・春は始まりの色
春が来て、
夏が過ぎ、
秋も過ぎて、
そして冬も終わり……
また、春がやって来た。
まだ寒さの残る三月の空。これから咲き始めようとする桜の木。あたしが中学を卒業したのはそんな頃。
みんなと一緒に涙を流しながら歩いた校門までの道。
泣きながらも、笑顔で写真をとった校門前。
みんな学校は違うけど、また会おうねと約束してそれぞれの道へと歩いていった。
いつも短い春休みが特に短く感じて……
ちょっとの遊びと、ほとんどの高校準備で瞬く間に時は流れていった。
新しく届いた制服に袖を通して、同じく新しい鞄を買って。
靴も、髪型も新しくして。
新しい学校生活同様、あたしも新しい気持ちで望もうとしてる。
高校って、どんな所だろう……?
センパイとか先生、怖くないかな。
クラスには馴染めるかな?
と、いろんな不安を乗せて入学式前日の夜も過ぎてゆく。
翌朝、いつもより早くセットした目覚ましに眠さから来る多少の苛立ちを感じる。
それを押しのけるようにして目覚ましを沈黙させて、のろのろと動き出した。
カーテンを両側に開いて外を見ると、絵に描いたような青空が広がっている。
…雨じゃなくて良かった。
桜が散らずにすむもの。
そのままう〜んと伸びをして部屋を出ると、朝ご飯を食べに居間へ。
朝はいつもあまり食べない方だけど、入学式とかにお腹鳴っちゃったら恥ずかしいから今日はしっかり食べておく。
ご飯を食べ終えて、ちょっとお腹が落ち着いてから再び準備再会。
洗面所に言って顔を洗って歯を磨いて、髪の毛を整えてから部屋へ戻る。
今度は着替えだ。
予めハンガーにかけておいた制服を取ってベットにおくと、パジャマを脱いで着替える。
昨日も着たけど、これを着ると改めて自分が今日から高校生なんだなぁと実感。
今日はそのスタートを切る日、しっかりやらないとっ!
巷じゃスカートの中が見えちゃうくらい短いのが流行してるけど、あいにくあたしはそう言うのに興味は無い。
なんか……ワザと見せてるような気がして。
なのにその下にジャージなんか穿いたりしちゃって。あれじゃスカート穿いてる意味が無いと思う。
だったら元から穿かなきゃいいのに……っと、今はそんなに話してる場合じゃない。
着替え着替えっと。
姿鏡に自分を映して、ヘンな所が無いかチェックチェック……うん、問題なし。
念のために下に降りてお母さんにチャックしてもらう。
「お母さん、ヘンな所ないよね」
そう言ってくるっと一回転。
スカートがふわっとなびいた。
「うん、大丈夫。しっかりやりなさいよ〜高校生」
「わかってるって。でもいいよね、歩いて通えるんだから。友達の中には電車で一時間とかいるし」
「中退とかしないようにね」
「まっかせといて!」
ブイっとピースをして、いよいよ家を出る時間。
鞄の中身をチェックして、忘れ物がないかどうか……うん、OK。
それでは、出発しますか。
「いってきま〜す」
ガチャっとドアを開けて、外に出る前に深呼吸を一つ……
一歩足を踏み出せば、本当に高校生活のスタート。
その第一歩を、いま……
タンッ
踏み出した。
途中までは中学校へ行く道と変わらず歩きなれてても、今日だけはそこは初めての道へ。
そして今まで右に曲がっていた道を、今日からは真っ直ぐ歩く。
ここから、本当に新しい道だ…。
さようなら、中学校までの道。
はじめまして、高校生の道ってところか。
高校が近くになってくると、ちらほらと同じ制服を着た人が目立ってきた。
真新しい感じのを着てるとなると、あの人も同じ一年生かな?
ちらちら見てしまうのを何とかこらえて、合格発表以来の校門をくぐる。
今度は、受験生ではなく生徒として。
この学校の凄いところ。
それはたくさんの桜の木があるところだ。
だから、この時期は桜色の道が出来上がる。
風になびいて揺れる桜の木。
はらはらと舞い落ちる桜の花びら。
そしてどこからか微かににおう桜の匂い……
あぁ、なんか……いいなぁ……
どんっ
「あたっ」
「わっ……と」
突然目の前に真っ黒い何かが広がる……ぶつかったのか、鼻が痛い。
ちょっと涙目になりながら一歩下がると、目の前に人がいた。
どうしよ……桜に見とれててよそ見しちゃった。
しかももちろん知らない相手、それも男子だし。
「ご、ごめんなさい。よそ見してて……」
「あ……いや、別にいいけどさ」
素っ気無く返してくる。
あぁ、やっぱ機嫌悪くしちゃったかなぁ。
「ど〜せ桜見てて前見てなかったんだろ?」
「………………」
図星。
こくりと頷く。
なんか上からじっと見られると怖い。
結構背高いし、先輩かなぁ。
あ〜……初日から大失敗……
「まぁ、この桜じゃあしょうがないよな。俺も同じようなもんだからいいよ。んじゃ」
「あっ……」
やっぱり素っ気無く歩いていってしまう。
俺も同じようなものだからって事は、あの人も桜を見てたって事?
