物事はいつだって唐突だ。
あの時、俺が時空を超えた旅をした時も。
そして……
『張政! 来たよ〜!』
そしてまた、この時も。
―遙夏―
人生、意外とどうにでもなるもんだ。
今日ほどこっちに帰ってきてからそう感じたことは無い。
予備校へ夏期集中講座を申し込みに行った。行く時は一人だった。
なのに家に帰ったら二人になった。
しかもそれはオンナだった。
いやー、普通に考えれば家族はパニくるだろ。
しかも、何の躊躇いも無く『俺の嫁』と言われたら。
なのに俺の親父とお袋ときたら、
『ふっ……』
『この娘が前に言ってた……ぶフフフ』
とお互いに何やら含んだ笑いをするし。
と言うか、本当にそれだけだった。
果たして俺の言葉を本気にとったのか冗談にとったのかはわからないけど、とりあえずは認めてもらえた"らしい"。
部屋に戻っても、なんだか浮ついたようなふわふわした感じ。よくわかんね。
「…………なぁ」
俺はさっきっから隣にいて離れない、しかももっともコイツには無縁な態度をとり続けてるやつに声をかけた。
「お前、さっきからずっと静かだな」
「…そりゃ、そうよ」
ハルカの倭語が耳に懐かしい。
一年聞かなくても何を言ってるのかが完璧に理解できる。
地球上でこの言葉を綺麗に翻訳できるのって、ひょっとして俺だけじゃ?
「ここが、張政の言ってた"ミヤザキケン"って言うの?」
「ああ」
「ここが、未来なんだね……まだよく分からないや」
なんだか、俺が最初にあっちに行ってた時みたいだ。
あの頃も全てがよく分からないかった。
と言うか、理解するまえに次から次に事件が起こってたから、理解する暇も無かったって言うべきか。
不安とかそういうのも、別のものが上回ってそれどころじゃないし。
過去と現代を何度も行き来して、その度にいろいろと調べてここまできたんだ。
ハルカだって、今はきっとそうだろう。
分からないことが大いに違いない。
今度は俺が、いろいろと教えてあげないと。
俺は床に座り込むと、足を広げて太ももの辺りを軽くたたいた。
なんの事だか分かったらしいハルカが少しだけ顔を明るくすると、俺に背を向けて座った。
包み込むように両腕をハルカの腰に回して少しだけ力を込める。
久しぶりのぬくもりが、身体中を駆け抜けていった。
「あー、張政とこうするの、久しぶりだね」
「ああ」
「会いたかったよ……ずっと」
「うん、俺も」
俺たちは、長い空白の時間を埋めるかのように、しばらくの間ぎゅっとくっ付いていた。
「よく、俺のことがわかったな」
「言ったでしょ。ぜったいにあんたのところに嫁に行くって」
「道路をこっちに向けて駆けて来るの見た時はホント驚いたぞ」
「ドーロって?」
「歩いてるときもずっとあっただろ。黒くて白い線が入ってるやつ」
「あれを、ドーロっていうんだ。熱くて足が火傷しそうになったよ」
「あー、そう言えば」
よくよく考えれば、ハルカの足は当然ながら裸足のまんま。
このクソ暑いなかよく歩けたもんだ。
アスファルトが熱吸って大変なことになってるだろうに。
「こっちの事、いろいろと教えないとな。ハルカが俺にしてくれたみたいに」
「うん。教えておしえて」
「まずは言葉とか文字とか……あ、そうだ」
ふと閃いたことがあって、すぐ横に転がってたノートとペンを取るとハルカに見えるように大きく文字を書いた。
「なに、これ?」
「お前の名前」
「私の?」
「そ。ハルカって、こっちではこうも書けるんだよ」
ノート一面に書いた文字は漢字で"遙夏"
なんでこの字になったかも、もちろん意味がある。
「遥か遠い昔の、夏に出会った。だから遙夏」
「遠い昔の……夏に……」
「まあ、漢字よりかはこっちの方が書くのは簡単だけどな」
そう言って、今度はカタカナで"ハルカ"と書いた。
「あっ、こっちの方が簡単そうでいいや。私でも書けそうだし!」
人の名案をあっさり蹴りやがって……。
俺からペンをひったくって、ノートの空いた部分に書き始める。
ちょっと歪で記号っぽくなったけど、ハルカは確かに自分で自分の名前を書いた。
これが、こいつがここに来て最初に残した軌跡だった。
...To be continued?
小説『ハルカ 天空の邪馬台国』より
も ど る