してるって言う状態の人。 家族揃って仲良くなったため、そう言うこともすんなり通ったわけだ。 二人はまだ大学生だけど、在学中に結婚もありうるかもしれない。 「あぁ、そうだ聡」 「なんだよ」 「初めてなんだろ? デート」 「だからデートって程じゃ……まぁ、ね」 「あんまり形ぶるなよ。形式にこだわり過ぎて面白くなかったら意味ナシだからな。普通でいけ普通で」 ……さ〜すが経験者。威厳と言うか、貫禄が違うね。言葉の重みっていうの? 「……サンキュ〜」 悪くはないけどまた何を言われるか分からないから、がっとご飯を放り込むと最後の準備のために部屋へと戻っていった。 ありがとな、兄貴。 そして、時間が迫ってきた。 「行ってきます」 ドアを開けて、外の地面を踏んだその時から……もう始まっているんだ。 雲一つない良い天気だけど、季節が季節だからやっぱり寒い。 ズボンのポケットに両手を突っ込んで心の中で寒い、と呟きながら待ち合わせ場所である公園へと足を進めていった。 公園では噴水だけが音を立ててその存在感を示していた。 だ〜れもいないな。 浦佐もまだ来てないみたいだ。 時間は……9:45。 少し早く着いたか。 噴水の隣にある時計の柱に身体を預けて、浦佐を待つことに。 さて、浦佐はどんな格好で来るだろうか? 当たり前だけどガッコの制服でなんかじゃ来ないだろう。 私服……寒いから上着は着てるよな。 コート系かな。ジャケットの襟によく付いてるフワフワしたのがあると良さげだよな。 「…………ん……」 上はトレーナ系よりシャツ系のほうが俺は好きだな〜。あの清楚に見えるような所がいいんだ。 「………くん……」 ズボンかスカート……俺的にはスカートがいいけど、寒いからズボンかなぁ。 あぁ、でもやっぱりスカート系が…… 「……わくん……」 そんでもって…… 「…な…わ……ん……」 それが……ん? 誰か俺のことを呼んでいるような…… 「みなさわくん!」 「えっ?」 ふと前を見えると、女の子が立っていた。 眉尻が上を向いていて、何となく怒っているような、そうでないような表情をしている。 はて、どっかで見た事あるような? と言うか見ていますね。 いつもと髪形違うけど目の前にいるのは今日の待ち合わせ相手。 「浦佐?」 そうだ。 やっぱり浦佐だ。 「髪型……違うな」 「うん、ちょっと変えてみたんだ。似合ってる……かな?」 「ま……まぁまぁ、かな」 「うわ〜、結構厳しいね」 ホントは心臓ドキドキ言ってます。 見慣れた普通に下ろしたやつじゃなくて、首元で結んでなんか尻尾に見えるようなその髪型。 「尻尾か?それ」 「尻尾じゃないって〜」 「今度から浦佐は、"尻尾"と命名しよう」 「もう〜っ」 「はははははっ……それじゃ、行こうか」 「……うん」 俺たちは公園を後にして、一路駅前へと。 そういえば、ハンカチとかの類ってどんな店に売ってるんだろうなぁ。 サラリーマン向けのはシャツとか売ってるところに一緒にあったりしてるけど、そんなのじゃいいハズがない。 う〜ん、何処かなぁ。 「水沢君、どうかしたの?」 「え?」 考えてるのが表情に出たのか、浦佐が心配そうな顔でこちらを見ている。 「いやね、ハンカチって何処に売ってるんだろうなぁってさ」 「別にハンカチにこだわらなくてもいいよ」 「でもなぁ……」 「お昼ご飯でもいいし」 「あぁ……それでもいいなら――って、そっちの方が高いじゃん!」 「あ、バレちゃった? あはは〜っ」 いかん、危うくより高いものを……でも、いいかもな。 「そうだな〜。昼飯ってのもいいかもな」 「えっ?」 「ここに来てなんだけど、予定変更な。浦佐が欲しいものを買うという事で」 「えっえぇ?」 いきなりなものだからどう反応していいものか分からない状態らしい。 でも、決めたものは決めた〜んだぞ? 「と言う事で決定! さ、まずは駅前にれっつらご〜だ!」 「えっ? あ、ちょっと水沢君〜」 駅前の商業施設群。 やっぱりと言うか人が多い。 時期が時期だからか、横断幕から看板までクリスマス一色に染まっていた。 何処からか流れている音楽も、そんな感じ。 「人が多いね……」 「そうだな。はぐれないようにしないと、な」 「あっ」 それは本当に無意識でやった事だった。 ギュッ 俺は自分の左手で浦佐の右手をそっと握った。 突然なものなのでビックリしている浦佐。 俺も、手を繋いでから気が付いた。 でも今更手を離すのは何かイヤだし……ここは気が付かないフリをしてそのまま歩いていった。 「今何か欲しい物ってあるか?」 「う、うん……これと言って欲しい物ってないんだよね」 「そうか〜……じゃあテキトーに見てまわるか」 女の子でいっぱいのアクセサリーショップやファンシーショップ。洋服屋など、いろいろ見てまわった。 初めのうちは人が多いから心なしか静かだった浦佐も、今では笑顔を見せて俺を先導するようになっている。 