もし……
もしも僕が明穂に想いを伝えるのが……


if  しも日がれならば
〜 If it is clear weather tomorrow 〜



思い返せばあの日…。
暑いあつい夏の日のこと。
僕に突然家族が増えた。
一人は同い年の女の子で、もう一人は二つ下のやっぱり女の子。
家族になった過程は一言じゃあらわせないけれど、僕たち三人が家族以上に、また兄妹以上の関係になるまで時間は掛からなかった。
家族でも兄妹でもない不思議な関係。どの枠にも当てはまらないほど僕らの関係は深かったともいえよう。
とりわけ……同じ年だった明穂とは一緒にいる時間が多かった。
まさか、最初に同じクラスになってから今までずっと同じクラスになろうとは……当時は思わなかったはずだ。
半月生まれが早いだけでやたらとお姉さんぶる。
学校では才色兼備の優等生。でも一度家に帰れば対照的なワガママっぷり。
まー、僕もつばさもずいぶん振り回されたな。
でも……不思議と嫌な感じはなかった。
離れたいとも思わなかった。
だからかな。ここまでずっと一緒だったのは。
気が付くと、僕の中で明穂はとても大きな、大切な存在になっていた。
あるとき、今の関係・今後の関係に踏ん切りがつかなかった僕に言ったつばさの一言。
あの一言が僕にとっての決定打になって、明穂に想いを伝える原動力になったのだが……

「ねえ、明穂……」
「どうしたの、カズちゃん」

原動力となったのだが……こう目の前にしてみるとやっぱり決心も揺らぐわけで。
呼んでみたは良いものの、次の一言が出てこない。
つーっと、首元に汗が一筋流れていく。
なんていうか、ねぇ? 今更って気もしなくもないような……

「……カズちゃん?」
「えっ? あ、あぁ……ええと…、その……」
「こら! カズちゃん!」

急に飛んでくる明穂の怒号。
いや、そこまで怒ってる訳じゃないけどね。

「言いたい事があるなら、ちゃんと目を見て、ハッキリ話しなさい」

毎度毎度、事あるごとに明穂はそういってる。
確かに大事なことだけど、今はちょっと自信がない。

「わ、分かってるよ……あ、明穂」
「うん?」

いつまでも…逃げてられないから。
覚悟を決めるしかなかった。
だから、しっかりと明穂の目を見て、短く言った。

「話したい事があるんだ。だから、ちょっと付き合ってくれ――――」


――こうして、今に至るわけである。

「…話って? 改まってどうしたの?」

放課後……校舎の裏側である我らが園芸部部室前。
前を歩いてた明穂が切り出した。
もともと僕が言い出したんだから本当なら先に言わないといけなんだけど。

「あ…うん、ええとね…、その…」

「……?」
「あー、だから…、大したことじゃないんだけど」

やっぱり、いざってなると言い出しにくかったな。
覚悟を決めたって……こう……うん。
ああもう、僕の意気地なし。
こんなんだからまた……

「こーら! カズちゃん!」
「え…、な、なに?」
「さっきも言ったでしょ? 言いたいことがあるなら、ちゃーんと目を見て、ハッキリ喋ろうね?」
「……う、うん」

こんなんだから、また明穂に言われるわけで。
でも、やっぱり恥かしくなってきたもんだから……目が逸れてしまう。
呆れたのか、それとも事情を察してくれたのか。
ふっと明穂が小さく笑うと、諭すような感じで言ったんだ。

「ねぇ、カズちゃん」
「な、なに?」
「おやつ、食べに行こっか――――」


………………
あれ?

「ん、どしたのカズちゃん?」

反対側に座った明穂が首を傾げてる。
その手に持ってるのはてりやきバーガー。
やっぱこれよねーと言って迷わず買ったものだ。
実はこの類が一番カロリーが高いんだがなぁ。
……とと、そんなこと考えてる場合じゃない。

「ねぇ、明穂」
「なに?」
「どうしてまたハンバーガー屋なの?」
「えっ? なんでって、食べたかったから。てりやきバーガー。ちょうど値引きセールやってるんだもんラッキーよね」

そう言うと、美味しそうにかぶりつく。

「いや、そういうことを聞いてるんじゃなくて……」
「カズちゃんは食べないの? 暖かいうちが美味しいんだから」
「う、うん…」

包み紙を開いて一口かぶりつく。
普通のバーガーだけあって味も至ってシンプル。
個人的にはこれが一番いいと思うんだけどなぁ……
……いやだからそうじゃなくって。
おかしいな。どんどん自分で考えてるのより外れてる。

「食べ終わったら近くのお店とか見て回ろ。買わなくちゃいけないものもあるし」

………………

「そう言えば、この間如雨露壊れちゃったんだっけ。新しいの買ったほうがいいかな?」
「壊れたと言うよりか明穂が投げてこわs」
『何か仰って?』
「…壊れたら買わないとな。水がやれなくなる」
「そうよねー。あ、ついでに肥料とかも買おうかな。カズちゃん荷物持ちヨロシク」
「……はい」

