Snow White


#6 亜矢







あの場所で言われた事。
そこで分かった自分の気持ちは――――






……朝。
日の出とともに起床、と言うわけにはいかなかったけどちゃんと目は覚めた。
カーテンを開くと眩しいくらいの日の光が。
天気は……上々。晴れて良かったぁ。
「………………」
――っとと、天気のよさに見とれてる場合じゃなかった。
準備とかしないとっ。

先に洗面所で歯磨きとかを済ませてから、また部屋に戻って今度は着替え。
う〜ん、何着ていったらいいかなぁ。
今までこういうの経験した事無いからどんな格好していったらいいか全然分からない。
まさか余所行きの服なんて着るわけにいかないし……かといって全くの普通って言うのもヘンかも。
とりあえず……普通でもそれとなく良さそうに見えるのにしようかな?
クローゼットの中から、それっぽい服を引っ張り出して着ることに。
大丈夫、だよね。
さっと着込んでまた居間の方へと向かう。
「おはよ〜」
「あら、随分早いのね」
「うん、ちょとね〜。それよりお母さん、この服装ヘンじゃないよね?」
「服装? 一体どうしたの急に。どっか出掛けるの?」
「うん」
「ヘンじゃないけど……珍しいわね。亜矢が服装で聞いてくるなんて。さてはオトコでも出来た?」
「そっそんなんじゃないよ! ただ……一緒に出かけるだけ」
「やっぱりオトコじゃない。あんなにヤだって言ってても、亜矢も年頃の女の子よねぇ」
「オトコオトコって言わないでよ〜」
「じゃあ彼氏」
もうっお母さんたら……
そんなんじゃないんだってば。
彼氏とか……か。
「それじゃ、ちゃ〜んとおめかしして行かないと」
「お化粧とかは好きじゃない」
「そんな事言っててもあと十年もしないうちに嫌でも使うようになるんだから。リップくらいはつけていったら?」
「リップクリーム?」
「色つきの持ってるでしょ」
あ……そうだ。
前に美香と一緒に出かけたときに買ったやつ。
『女は色気よ!』なんて言って結局買わされちゃったけど……こんな所で使う機会がくるなんて。
「せっかくのデートなんだから、さりげなく、そしてバシッと決めていきなさい。 ほら、そんな赤くなってたらいざ本番でどうするのよ」
お母さんに言われた一言で、昨日の事とか思い出しちゃって恥かしくなってしまった。
「しょうがない。初陣の亜矢ちゃんにお母さんが一肌脱いで上げましょう!」
なんだか急に意気込んだ母に背中を押されて、私はお母さんの部屋である和室へと連れ込まれた。
入った瞬間に鼻に抜ける畳の匂い。
なんだか心なしか落ち着くのは日本人だからかなぁ。
「その子は同じ学校の子?」
「うん。同じクラス」
「そっか……じゃあ髪型とかも見慣れてるわけだから変えましょう〜♪」
「……ねぇ、お母さん」
「ん〜?」
「ひょっとして、楽しんでる?」
恐る恐る聞いてみると、やっぱり予想通りの答えが。
「あら、当たり前じゃない。こういうのは楽しんでやらないと意味ないのよ。もちろん、ハメを外すとかじゃないからね」
「うん……」
「いっその事悩殺でもする?」
「お母さん!」
それから、姿身の前でいろいろされる事しばらく……
目の前に映る私の姿。
なんか……気合入ってるなぁともとれるし、それでいて気取ってるわけでもない加減のおめかし姿。
「う〜ん、お母さん昔思い出しちゃったなぁ!」
満足そうな顔で私を見るお母さん。
何でも私は若い頃の自分にそっくりだそうで。
まるで自分の事のように丁寧に教えてくれた。
「それで、時間とか決めてるの?」
「うん。十時にちかくの公園で」
「それじゃ、あんまりのんびりしてられないわね。急いで朝ご飯用意しちゃうから、ちゃんと食べていくのよ」
「は〜い」
そして約束の時間は近づいてきた。



