名前と呼び方
「ふ〜む……」
ある日の和樹の家。
原稿が仕上がってちょいと一息吐ける…と思ったとき、和樹はふと思った。
腕を組んで、じっとある一点を見つめている。
その視線の先にあるもの―――それは、自分の恋人“瑞希”であった。
台所にて、鼻歌を歌いながら料理をしている。
そこから聞こえてくる包丁のリズミカルな音と、それに合わせた彼女の奏でるメロディーが上手くあっている。
ついこの間引越しを済ませて、晴れて同棲生活が始まった。
初日こそ何故か緊張してかしこまったりしたが、それも日をおうごとになくなってきて、今ではそれまでと何ら変わりない生活を送っている。
そして、しばらく考えていた和樹は瑞希に声をかけた。
「なぁ、瑞希」
「…え?なに、和樹」
エプロンで濡れた手を拭きながら振り返る。
その姿と言えばもうそこらへんの主婦と同じだ。
でも、和樹が考えてる事はそれではない。
「う〜ん。やっぱりそうだな……」
「どうしたの?何か用があったんじゃないの?」
「いや、別に用ってわけじゃないんだ。ただ、俺と瑞希って似てるなって思って」
「はぁ?私と和樹が?全然似てないじゃない」
「違う違う。容姿とかそんなのじゃなくて、名前だよ。な・ま・え」
「…名前?」
それを聞いて、コクンと頷く和樹。
「なぁ瑞希、俺のこと呼んでみてくれよ」
「えっうん。……和樹」
「じゃあ、自分の名前を言ってみ」
「み……瑞希」
「何か思わないか?」
「思うって……和樹…瑞希……あれ?」
どうやら和樹が考えている事が瑞希も気付いたようで、何度も自分の名前と和樹の名前を繰り返していた。
「似てる?」
「そうなんだよ。俺も今まで気付かなかったけど、俺たち2人って、名前―――
と言うよりは発音が似てるんだよな。“かずき・みずき”ほら、『か』と『み』の違いだろ?」
「ホントだ……気付かなかったな〜」
ほ〜、と感心している瑞希を見て、うんうんと満足げに頷いている和樹。
「……でもさ、和樹」
「ん?」
「それがどうかしたの?って言われちゃうと、何も言えないよね」
「あ……そ、そうだな」
「ね?」
「あぁ…」
途端に部屋が静かになってしまう。
鍋で何かを煮る音だけが、やけに大きく聞こえた。
「……ご飯、食べようか」
「そうだな。なぁ瑞希」
「なに?」
「メシ食べたら、どっか遊びに行こうぜ。俺も原稿終ったし、ちょっと息抜きだ」
「うんっ♪」
ニッコリと笑うと、再び台所へと足を向ける瑞希。
和樹も、ご飯を食べるテーブルを片付ける速度が何となく速い。
2人とも、どこかに行きたくてしょうがないようだ。
結局、これ以降は名前に関してなにも触れなかった2人だが、
この先、2人の間に生まれた子供にはしっかりと自分たちの名前から1文字取っていたのであった―――。
〜おわり〜
PCゲーム『こみっくパーティー』より
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