………………

「やっぱり、もうすぐ夏休みなんだからそれっぽい事もしたい!」
「それっぽい事って?」
「うーんと、お庭で流しそうめんとか?」
「誰が作るの……」
「じゃあ、家の中で流しそうめん」
「だから誰が作るの」
「じゃあじゃあ……」
「ついでに言うと、台所も洗面所もお風呂場も却下」
「もーカズちゃんのいけず。ケチ。もっと話に乗ってくれたっていいじゃないのよぉ」

…店の中で暴れないでください。
目立ってるから。

「あー、分かった分かった。親父が暇なときにでも作ってもらおうか」
「おじさん忙しいんだから迷惑かけられないわ。だからカズちゃんが頑張ってね」
「……え?」

………………
気がつけば、手には荷物が。
空も色が変わり始めてるじゃないか。
僕、なにやってるんだろう?
確か……たしか、明穂に想いを伝えようとしてたはずじゃあ?
なのに……

「はぁー。久しぶりに見て回ったなぁ。こうしてカズちゃんと二人だけで出かけるのって、珍しくない?」
「まぁ……ね」

そりゃ、いつもはつばさもいたから。
こうして明穂と二人なんてのも久しぶり。

「ねね、私、最後に行ってみたい場所があるんだけど」
「え、どこ?」
「んとねー。カズちゃんの宝物。もう一回みたいな――――」

夕方の空が一層深まる。
オレンジ色の光を浴びた街を眼下に見下ろしながら、僕と明穂は立ってる。
秘密基地に近づいてくるにつれて、僕たちの会話は少なくなった。
先を歩く明穂の顔は見えない。
なんだか、ふとさっきの部室前のことを思い出す。
あの時もこうして明穂が前にいたっけ。

「やっぱりいい眺めね〜」
「でしょ?」
「うんっ。今日は楽しかったなぁ。カズちゃんは?」
「僕? そうだな、僕も楽しかったよ」
「さいごに、こうしてカズちゃんの宝物を見て終わるって言うのも、いいかもね」
「………………」

宝物、か。
確かに、初めて明穂たちをつれてきた時は僕はそう言った。
ここから見える景色が……って。
でも……

「…カズちゃん?」

僕が急に黙ってしまったから変に思ったのかな。
明穂がこちらを見た。
ちょうど、僕からは夕日を背にした明穂が見える。
おもわず見とれてしまうくらい。
それくらいに、今の明穂は綺麗に見えたんだ。
だから……本当に自然に言葉が出たんだ。

「……ねぇ、明穂」
「な、なに?」
「あのね…。すごく今更なんだけど…。ここから見える景色が宝物って……あれ、嘘なんだ」
「…………はい?」
「ごめん、ここで見た一番綺麗なものが宝物って意味で……言葉を削ってた」
「こ、ここで見た一番のものって、姫宮の街じゃないの?」
「うん」
「じゃ、じゃあ一番綺麗なものって、宝物って……」

明穂の言葉を待って、すぅっと小さく深呼吸。
そしてゆっくりと吐き出すように言った。

「明穂のことだから。ここで見た、僕の一番の宝物って、明穂のことなんだ」
「えっ……あ、あの……それって……カズ…ちゃん?」
「ねえ、明穂」
「は、はい……」
「何て言うか……そろそろどうかなって。その…お付き合い、とか」
「………………」

返事が返ってこない。
ちょっとだけ、不安になった。

「ね、ねぇ……カズちゃん。今の……笑うとこ?」
「いや、極めて真剣かな」
「そうなんだ? ふーん……その割には素っ気なさ過ぎると思うけどなー」
「…ごめん」

今の僕にはこれが限界です。

「照れてる?」
「照れてる」
「そっか……一応確認するけど、今の、告白よね? カズちゃんは、私と恋人同士になりたいってことよね?」
「まぁそういうことになる……かな? ごめん…疑問形にして。自分で言ってなんだけど、実感がわかなくて」
「ぁは、そりゃそーよね。私だって……ずっと前から、私とカズちゃんは付き合ってるのかなって思ってた」
「明穂……」
「もしかしたら今と変わらないかもしれないけど……付き合ったら、もっともっと、楽しくなる?」
「そうなればいいなって、思うよ」
「もっともっと、幸せにしてくれる?」
「そうしたいとは思ってる。……ずっと前から」
「じゃあ、今すぐそうしてほしいな」
「え…?」

い、今すぐ……って?

「今すぐ、幸せな気持ちにさせて。まだ……聞いてないよ? 私が聞きたい言葉」
「う、うん……」
「言ってくれないと、カズちゃんと恋人同士になんてなれないよ?」
「………………」

ちょっと困ってしまったけど、もう戸惑うことはない。
確かに、明穂に言わなくちゃいけない言葉は言ってないもの。
ゆっくりと……大きな深呼吸。それから――――

『僕は……明穂のことが好きだよ』




...To be continued?

PCゲーム『もしも明日が晴れならば』より

も ど る