「それじゃ、行って来るね」
「帰りは遅くなってもいいからね〜」
「んもうっそんなことじゃ…………行って来ます」
パタンとドアを閉めてデートへの第一歩。
……わ、何の躊躇もなく自然に言えちゃったよ。
お母さんの気分に乗せられちゃってるなぁ。
でも、おかげで全然緊張とかはしてないからむしろ感謝。
いつも通りにいけそうだよ。
休みのせいか人通りの少ない道を歩いて待ち合わせ場所へと向かう。
時計を見ればもうすぐ約束の時間を指そうというところ。
水沢君は……もう来てるかな。
それとも、私が最初かな。
あと、どんな格好でくるかな。
いろんなことを考えているうちに、公園の入り口に着いた。
休みなのに人気のない公園……の中に、いた。一人だけ。
噴水の隣に立っている時計のところに。
間違いない、水沢君だ。
ゆっくりと彼が居るところへ歩いていく。
サアァーっと聞こえる噴水の音。
「水沢……君」
そっと声をかける。
けれど返事が返ってこない。
「水沢君……?」
水沢君は地面の方を向いたままじっとしている。
「水沢君」
「………………」
「み〜なさわくん」
「………………」
「水沢く〜ん」
「………………」
なんで……返事してくれないの。
ひょっとして、私の事気が付いてない?
「ねぇ、水沢君ってばぁ〜」
「………………」
……むうぅっ!
「みなさわくん!」
「……えっ?」
ハッとした感じで顔を上げる。
やっぱり、気が付いてなかったんだね。
「浦佐?」
ハイ。浦佐ですよ〜。
「髪型……違うな」
いつもと違う髪形に真っ先に気がついてくれた。
少しはにかむようにして、似合うかな? って尋ねてみるとまぁまぁかな。とキツめの感想。
さらには"尻尾"なんて言われてしまった。
尻尾はないんじゃないかなぁ。
ちょっとがっかり。
でも、最後に小さい声で『でも……似合ってるぞ』と言われたから十分満足ですっ。
そんなこんなで、私達は公園を後にして一路駅前へ。
ハンカチを買うという事で街に行く今日のお出かけ。
何処に売ってるか分からないと言う水沢君に、
「別にハンカチにこだわらなくてもいいよ……お昼ご飯でもいいし」
って、冗談半分で言ったんだけど……
「……そうだな〜。昼飯ってのもいいかもな」
……えっ?
「ここに来てなんだけど、予定変更な。浦佐が欲しいものを買うという事で」
あ、あれれ。ホントに変わっちゃったよ……
聞いた水沢君よりも、言った私方が驚いちゃった。
それから歩く事十分くらい。
駅前のお店がたくさんある所に着いた。
うわ〜、お休みの日だから人でいっぱい。
しかも私たちと似たような年齢の男の人と女の人が寄り添って歩いてばかりだよ。
その中に混じってる私と水沢君。
何か、恥ずかしいなぁ。
知ってる人とかに会っちゃったらどうしよう……
そんな時に水沢君が、はぐれないようにしないと……と言うと私の手を掴んだ。
えぇっどうしよ、私……水沢君と手繋いでるよ。
すごく自然に繋いだから、私もまさか離すなんて事できないからそのままに。
余計に恥かしさがこみ上げてきちゃったよ。
顔の辺りが熱みたいなのをもって少し熱い。
「今何か欲しいものってあるか?」
「う、うん……これと言って欲しい物ってないんだよね」
「そうか〜……じゃあテキトーに見てまわるか」
「うん……」
そう言ってまず最初に入ったのはアクセサリーショップ。
身に付ける小物とかいっぱい売ってるところ。
こんなの私が付けてもきっと似合わないかも……
「そう言えば、浦佐ってピアスしてないな」
「えっあ、うん。まだそう言うのつけたこと、ないし……それに」
「それに?」
「私がつけても、似合わないんじゃないかなって……」
「そうか? 結構似合いそうだけどな」
「う、うそだぁ」
「いやいやいや、確かにこういう派手っぽいのは似合わないというよりは浦佐向けじゃないと思うけどさ」
水沢君が指差したのは赤とか青の色の石みたいなのが付けられてる少し大きめのピアス。
うぅ、確かにこう言うの付けたくはないかも……
「こういうの小物系って言うのか? これだったらいいとおもうんだよな〜」
それは小さな金色の三日月がぶら下がってるようなピアスだった。
確かに、さっきのと比べれば小さいし、派手って訳でもない。
「浦佐が付けたら似合うぜ〜きっと」
「えっ?」
「あっ……いや、そう思っただけだけど……ぜ、絶対似合うよ」
「そ、そうかな……」
「………………」
「………………」
な、何だか恥かしくて言葉が続かないよ。
……ホントにこれ付けたら似合うの、かなぁ。
水沢君がそう言うなら、買って……みようかな。
「じゃ、じゃあ……これ、買っちゃおうかなぁ」
「そ、それがいいって。うん。耳に穴開けなくていいんだから更に良し」
「うん……」
やっぱり、こう言うのはまだ恥ずかしい…。
さっきから心臓がドキドキ言いっぱなしだし。
もっとシャキっとしないと……あうぅ。
「それならば会計は任せろ。俺がしてくる」
「えぇっい、いいよ……」
「浦佐は気にしなくてOKOK。勧めたのは俺なんだから、ここは言いだしっぺが買うのが筋ってもんだろ。だから、任せておけって」
そ、そういうものなのかな…?
誰も触ってないのが良いなって言って列の奥のほうから同じのを取り出して、水沢君がレジへ走っていった。
なんか、悪い事しちゃったかな。
ハンカチだったのに違うものになっちゃって。
「お待たせ。はい」
にっこり笑って包装されたピアス渡してくれた。
その表情から見る限り、とっても嬉しそう。
なのに私が浮かない顔してたら悪いよね。
「うん…ありがとう」
「いやいや、このくらいどぅってことないぞ。さぁて、じゃあ次はどこに行くか〜」
――そうだね。せっかくこうして来たんだし……私も、楽しまないとね。
さぁ、次はどこに行こう…?
人で賑わうお店をいろいろ見て回る。
一軒一軒見てるうちに、気が付けば私も緊張が解けて自分から先導するようになってた。
まるで恋人同士のデートのように。
今は違うかもしれないけど、そんな気分に浸っちゃっても…イイよね?

