-+-すまいるで〜と+-+ -------------------------------------------------------------------------------- 「――うん。それじゃあね。オヤスミ」 カチャ 「……やったぁ〜」 受話器をスタンドに置いた私は、嬉しさのあまりベッドにバフッと飛び込んだ。 そして、そのまま側にあった枕を胸元に引き寄せて、ギュッと抱きしめて丸くなる。 今の私は、天に上りそうなほど嬉しさでいっぱい。 だって、明日は裕介と初めてのデートなんだもんっ。 あっそうだ、着ていく服何にするか決めないと! 枕を放り投げて、クローゼットを開いた。 いつも着ている学校の制服とか、私服がある。 制服なんて着るわけ無いんだから、私服の中から選別開始ッ! 「う〜ん。これじゃだめかなぁ?」 姿見の前で何を着ていこうかあれこれ悩んでいる私。 なかなか決まらないよう〜 裕介だったら、どんな服装だったら喜んでくれるかなぁ? そんな事を考えながらふと自分の顔を見てみると―― うわっ顔がニヤけてる… やっぱり嬉しいんだろうなぁ。 いやっ嬉しいんだよ!! 付き合い始めて初のデート。そんな事今まで経験した事無いし、男の子とどこかに行くって事も初めて。 緊張してるのに、気が付くと顔が緩んじゃう。 結局私は、一人ファッションショーを延々と続けた結果、何とか服を決めたのだった…… ――朝。 休みの日なのに、お日様と同時に起床。 実際のところ寝入った記憶が無い。 お恥ずかしながら…興奮して寝付けなかったのね。これが。 幸いな事に、目にクマは出来てない。 もしこれであったら外に出れないよ。 …さぁ、今から準備をしよう! クローゼットの取っ手に掛けられている服に手を伸ばす。 苦心の末決めた今日のための服。 白のブラウスに、チェックの入った薄い青色のスカート。 ちょっと地味かもしれないけれど、派手よりはいいものね。 それに着替えるために、私は着ているパジャマのボタンに手をかけた。 着替え終わった自分の姿を改めて姿見で見てみる。 何度か着たことある服だけど、今日に限って初めて着るみたい。 ふわっ―― クルっと一回転してみせる。 髪の毛とスカートがふんわりとなびく。 うん。ヘンなところはなし! 念入りに髪の毛を梳かして、左右前髪の一部を後ろに持っていって、リボンで結ぶ。 お化粧は、唇にほんのり色のついたリップクリームを塗るだけのナチュラルメイク。 これで準備は完了っ。約束の時間まではもう少し時間があるし、しっかりと朝ご飯を食べておこう。 デートの最中にお腹が鳴ったら恥かしいものね。 「はぁ〜」 ご飯を食べ終えて、少しソファーに座ってゆっくりとしている。 時間が近づいてくるにつれて、心臓の鼓動が早くなるのがハッキリと分かる。 誰でも初めてのデートって緊張するのかなぁ? 裕介も、今ごろは緊張してるの? 裕介――本名を“日野 裕介”と言う。 私と彼は、小さな頃からの幼馴染だった。 私の方が一つ年下で、いつも後をくっついて遊んでいた。 お兄ちゃん的存在から、恋愛対象になったのはいつの頃だろう? 日に日に裕介の存在が私の心の中で大きくなっていく… そして、ついこの間、思い切って告白してみた。 もしかしたら、何も思ってないかもしれないと言う事を承知で。 でも、返ってきた返事は考えもしない内容だった。 「――はははっ。まさか、未来に先に言われるとは思わなかったなぁ」 「…えっ?それはどういう……」 「じっ実はさ、俺も好きだったんだよ。未来の事が。それで、告白しよう告白しようって思ってたんだけど……。  思ってたんだけどなかなか勇気が出なくてさ。もし未来が俺のことを何とも思ってなかったらどうしようって。  それで…でも、取り越し苦労だったみたいだね」 こうして、幼馴染から“恋人”へと変わったのだった。 