・列車の中のひととき Ver.1
ガタンという音とチャイムがなってドアが閉まった。
やや振動があってゆっくりと加速していく。
もう夕方のラッシュが始まっている時間帯。
東京方面へ向かう列車は、人もそれほど多くない。
そりゃそうだ。東京から千葉へ人が流れてくるんだから。
流石にギュウギュウまではいかないだろう。
「ご乗車ありがとうございます。この電車は、総武線快速電車の久里浜行きです。停車駅は……」
車掌がアナウンスを始めた。
声からして若い人らしい。
夜だってのに大変だな。
ま、俺には関係ないのでどうでもいいこと。
頑張ってくれ、だ。
俺はひたすら東京を目指すから……
千葉から東京まで大体40分。
MDの電池が切れちまった今、一体何をして時間をすごせばよいものか。
ガタンゴトンと言う音をBGMにまったりと過ごすか。
どんな人が乗っているのかとヒューマンウォッチングをするか。
はたまた、ただ寝て過ごすか。
そうだな……ここは寝て過ごすか。
走る音を子守唄にして、な。
…………………
ん、ここはどこだ?
え〜っと、新小岩?
20分くらい寝ちまったわけか。
東京まであと少しだ。
起きてるかね…。
千葉を出るときは空席があった車内も、東京に近づくに連れて混み合ってきた。
会社員や学生さんで賑わう車内。かく言う俺も学生さんなわけだ。
とん。なにかが肩に当たった。
見てみると、人の頭がある。
邪魔だなぁと思い払おうとしてふとよく見る。
髪の毛を縛ってる。
少し下を見るとか細い手にネイルアートされた爪。
どこか香る香水のような匂い。
そして服装からするに……
女の人じゃん。
それも、千葉から一緒の人だ。
俺と同じで寝てるらしい。
疲れてるのか、俺の肩に当たってることも気づかずスヤスヤと寝ている。
さて、どうしたものか。
起こそうか。起こさないか。
すぐに気づくだろうと思い、ここはそっとしておく事に。
まだ東京まで時間はあるし。それに……
結構、俺の好みのタイプでもあるんだよなぁ。
ちょっと得した気分。
このまま俺も彼女に体を預けたら、周りから見れば仲睦まじい恋人同士? な〜んちゃってな。
ガタンゴトン…ガタンゴトン…
錦糸町・馬喰町と過ぎていく。
そろそろ東京だ。
けれど、彼女はいっこうに起きない。
もう身体まで俺に預けてる状態。
なんだ、完全に熟睡してるのか?
そんな事を思ってるうちに東京に到着。
一気に人が減ったと思いきや、その倍くらい乗ってきた。
ここからマジで帰りのラッシュ列車じゃん。
お〜い。俺はここで降りるんだってば。
あんたは一体何処で降りるんだ〜?
って言うか降ろしてくれ〜。
発車のベルが鳴って、ドアが閉まった。
あぁ……東京が過ぎてゆく……
彼女は、あいや、俺は一体何処まで行くんだろう?
品川から再び地上へ。久しぶり外の空気!
なんて言ってる場合じゃない。
外はもう真っ暗だ。
それに目的地もすっかり過ぎちまった!
川崎……横浜……
だんだん都会的な建物が少なくなってきた。
次は……大船か。
俺は何でまたこんな所にいるんだろう?
当初の予定ではもう待ち合わせが済んで帰ってるはずだ。
なのに俺はまだ列車に乗っている。
隣の彼女は夢の中。
もうど〜にでもしてぇ〜。って歌があったよな。
エアコンのあれ……CMで前にやってたやつ。何て言ったかな。
なんてホントにどうでもいいことを考えてしまう始末。
あぁ、んな事やってる間に大船過ぎたよ。
次は鎌倉か?
俺は大仏なんかに興味ないっつの!
「ん
ん……ぁっす、すいません…」
そんな声が聞こえてきた。
みれば寝ていた彼女が起きていた。
ペコッと小さく頭を下げている。
俺も、あっいえ……と呟く。
さすがにたっぷり寝たらしく、彼女はもう寝る事はなく次の鎌倉で降りていった。
俺も降りようかと思ったけど、一緒ってのはなんか変に感じたから降りずに次の駅まで。
久しぶりに降り立った駅は逗子駅。ここどこやねん。
東京であんなに混んでいた車内はもう跡形もなかった。
千葉を出たときより少ない……
しかもここから15両が4両になるってか。
降りた人がみな改札へ向かって、ホームに残されたのは俺一人。
誰も乗る人いないってか?
時計を見ればもう20時を回っている。
もうすっかり夜だ。
次の列車は……わ、20分もねぇや。
それまで何やってろと?
メールを見れば何通も溜まっている。
ど〜でもいい友人のメールは無視して、待ち合わせ人のメールを見る。
“…先帰ってる”
はは……もうヤだ。
結局、俺が家に帰り着いたのは23時を回った後……。
夏休み目前のある日の出来事だった。
ま、たまにはこんな経験もありかな。
掲載日:2003/07/24
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