Snow White


#4 亜矢







いつか、私は悟る。
この日自分の中に生まれた感情を――――






「う、浦佐?」
そこにいたのはやっぱり水沢君だった。
私もビックリしたけど、彼のほうもビックリしていた。
不意をつかれたように、目をまん丸に開いて。
「やっぱり水沢君だ。どうしたのこんな所で。アルバイトか何か?」
「あぁ、うん。そうなんだよ。浦佐は買い物か?」
「うん。お母さんに頼まれて」
買い物袋に目を下げながら袋を少し揺らせて見せた。
「何のお店で働いてるの?」
「喫茶店みたいな所さ。良かったら少し寄ってくか? もうすぐ終わりだけどコーヒーくらいは奢るぜ?」
「えっ……そんな、いいよ」
「この寒い中親の手伝いをしてる良い子には褒美を上げないと、な?」
「あ〜、ひょっとして子供扱いしてる?」
「違うって、本心からだ」
「じゃあ……お邪魔しちゃおっかな」
「そうしてけ」
そして、さっと掃除を終わらせた水沢君についていって、コーヒーをご馳走してもらいました。

「ご馳走様でした」
私がコーヒーを飲んでいた時、ちょうど私服に着替え終わった水沢君が出てきた。
お客さんももう誰もいなくて、ガランとした店内に私と水沢君とマスターさんの三人が残った。
「ホントにいいの? ご馳走してもらっちゃっても……やっぱり私払うよ」
「いいって、気にしなくて。 ……それよりも、浦佐この後何かあるか?」
「え? 家に帰るけど……」
「少し、時間あるか?」
「無くはないけど、どうして?」
「もう外は暗いだろ、だから送っていこうと思ってさ。そのついでに話でもできたら、と」
「うん。私は構わないよ」
そう言うことで、水沢君と一緒にお店を後にした。
冬の夜ってやっぱり寒い! どこからか吹いてくる風が、頬や足の肌が出ている部分をチクチクと刺してくるような感じ。
「もう真っ暗だね。さっきまで空がオレンジ色だったのに」
「冬だもんな。夕方なんてすぐ暮れちまうさ。……お〜、さぶっ。ったく、今日も冷えるなぁ」
水沢君も、ブルッと身震いすると両手をポケットに突っ込んだ。
「ごめんね。送ってもらっちゃって」
「浦佐は何にも気にするな。これだって俺が言い出したんだから」
「うん……でも、ありがとう」
ニコッと笑って言うと、彼は照れくさそうに後頭部をかきながらそっぽを向いてしまった。
「いや……別に俺は。あ、あぶないだろ? 女子の夜の一人歩きって」
「まだそんなに時間遅くないよ」
「でも時間なんて関係ないだろ? 暗い事には変わりないんだから。それに、何かあってからじゃ遅いんだぞ」
「……そうだね。でも、ひょっとしたら水沢君のほうが危ない要因だったりして?」
「う、浦佐!」
「あははははっ。冗談だよ〜」
「…………………………」
ちょっとしてやったり、かな。
なんだか遊んでみたくなっちゃったからついからかってしまった。
……こんな事、ついこの間まで考えもしなかったのにね。
そんな私の考えを呼んだかのように、水沢君もまた、
「浦佐……変わったな」
と言った。
「……え?」
「いや。浦佐、変わったなと思って。初めて会った時なんかどもりっぱなしじゃなかったか?」
「あ―――そうだったかも」
確かにそうだった。
もともと男の子が苦手だった私。ほとんど話した事ないのに、今じゃなんの支障もなく水沢君と話してる。
何でだろうなぁ。
「やっぱり、ヘンかな」
「え、どうして?」
「最初はあんなにどもってたのに、コロッと変わっちゃうのは……ひょっとして迷惑だった?」
「そんな、とんでもない!」
「きゃっ」
突然大きな声で否をとなえたので驚いて彼を見た。
「あ、ゴメン……でも、俺は今の浦佐のほうがいいと思う。おどおどしてるより、今みたいに笑ってる浦佐のほうが」
「水沢君……」
「おれ、ヘンな事言ったかな……?」
「ううん。何にも」
「そっか。それなら良かった。ははは……」
そのまま少しの間何も話さずに歩いていく。
私も……たぶん水沢君も、照れくさいからかもしれない。
「……あ、もうここまででいいよ。私の家……すぐそこだから」
「そ、そうか」
「よかったら上がる? お茶くらいなら出すけど……」
「えっ……いやいや、こんな時間にそんな事できる訳ないだろ」
「そうかなぁ」
「そうなの! それじゃ、また学校でな」
「あ、うん。それじゃ、またね」
そう言って水沢君と別れて、すぐ前までの道のりを一人歩く。
あ〜あ、すっかり遅くなっちゃった。
これもバッタリ会った水沢君の誘いに乗っちゃったからだね。
なんて言ってみたり。
ホントは……ちょっと緊張したけど、嬉しかった。
美香の言ってたワクワク感って、こういうことを言うのかなぁ。
そんな事を考えながら歩いていたら、ちょっとの筈なんだけど、どこか道のりが長く感じた。
もう少し……水沢君と話がしたかったなぁ。





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