それからしばらく見て回って、ふと時計を見てみるともうそろそろお昼をさそうとしていた。
お昼ごはんとか、どうしよう。
「なぁ浦佐。腹減らないか? ここらで休憩がてら昼にしようぜ」
「うん。そうだね。私もお腹空いちゃった」
「だろだろ? 意見が一致したところで早速食べるところを探そうと思うんだが、さて何処にしよう」
「今の時間だと、何処のお店も混んじゃってるよね」
「あぁそりゃ他の奴らだって腹減るだろうし。どっか空いてる店ないものかな?」
「う〜ん……」
「これ食べたいって希望、ある?」
「ううん。特にはないよ。でも、お腹に溜まっちゃうのはイヤかも。午後疲れちゃう」
「だよなぁ。俺もそう思うし。む〜、何処かイイ店……ん、あれってひょっとして……」
そこは表通りから一つ奥に入った小さな通り。
さっきまでの賑やかさが嘘のようにのんびりした空間が広がっていた。
たった一つ通りが違うだけで、こんなに違うんだ。
寂れてるとか、そんなんじゃなくてね。
穏やかな時間が流れてるような、そんな雰囲気。
その一角に建っている一軒の喫茶店。
「ここならいいんじゃないか。人もそれほどいないし」
「うん。いいところ見つけちゃったね」
「だな。まさかこんな所があるとはな……歩いてみるもんだな。よし、早速入ってみるべ」
カランとベルの音が鳴ってお店の中に入った。
木を基調としたデザイン。
スピーカーから流れてくる静かな音楽は、外の通りを含めてその穏やかな雰囲気を出していた。
「静かなところだね」
「あぁ、なんか俺がバイトしてる所に似てる気がする。ホッとするような感じって言うのかな」
「うん」
二人掛けの席に座ってそれぞれ食べたいものを注文。
喫茶店だけあってサンドイッチとかそういったメニューが豊富。
頼み終わってから、水沢君が『パンじゃ腹は膨れねぇっつの』って嘆いていた。
でもしばらくして出てきたものは意外と大きなサイズ…。
「こりゃあ……思ったよりもデカイな」
「そう、だね」
「この値段でこの量とは……恐るべしだ。ウチのマスターにも見習わせなきゃ」
「あははは……」
パンだとお腹が膨らまないと言っていた水沢君も驚いたみたい。
さっきに続いてここでもお金を払うよ、と言った水沢君。
さすがにここまでは悪いからワリカンにしてもらった。
嬉しい事は嬉しいけど、あのピアスの他にもいくつか買ってもらっちゃったし…と言うことで。

