Snow White


#5 亜矢







それは、水沢君の一言から始まった。
『今度の日曜……ヒマか?』






「それは絶対にデートの誘いよ! デートの」
「ちょっ美香……声が大きいってば」
「これが騒がずにはいられますかっての。あの亜矢にも遂にこのときが……」
美香がギュッと拳を作りながら天井の方を向いて、るーっと涙を流している。
「それに、デートって事じゃないと思うよ。ハンカチ買いに行こうって言ってたし」
「え、ハンカチ?」
「ほら、この間の事」
「……あっあの事。す〜っかり忘れてたよ。あっはははは」
「もう……」
「ところで。当然、OKしたんでしょうね?」
ずずいっと身を乗り出して尋ねてくる。
そ、そんなにならなくても……
「う、うん」
「…………」
なんで腰のほうで小さくガッツポーズしてるの……
美香、なんかヘンな事たくらんでない?
と言うか絶対そうだよ。目が楽しそうだもん。
「で、日にちは? 明日? 明後日?」
「そんな早くないって……今週の日曜日」
「日曜か……無難なところね」
今度はポケットからメモ帳を取り出して何かを書き込んでる。
ねぇ、頼むからヘンな事だけはしないで、ね?
「それじゃ、頑張んなさいよ〜」

「―――って事があったの」
「八色……はぁ」
学校からの帰り道。
さっきの事を水沢君に話してみた。
最近途中までだけど、一緒に帰ってるの。
「場所は教えてないよな?」
「うん」
「じゃあ安心だ」
ホッとしたように言った。
「日曜まで感づかれないようにしないとな」
その言葉に、私も無意識に頷いていた。



そして時は流れて土曜日。
もう前日にまで迫っていた。
ちょっと心臓がドキドキ言っている。
今まで男の子とどこかに出かける、なんてした事無いからどうすればいいか分からないよ〜。
だからと言って美香に聞いちゃったらまた冷やかされるし……服装とか、いつものでいいのかな。
お化粧とか……しなくってもいいよね。
本当に、普通どおりで……いいんだよね。
「亜矢〜美香ちゃんから電話」
そんな時に掛かってきた美香からの電話。
どうしたんだろう……?
「――もしもし?」
『あっ亜矢? どう、元気?』
「うん、元気だけど……どうかしたの?」
『明日はデートなんだから緊張してないかなってね』
―――えっ?
「な、なんで知ってるの!?」
 まさか……水沢君喋っちゃったのかな。
『あら、やっぱり明日なの? ちょっとカマ掛けてみたんだけど。図星とはね』
「え……カマって……」
『まぁ、結局は亜矢本人の口から聞けたからね』
「あ、あう……」
『そ〜んなヘンな声出さないの。私は邪魔したりしないから楽しんでらっしゃい』
「美香……」
「それとも、邪魔して欲しい?」
「う、ううんいいよそんな事! うんっ。間に合ってるから全然問題ないよ!」
『ちょ……亜矢?』
「それじゃ!」
『えっ。あ―――』
ガチャン。
まだ何か言いたそうだったみたいだけど、切っちゃった。
美香だって、本当に邪魔するとかしないと思うけど、でも……
本当は違うかもしれないけど、水沢君はそんな事思ってないかもしれないけど。
明日は……生まれて初めての、デートだもん。
ふ、二人で……出かけるんだもん。
あっあれ。どうしちゃたんだろう。なんでこんなにムキになってるのかな私……。
こんな事、いつもは無いのに。
きっと、いろんな事考えすぎて頭が疲れちゃってるんだね。
そういう時は早くお風呂に入って寝ようっと。
一旦部屋に戻って、着替えを持って脱衣所へ。
お風呂場のドアを開けると、湯煙が私を包み込んだ。
冬場だから少し熱めのお湯がなんとも心地いい。
はぁ〜っと思わず声が出ちゃう。
「いよいよ……明日、なんだね」
水沢君は、今どんな気持ちなんだろう。
私と……同じ気持ちなのかな。
そうだったら嬉しい、のかなぁ。
なんだか良く分からない。
良く分からないけど、そうだったらいいなぁなんて思ってしまう。
「私、どうしちゃったんだろう」
その事ばかりが頭に浮かんでは消えていた。
明日の事、水沢君の事。
もうお風呂でゆっくりしてるどころじゃなかった。
結局ベットに入るまで頭を巡っていて、他の事に手が回らないほど……
「神様……どうか明日上手くいきますように―――」


最後に小さく呟くと、私はまぶたを閉じた。
初めてのデートは、もうすぐそこまで迫っている―――





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