周りから見ると、変化が無いように見えるけど、心はずっと繋がっているんだよ。 ―無理して変わる事は無い― 私はそう思ってるし、裕介もそう言っていた。 でも、恋人同士になってからはじめて一緒に出掛けるから…ちょっと緊張気味。 あっ、もうそろそろ家を出る時間だ。 服に乱れは――なし。 髪の毛は整ってる――よし。 持ち物確認――うんっ大丈夫。 スマイルは――鏡に向かってニッコリ笑顔♪ うん。問題なし。おーるぐりーんごー、だよ。 「いってきま〜す」 結局誰も起きてこなかったけど、それでも挨拶をしてドアを開けた。 裕介との待ち合わせは、近くの公園。 気持ち余裕を持って家をでた。 ――でも。 「……あっ」 「…あれ?」 目の前には裕介の姿があった。 ちなみに、裕介の家は私の家のお隣… もしかして、考えてた事が……一緒? 「………」 「………」 お互いがお互いを見ながらしばらく静止。 ドキドキドキドキ… うぅ、心臓がドキドキ言ってるよ〜。 すると、裕介が『うんっ』と頷くと、私に笑顔を向けていった。 「おはよう。未来」 ――と。 だから、私も笑顔で、 「おはよう。裕介」 と返した。ちょっと顔が紅くなっちゃったけど。 「それじゃ、行くか」 「うんっ」 私の右手に、彼の左手がそっと添えられる。 あぁ、やっぱり男の人の手って大きいなぁ。 それに、何だか安心するくらい暖かい。 「どうしたんだよ。急に笑っちゃって」 「ふふっ。ううん。なんでもないよ」 「そうか?」 「うん。ただ、裕介の手って暖かいなって思っただけ」 思わず微笑んじゃうくらいに。 「裕介って、いつもその格好だね」 私は裕介の着ている服を見ながら言った。 灰色に近い黒のYシャツに、黒のズボン。 それが、いつもの裕介の服装…黒づくしもいい所だよ。 これが太ってたら似合わないんだけど、裕介はスラっとした体型だからよく似合うんだよね。 「俺のお気に入りだから。それに、未来だって同じじゃないか」 「私だってこれお気に入りなんだもんっ」 ……結局、二人とも同じってこと。 その方が肩肘張らなくてすむしねっ。 そんなことを話しているうちに、最初の目的地である映画館の前にやってきた。 人気のある映画だからもう列が出来ている。 こんなに人がいて、ちゃんと座れるかなぁ? 「人、いっぱいいるね〜」 「あぁ。でも、まだこれなら座れるだろ。ここ結構広いし」 「それにしても、よく裕介がこれ見る気になったね」 今日見る映画の内容――私が好きなコメディーの中にもロマンスとかが入ったもの。 裕介は『面白くない』っていつも言ってたんだけど、これに誘ったのは裕介。 ちなみに彼が好きなのは、アクションとかそういうの。 反対に、私も裕介もダークホラー系は全くと言っていいほどダメ。 あれ見たら私夜一人で寝られないよ。 「友達とか結構評判いいし、それで未来がこういうの好きだろ?だから、見てみようと思って」 「……途中で、飽きたとか言って寝ないでよ?」 「うっ、…善処するよ」 はぁ。 ホントに大丈夫かなぁ? 「面白かったね。裕介」 「あぁ。意外とのめり込めたよ」 裕介は途中寝ないで最後まで見ました! しかも、結構気に入ったみたい。 「こういうのも結構いい作品はあるんだな〜」 「そうだよ。だから、面白くないとか言って見ないのはダメなんだから」 「はいはい。さて、そろそろお昼の時間だし、どこかで何か食べようか」 んもうっ、しょうがないな。 でも、私もお腹がすいてきちゃったから裕介の提案に乗る事にするよ。 二人で歩きながら何処で食べようか相談。 ファーストフードって、確かにお手軽だし食べやすいけど、栄養面からすると頂けないし… 何て言っていると、裕介から『栄養士かよ……』って言われちゃった。 そうじゃなくって、本当にカロリーとか取りすぎちゃうんだよ! 野菜とか、そんなに入ってないんだから。 「未来、それなら蕎麦屋はどうだ?」 