そんなこんなでお店を後にしたんだけれど、私には一つ目的があった。
それは、水沢君をある場所へと案内する事。
足休めにもちょうどいいし、きっと水沢君も気に入ってくれるはず。
だから、ちょっと恥ずかしいけど……彼の手を引いて歩き出した。
その向かう先、私が良く行く場所へ。

「はいっ、到着」
「河辺?」
「うん」
私が良く来るのはこの街を流れる川のへり。
良く学校帰りに寄っている。
何か考えたい時とか、一人になりたい時は決まってここ。
人通りも少ないから寝転がる事だって出来るんだよ。
「お買い物もいいけれど、ゆっくりする事も大事だからね」
「あぁそうだな〜」
座っていた姿勢からゴロンと寝転んだ水沢君。
のんびりできるって言ってるから気に入ってくれたかな?
良かった。これでつまんないなんて言われたらどうしようかと思ったよ。
でも、あんまりのんびりできるものだから――――
「………………」
「あれ、水沢君?」
返事が聞こえないと思ったら、水沢君…眠っちゃってる。
無理もないかな? こんなに暖かいし。
私も眠くなっちゃいそう。
「も〜う、眠っちゃうなんて酷いぞ〜」
気持ちいいのは分かるけど、置いてけぼりは酷いな。
それに、気持ち良さそうに寝てる所見せられちゃうと起こせないよ〜。
「……私も、寝転がっちゃおうっと」
いつもやってるみたいに、私も水沢君の隣に寝転がる。
今日は暖かいから気持ちいい。
「……ゴメンね、今日はいろいろ買ってもらっちゃって。でも、私すっごく嬉しかったよ」
「………………」
「それでね。わた―――えっ? わ…」
返事の返ってこない状態なのに、突然両手で引き寄せられた。
す、すぐ近くに水沢君の顔が…。
「水沢……くん?」
「………………」
「えっ!?」
微かに、それこそ目の前にいないと聞こえないくらいの声。
そのすぐ近くにいた私にはハッキリと聞こえた。
きっと、寝ぼけてるんだと思う。
でないとこんな事……だけど、だけどね。
わたしは――

「――私も、同じだよ」

そう言って私からも水沢君の体をギュッと抱きしめた。



帰り道。もうすっかり空もオレンジ色になって、気温もだいぶ低くなってきた。
なんだか必死に水沢君は眠ってしまった事を謝っていた。
きっとさっきの事は覚えてないんだ。
ちょっと残念だけど、ホンネを聞けたからいいかな?
「今日はすっごく楽しかった。ありがとう、水沢君」
「あぁ……俺も、楽しかった。でもごめんな。最後の最後で寝ちまった」
「ううん。私は全然気にしてないよ」
「そうか。ホント悪いな。ありがとう」
「それに……」
「そ、それに?」
「――――水沢君の気持ちもわかったし」
「……え?」
「う、ううん。なんでもない。それじゃあね」
「あっ浦佐――――」
十字路に差し掛かって、お互い道が違うからここでお別れ。
ちゃっと残念だけど……でも、今日はこれで十分。
また明日、学校でも会えるんだし。
それに……これ以上長くいたら私、顔が赤くて話しにくくなっちゃうよ。
だって、ね?
本当の事言うと、実はさっきからずっと心臓がドキドキいったまま…。
私、本気にしちゃっても……いいよね?





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