-+-One Day-+-
それは、和樹と瑞希が同棲を始める前―――つまり、
瑞希が通い妻をしていた頃の事である。
雲のない青空が広がっていて、ポカポカと気持ちよい日和がもうすぐやって来る春を思わせる。
その空のもとを、長い髪を横でポニーテールにした少女―――
いや、女性と言った方が正しいのかもしれない―――が歩いていた。
買い物でも行ってきたのだろうか、その手には重たそうなビニール袋が2つ。
「和樹は生きてるかな〜?私が行けなかった間、ちゃんとご飯食べてればいいんだけど……」
そんな事を言いながら歩いている。
どうやら目的地は和樹の家のようだ。
しばらく歩いていくと、和樹の部屋のあるマンションへと着いた。
中に入り、部屋の前まできて呼び鈴を押す。
ピンポーン
「…あれ?」
もう一度押してみるが反応が返ってこない。
「おかしいなぁ。出かけちゃってるのかな?」
いつも家にいるのに……と呟きながら、何となくドアノブを捻ってみる。
すると―――
ガチャッ…
「え?」
ドアが開いた。
これにはちょっとビックリしたが、はぁ〜と溜息をつくと部屋の中に入る。
「んもう、和樹ってば鍵もかけないで出かけちゃうなんて。無用心もいいトコなんだから」
そう言いつつ、靴を脱いで部屋へと上がっていく。
勝手知ったる和樹の家だ。
それも、少し前から毎日のように通っている。
今では家の主と肩をはれるぐらいに知り尽くしている。
…もっとも、それは彼女が家のことを和樹に代わって全てこなしているからだが。
「はぁ……ま〜た部屋中散らかしちゃって。本当にしょうがないんだから」
目の前に広がる光景を見てしばし絶句。
この前、せっかく2日掛かりで部屋を綺麗にしたというのに、今では前以上に散らかっていた。
何処を見ても原稿用紙、原稿用紙、原稿用紙……
それも、破れてるものから丸めてクシャクシャになっている物まで様々。
と、その時テーブル代わりに使われているコタツ付近がゴソゴソと動いた。
「え?ちょ…なに?」
「…う……ん……」
「あ……か、和樹?」
「うぅ…み…瑞希……か?」
「ど、どうしたの和樹!?どこか悪いの?ねぇ、和樹ってばぁ!」
まさか、自分が来なかった間に和樹の身になにかあったのでは!?
と心のそこから心配している瑞希。
そして、和樹から発せられた言葉は―――
「瑞希……」
「は、腹…減った……めっメシ………」
ガツガツガツガツ……
ほかほかと湯気の上がる料理を次々と口に放り込んでいく和樹。
しかし、その口のとなりにある頬は赤い手形の跡がある。
「んもうっ、あんたってホントにバカなんだから!あ〜、心配して損しちゃった」
「むぐむぐ……」
「ほら、口にものを入れながら話そうとしない。ちゃんと飲み込んでから話しなさいよ」
「……んっ。あ〜美味かった。やっぱ瑞希の作る飯は美味いな〜」
「こらっ、おだてたって何もでないぞ。私はいま怒ってるんだからね」
腰に手を当てて、“怒ってるんだぞ”ポーズを取る瑞希。
しかし、その姿とは対照的に、その顔はどことなく嬉しそうだ。
「でも和樹、なんであぁなるまで何も食べなかったの?」
「それは……もうすぐ原稿の締め切りで、あまり時間が無かったからつい2日間ぶっ通しで」
「という事は、ご飯も……」
「2日ぶり」
それを聞いて、がくっとうなだれて、はぁ〜…と大きく溜息をつく。
「ホントに和樹って、私が面倒見ないと何もできないんだから……」
「頼りにしてるぞ、瑞希」
「あのねぇ〜、……もういいわ」
これが惚れた弱みよね、と付け足す。
「その代り、原稿仕上げたら今度こそ何処かに連れて行ってよね。この前なんか、疲れた〜とか言って連れてってくれなかったし」
「わかった、分かったって。約束するよ」
「…約束破ったら、エサあげないからね」
「おいおい。俺はペットかっつの」
一頻り話した後、2人お茶を飲んでほっと一息……
いつもと同じような場面でも、この前とは少し違う。
高校からの腐れ縁と言う関係から、恋人と言う関係に変わったあの日―――
でも、特別変わったことは無かった。
唯一変わったといえば、瑞希がほぼ毎日のように和樹の家に来るようになった事だろう。
それも、朝もはよから夜遅くまで。
どちらかと言うと、自分の家にいる時間より和樹の家で過ごす時間のほうが圧倒的に長くなった。
そのまま泊まっていく事も指折り数え切れぬほど。
だからこそ……
「ねぇ、和樹」
「なんだ」
「あのさ、こうやって私が毎日来るよりもさ……その…」
「その?」
「その……一緒に住んだほうが、いいかもね」
ちらっと上目遣いに和樹を見る瑞希。
「……そう、だな。2人で2部屋分の家賃を払うよりも、2人で1部屋分の家賃を払ったほうが効率いいもんな」
「和樹……」
「おっおい、瑞希……泣かなくても」
「だって、嬉しかったから…嬉しかったからぁ。ぐすっ」
「あ〜、ほれ。よしよし」
片手で瑞希を抱き寄せて、もう片方の手で優しく頭を撫でる。
瑞希のほうも、和樹のシャツの袖をギュッと掴む。
「こんな不束者だけど、よろしく頼むな。瑞希」
「……本当に、その通りよね…でも」
そっと和樹の耳元に口を寄せて一言。
「私は、そんな和樹が……好きだよ」
―――後日、新しい環境にて2人が晴れて同棲生活を始めたというのは誰もが知ること―――
〜fin〜
PCゲーム『こみっくパーティー』より
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