前方のお蕎麦屋さんを指差しながら言った。 ――うんっ、お蕎麦ならいいかもね。それに決定〜! 「いいよ。じゃあ行こうか」 「俺がおごったる」 「ホント!?」 「あぁ。こう言うときはそういうもんだろ?」 やったね☆ と、言うわけで二人でお昼ご飯はお蕎麦を食べる事に。 …………… そのお会計のときに、お釣りと一緒に近所でやっているらしい福引券を一枚もらった。 一枚で一回…ずいぶんお得な券だねぇ。普段なら十枚とかで一回って感じなのに。 「未来、やってみろよ」 「えっ?私が??」 こっくりと裕介が頷く。 うぅ…私、くじ運悪いんだよぉ。 今までポケットティッシュ以外当たった事がないのに… 「……」 目の前には福引の“あれ”が鎮座している。 お願い、神様……どうかポケットティッシュ以外が当たりますように… ガラガラガラ……ポトリ 『おめでとうございま〜す!二等大当たりです!!』 「やったぜっ未来ッ!!」 「えっ……えぇ?」 何が何だか分からなかった。 周りに響く鐘の音と歓声。 私……当たったの?! えっえぇぇぇぇ〜!? 「私…初めてだよ。ポケットティッシュ以外に当たったのは」 「いやぁ〜ホント凄いよ未来っ。2等だぜ、2等!温泉旅行だ〜!!」 私が当てたもの――それは、温泉旅行のチケットだった。 これがもし一等だったら海外旅行だったんだけど、文句は言ってられない。 だって、温泉旅行だよ? しかも、ペアチケット……あ。 と言う事は、ゆっ裕介と一緒にいけるって…コト? 「今日はホント凄かったなぁ」 日が傾きつつある中、私と裕介は海の見渡せる公園に来ていた。 裕介ったら、さっきからそればかり言ってる。 「せっかく当てたんだから、ゆっくりと楽しんでおいでよ」 「う、うん……その事なんだけど」 「うん?」 「え、えっと。あ、あのね?」 うまく切り出せないよぉ… き、緊張しちゃって、それに恥かしい。 一緒に行こうよ……その一言が口から出てこない。 「あの…その…い」 「い?」 「いっしょに…いっしょに…」 どうした?と裕介が問い掛けてくる。 …あー、もうっ! 「わ、私といっしょに行こうよ!」 「…えっ?」 覚悟を決めて言った。 裕介がびっくりした表情をしてる。 そうだよね。やっぱり、急にこんなこと言っても、迷惑だよね… 「…未来がそう言ってくれるのは嬉しいよ」 ダメ、か。 やっぱり謝ろ…… 「でも…」 「え?」 「でも、ほっ本当に、俺でいいのか?どうせなら、友達とか誘って……」 えっ?と言う事は…! 「ううん!違うっ違うよ!」 「うわっ!?」 「私、裕介と行きたいよ!ううんっ裕介とじゃないとイヤだよ!!」 「未来……」 気がついたら、涙を流してた。 裕介に抱きついて、胸に顔をうずめる。 こうしないと、自分の気持ち…押さえられないよ… 確かに、お友達と一緒に行ったら楽しいだろうけど、けど、私は裕介と行きたいよ。 裕介と一緒に――いたいよ… だって、裕介の事、好きだから。 心の底から、愛してるから―― だから…… ギュッ… 「あっ……」 「バカ。そんな泣く事ないだろう」 私の頭に裕介の手が触れた。 そして、ゆっくりと撫でてくれている。 「…グスッ…だって、だってぇ……」 「嬉しいよ。未来が、俺と一緒に行きたいって言ってくれて」 「裕介ぇ」 そのまましばらく、彼の胸の中で泣きつづけた。 彼に頭をそっと優しく撫でられながら。 少し経って顔を上げると、すぐそこに裕介の顔があった。 胸の中にこみ上げてくる何かを感じる。 私は、裕介に近づいていって―― …夕日に染まる公園の中で、私は初めてキスをした。 私の瞳から零れた一粒の涙が、その光を浴びてキラリと光った… 掲載日:2002/05/09 --------------------------------------------------------------------------------