・道端〜みちばた〜


「ん?」


ふと目にした先に写るもの。

長方形した紙切れ。

いや、違う。

これは……これはまさに……!!


「…い、一万円?」


頭の中でどこかのRPGで使われてそなファンファーレが鳴り響いた。

そう、俺の目の前にあるソレこそまさに学生にとっては神様的存在である福沢諭吉様でおられるではないか!

でも一体なんでこんな所に…?


「(…まてよ?)」


だいたい、こんな人通りのある所で堂々と落ちてる事自体がヘンだ。

今だって俺以外の人が歩いてるわけだし、見つけたら絶対に拾うはず。

残ってるなんてあるわけな…


まさか……ワナ!?


この一万円、実はさも平然と落ちてるように見えてこれをもって帰ろうとするとグワシャアァァァァァァン!!……てオチが付いてくるとか!?

もしくは影からヘンな用紙持った怪しい宗教関係の人たちに捕まって、怪しげな文章にサインさせられるとか!?

それともこれは警察の何かで、持ってこうとした人を現行犯で逮捕なんて事も!?


「………………」


すぐ側にある一万円と思わしき紙切れに手を伸ばしかけて固まってる俺。

風で飛んでいかないのが奇跡だな。無風でよかった。

しかし、これは本当にどうしたものか……

ささっと周りを見回しても、これと言って怪しい人影やモノは見当たらない。

見れば見るほどこの一万円が欲しくなる。

学生は例外なくビンボーだ。その中でカネ持ってるやつはバイトしてるか金持ちかだ。

俺は両者でもない。そして月にもらえるお小遣いも目の前の半分より下と言う現状…。

この好機ともラッキーとも言えるかもしれない一瞬を見逃すべきか、はたまたモノにするべきか!

う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜む…………






「ま、落ちてるのは落ちてるって事で。落とした奴が悪いやい」


欲望には忠実です…。


さぁて、思わぬ臨時収入が入ったぞ〜。

ここは有意義に使わせていただきましょうっ。

…おぉっ! 目の前の店に置いてあるものは、最新のゲームソフトではないか!!

これ欲しかったんだよなぁ。お金がなくて買えないってガックリ来てたっけ〜。

しかぁし! 今はそんな涙を呑むようなことはないッ!

我が手には最強の戦士でおられる福沢諭吉様がいる。

これなら涙を呑むどころか、ゲームが手に入り更に、もうすぐ人事入れ替えでいなくなってしまう夏目漱石さんが一人と半分手元に残るわけだ。

ふっふっふ……これは購入しないでなんとする!

神が与えてくれた好機ぞー!!!!


「!!!」


店に向けて一歩踏み出そうとした瞬間やってきた強い殺気。

それはこの店の隣から、それはもう強烈に放っていた。


ボクらの町の平和を守ってくれる正義の味方っ交番&お巡りさん〜っ。


別に俺のほうを見てるわけじゃないが、威圧感だけは本物だ。

さっき一万円拾っただけに、余計に存在が大きい……

自分で言うのもアレだが、俺は良心的な人間だ。

悪い事はした事ないし、困ってる人を助けた事もある。

そんな俺だけに、今この状況は非常〜に心が揺れる。


このまま、交番に落し物として届けてしまおうか…?

それとも、目先の欲のために無視してしまおうか…?


簡単に言えば、良心に生きるか邪心に生きるか。

い、いかん……また心が……

二つの建物を前にして足が立ちすくんでしまう。

お、俺は…俺は……一体どっちにすれば――――――――!!!!!



ガラガラガラ…

「はい〜」

「……すいません、これ――――」



「――――落ちてました」



ガラガラガラ…

『いやぁ今時珍しいねぇ。一万円拾ったって言って届けてくれる人はそういないよ。みんな知らない振りして持ってっちゃうし。キミは本当に偉い学生さんだよ』


「ふ〜っ……」


…いいんだ。これでいいんだ。

俺はやっぱり悪には走れない。

それに、落とした人に悪いじゃないか。

俺が使ってしまったら、きっと落とした人が困ってしまう。

落とした所為で何かが買えないとなってしまうかもしれない。

そんなのが自分の立場だったら……嫌だ。

俺は、一万円を拾わなかった。そう、それでいい。

もともと存在しなかったという事にしよう。

さっきまでがそうだったんだし。夢だ、夢。

じゃあな、ゲームよ〜。

さぁ、このまま家に帰るか……

きっともしかしたら、落とした人も気が付いて探し回ってるだろうし――――


タッタッタッタッタ

ガラガラガラ…

誰かが大急ぎで交番の中に入っていった。



『す、すみません!!お金、落としちゃったんです! 一万円も……さっきまでお財布の中にあったんですけど、今見たら無くて……!!』

『一万円? それって、無くした所ってどの辺りだい? すぐ近く?』

『えぇ、つい5分くらい前にそこの喫茶店から出る時まではありました。一万円を使わなかったので無くなる筈は無いんです…』

『あぁ、それだったら届いてるよ。つい今学生さんが拾いましたって来たんだ』

『えぇっそうなんですか!?』

『運がいいねぇ。さっきもその学生さんに言ったけれど、このご時世に一万円拾ったって届ける人なんていないんだから。アンタ良い人に拾ってもらったよ』

『それで、その人は…?』

『今出て行ったばっかりだよ。…あぁほら、そこで信号待ちしてる黒いバック持った男の子』



「あ、あの」

「…ん?」


後ろから声をかけられて、振り返ってみると女の人が立っていた。

学校の制服着てるところ見ると学生だな。

でも知らない格好だし、一体俺に何の用だろう。


「あなたがお金、届けてくれたんだよね? 一万円」

「一万……あ〜」


そうか、あの一万円の持ち主って、この人だったんだ…。


「どうもありがとう。お陰でとっても助かりました」

「いや、俺は別に……」

「いえいえ、そんな事は無いですよ。それでは、改めてどうもありがとうございました」


彼女は、深々と頭を下げると俺とは反対方向へ歩いていった。

最後に見せたふんわりとした笑顔の余韻を残して…。


「………………」


この一瞬で……

さっきまであった、何処か虚しくなるような気持ちは無くなっていた。

そして今あるのは……なにかこう、暖かい気持ち。

小さい頃に親の手伝いをして褒められた時のような、そんな。


そういや、さっきの人結構綺麗な人だったなぁ。

何かもったいなかったかも?


「ま、いいかぁ」


うん、なんでもない。家に帰ろうっ。

今日はなんだか、すっごくいい気分なことだしっ久しぶりに家の手伝いでもするか!!




掲載日:2003/11/23


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