男の人でも、桜見とれるんだ。
でも、この光景なら無理はないかな。
さて、初日から失敗しちゃったけどもう失敗しないようにしないと。
昇降口まで歩いていって、クラス発表の紙を受け取る。
たくさんの名前の中から自分のを見つけるの大変だけど……あ、あった。
あたしは一組か。
一番先頭のクラスだ。
よく見ると下駄箱に名前シールが張ってある。
あたしの場所はと……あった。ちょうど目線のしたぐらいの場所。
これなら靴を取るときにしゃがんだり上向かなくったっていい。
下駄箱に靴を入れて、鞄から地面に付けたことのない真っ白な上靴を取り出す。
ぱっと手から離れた上靴は、自由落下と共にそのまま地面へ音を立てて落ちた。
しっかりはいて人でごったがえす昇降口を抜けると、やっぱり廊下も人で溢れていた。
どこを見ても知らない人ばかり。
笑いながら喋ってるのは中学から一緒にきた人たちだろう。
そんな人たちを尻目に一組のクラスはすぐそこに。
緊張の一瞬。
このドアを開けたときから……
ガラガラ……
数名の人がこっちを見てる。
やっぱりというか、気になるんだよね。
どんな人が一緒のクラスなのか。
黒板に大きく書かれてる席順から自分の席を見つけて、そこへ向かう。
あたしの席はこれまたラッキーなことに一番窓側。
これで後ろだったら良かったんだけど、どうやら名前順で並んでるみたいで丁度真ん中。
席に座ると、狙っていたかのように前と後ろの人から声を掛けられる。
幸いヘンな人たちじゃなかったので、すぐに仲良くなる事ができた。
良かった、話せる人がいて。
これでいなかったら寂しいもんね。
話しているとわかった事、隣は男子の列だそうで。
黒板を見れば男子と女子が交互で並んでいる。
やがて時間が来ると、廊下にいた人とかがぞくぞく教室に入ってくる。
やっぱりと言うか何と言うか……いろんな人がいる。
さっき話してた隣に来る男子の話。
隣カッコいい人だといいね〜、と。
前後の人は、男子がきて「ビミョ〜」と言って苦笑してる。
あたしの隣はまだ来ない。
そして、チャイムが鳴ろうというときにようやくやって来たみたい。
だけどさっきからずっと話してるのであたしには顔はまだ見えない。
でも、最初に見た前の席の彼女が一言「なんか、仏頂面」と言っていた。
「やれやれ……」
その時声を聞いてハッとなる。
この声って、ひょっとして……
右を向いてみると、そこにいたのはやっぱり……
「あっ……」
「……ん? おっ……」
彼の眉根がちょっと上がった。
意外な人物を見つけたって感じだ。
でも、やっぱりその顔は素っ気無い。
「同じ、学年だったんだ」
「そっちこそ……」
「先輩かと思った」
「俺だって初めてだ」
二言三言話してると、前と後ろから「何々、知り合いなの?」と言われる。
知り合いというかなんと言うか、まぁそんな感じなのかな。
良くわかんないけど。
そう言えば、さっき気になったことを聞いてみよう。
「あのさー」
「……ん?」
「さっきさ、俺も同じって言ってたけど、キミも桜見てたの?」
「……あぁ、まぁそんなトコ。景色見るの好きなんで」
へぇ、男の子なのに景色好きなんて意外だなぁ。
「……意外で悪かったな」
「えっあ、声に出しちゃった? ゴメン、そんなつもりは……」
「いや、ただそんな顔してて」
「あら、顔に出てたか……」
「まぁ、気にしてないから」
「そういえば、名前なんて言うの? あたしは――――」
高校生活初日。
まだまだ分らない事だらけだろうけれど、こうして始まったのだった――――
掲載日:2003/04/10
改装日:2006/10/24
もどる