・列車の中のひととき Ver.2
かつて経験したこと。
まさか、またも起こるなんてな。
それも今度は……
朝。
通勤通学客がまだまだピークの値にある時間帯の蘇我駅。
たくさんの人が行きかうホームに俺はいた。
隣には先に発車する電車が。
でも俺はそれには乗らない。
なぜなら座りたいから。絶対に。
正直言うと、今日の俺はすこぶる眠いのだ。
貴重な移動時間を睡眠に使わないでどうする!
だからあえてここは一本電車を待つ。
こうすることでちゃんと席を確保できるから。しかも一番人気(?)のある角の席。
人間ってのは不思議なもので、電車の座席はなぜか角から順に座っていく。
やっぱりアレか、隣に人が一人いないって言うのはそれだけ大きな影響力があるのか…。
………………
んな事はさておき。
俺が乗った電車は、のんびり駅に止まってることなくすぐに発車した。
『この電車は、京葉線快速東京行きです。主な停車駅の時刻を……』
すでにウトウト始めた俺の耳に入ってくる車掌のアナウンス。……女の人の声だ。
最近は結構女性の人でも車掌とかやってるらしい。すごいな。
朝からお疲れ様です……俺は、寝ます。ぐぅ。
かくして、次の駅に着くという記憶は俺の中からすっかりと抜け落ちていたのであった……
どれくらい時間が経っただろう。
ガクンと衝撃があって目が覚めた。
どうやら電車が駅に着いたみたいだ。
えと……新浦安? もうそんな所まで着いたのか。
東京まであと少しだな〜。
と、ここで俺は左肩に違和感を覚える。
いや、むしろ肩と言うよりかは左半身?
見れば、誰かが俺にもたれ掛るようにして眠ってる……
なんだろう……初めてって気がしない……
あーあれですか。これって前にあったコトと同じですか。
しかもご丁寧に今回も女の人ときてる。
軽く茶色に染めた髪の毛が目に入る。
あと見えるとすれば、やっぱりネイルアートされた爪と涼しげな白っぽい服。それと膝くらいまでのスカート。それくらいだねぇ。
…いや、マジマジと見る気はございませんよ?
んー、格好からすると俺と同じぐらいの歳の人かな?
残念ながら顔までは見えない。何故なら下を向くようにして眠ってるから。
それでも完全完璧に俺にもたれ掛ってる。うん。体傾いてるもんなぁ。
時より意識が戻って離れるのだが、またすぐにもたれ掛ってくる。
そんな事を何度も何度も繰り返してるうちに、電車は舞浜に着いた。
耳に入るはディズニーのテーマソング。
すごいなこの駅……発車ベルまでネズミで埋まってるよ。
そして朝からネズミの遊園地に行くお客さんもいっぱい♪
今日は暑いから大変そうだ。
なーんて余計なことを考えてしまう。だって何も出来ないから。
携帯電話を見ようにも、女の人が眠ってる側のポケットにある。
つまり腕が動かせない。だから見ることも出来ない、と。
どうも俺は、起こしてまで引き剥がそうとする性格は持ち合わせてないようだ。
前回もそうだったし。あーでも、これが野郎なら即座にやってたかもな?
それに……それにね。
「………………」
ここまでぐっすり寝てる人を起こすって、なんか悪い気がして…。
基本は肩にもたれ掛って寝てるのだが、だんだんそれは下がっていって、ついには二の腕や肘の辺りまで下がったこともあった。
俺は両手を膝の上で組んでるものだから、背後には多少の空間がある。
そこに割って入るように女の人の肩が……食い込む。
腕には頭。わき腹付近には肩があって、電車の揺れとともに動いてる。
なんつーか、あまりの状態に俺の眠気はすでにない。
ただ前を向いたままじっと……
気がつけば潮見を通過して、電車はいよいよ地下へと潜る。
近づく終着駅。起きない女の人。かつての悪夢が頭をよぎる。
でも今回は大丈夫だ。目的地は終点の東京。全員降りることになる。もちろん俺も、寝てるこの人も例外じゃないだろう。
だから絶対に……変なところまで飛ばされるなんて目にはあわない!
そう言うのが背景にあるからだろうか。
実は俺は最初の頃からこの状態を意外と楽しんでいたり。
まぁ滅多にない経験といえばそうだが、彼女のいない俺としてはこんな事出来ないからね…。うん。
これ嫌がるって、女の人を嫌いか、もしくは男を……げふんげふん。やっぱ止めた。気持ち悪いから。
さて、そんなコトはさておくとしても、もし東京についても起きなければ起こしてあげるべきだろうか。
でもなんかそれはちょっと……恥ずかしいというか余計なお世話というか。うーん。
結局、その人は何処から俺の肩にもたれ掛ってたのはわからないけど、
少なくとも新浦安から東京までずっと自分のホームポジションと俺の肩と二の腕を行き来してた。当然寝たまま。
東京に着く寸前に、運が良いのか悪いのか頭が離れた。
そのまま電車は止まってドアが開き、スッと俺も立ち上がることが出来た。
女の人を庇う(?)ために姿勢を変な風に傾けたから身体が……あぅ。
電車から降りるときにチラッと見たけど、その人はまだ眠ったままだった。
ちゃんと降りられるかなぁ? まさか寝たまま蘇我まで逆戻りなんてことはないよね?
そんな事を考えながらも、人の流れに乗って階段を上ってく。もう完全に見えなくなった。
背中と腰が少し痛いけど、なんだか悪い気がしない。
たまには……こんな事もいいものかな?
そんなある日の一コマだった。
掲載日:2006/06/29
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