「次はこっちのお店に行ってみよっ」 「そんなに慌てるなって」 「あははっ、水沢君遅いぞ〜」 ……なんか、勝手な想像かもしれないけど。 周りから見れば、俺たちって……その、恋人同士、に見えるの……かな? 本通りから一つ外れた路地で偶然見つけた雰囲気のよい喫茶店。 そこで俺たちは昼ご飯にした。 「静かでいいところだね」 「そうだな〜」 たった道路一つ外れただけでここまで静かになるとは。 まぁ、騒がしいファーストフード屋よりはよっぽど落ち着いてていい。 ゆっくり話すこともできるし。 「本当はハンカチを買いに来たはずなのに……ごめんね」 ゆっくりと視線を落とした先にあるもの。 それはさっきまで歩き回った成果たちだ。 流石に両手いっぱいにぶら下げるほどの量じゃないけど、半ば俺が押し切るような形で買ってあげた。 きっと浦佐はその事を言ってるんだ。 「なぁに気にするなって。この間の手当てのお礼ってやつだよ」 「でも……全然合わないよ」 「そうか? 俺はまだ足りないと思うけどなぁ」 そう言うと、浦佐に向かってニッと笑いかけた。 本当は親切にお金は必要ないものだけど…… 俺の気持ちっていうのかなぁ。 「水沢君……」 「ここは一つ、折れてはくれないものだろうか」 「……わかったよ。でも、ここのお勘定はワリカンだよ?」 「ははっ分かってるよ」 「うん!」 その後、締めくくりにコーヒーを飲んでその店を後にした。 「なんだか、歩き疲れちゃったね。少し休もうか?」 「おいおい、今昼にしたばかりだろ」 「そうじゃなくて、どこかでのんびりしたいなって。 私に……任せてくれる?」 「え、あぁいいけど」 「ありがとう。じゃあこっち」 先ほどの流れからか、彼女は自然に俺の手を掴んだ。 そして向かった先は――― 「河辺?」 「うん。よくここに来るんだ」 浦佐に連れられてきたのは、駅から家に向かう途中辺りにある川縁。 増水からの決壊を防ぐために高くなった道の部分だ。 その斜面の草地に今腰掛けている。 ……よく考えたら意味の分からない説明だなこれ。 まぁ、察して知るべし、と言う事で。 「ここね、結構人通りも少なくてのんびりするにはいい所なんだよ。それにね、夕方ここから大きな夕陽が見えてきれいなんだ〜」 「そうか〜……確かに良い所だな。こりゃあのんびりできるわ」 「でしょ?」 「買い物とかもいいけど、まったりするって言うのも忘れちゃいけないな〜……」 ふふっと笑う浦佐。 朝は寒かった外も、午後になるとそれなりに暖かい。 小春日和、とまではいかないけど今日は気温が高い方だな。 あ〜……なんか気持ちよくなってきたぞ。 それに……眠気も。 ま〜さか今になっていつもの眠気がくるとはね。 こののんびり感に刺激されたかなぁ。 ……まぶたが制御できなくなってきた。 「私ね、学校じゃああいう感じだからお友達も少ないでしょ? だから学校帰りとかによくここに着たんだ。 そして、夕方になるまでいろんなことを考えてるの」 「……そうか〜」 「だから、嬉しかったんだよ。水沢君と仲良くなれたのは。初めのうちは男の子って部分で緊張とかもしたけど、今はもう慣れた」 「………………」 「美香にだって、最初はあんな感じだったんだから。それから徐々に慣れていって、今では一番のお友達」 「………………」 「そして――――あれ、水沢君? みなさ――――」 俺の記憶はここで途切れてしまう。 でも、どこかから浦佐の声が確かに聞こえたような気がした。 それが何の意味だったかは分からないけれど。 ――――私も、同じだよ。 気のせいか、何かに包まれたような感じがした。 「…………ん……」 「……あっ目が覚めた。 おはよ〜、水沢君」 「えっあぁ……おはよう……って、え?」 すぐ目の前に浦佐の顔が。 そして鼻につく草の匂い。 な〜んか視界が横になってませんか? それにおはよう? 空はもうオレンジ色……って、あぁ!? ひ、ひょっとして俺――― 「ね……た?」 「だから、おはよう。だよ」 「あ、あわわわっ。ご、ごめん!」 何一人で寝ちまってるんだよ! あー大失敗だぁ……。 「そんな謝ることないよ……」 「で、でもさぁ」 「私は、十分楽しかったよ」 「そ、そうか?」 「うん♪」 すぐ目の前で浦佐が満面と言っていいような笑顔を見せた。 なんの混ざりっ気のない純粋な笑顔が。 思わず……こちらが恥かしくなってしまうくらい。 「今日はすっごく楽しかった。ありがとう、水沢君」 「あぁ……俺も、楽しかった。でもごめんな。最後の最後で寝ちまった」 「ううん。私は全然気にしてないよ。それに……水沢君の気持ちもわかったし」 「……え?」 「う、ううん。なんでもない。それじゃあね」 バイバイ、と手を振って浦佐と別れた。 な、なんだ……俺の気持ち? よく解んないなぁ。 でもまぁ、浦佐が良かったんならいいか。 今度出かけるときは、絶対に寝ないようにしよう! 俺はそう心に強く決めた。 Next...→ Back...→ |