・たった一人のキミへ…


「………………」


夕暮れ時。

人気のない神社の境内に俺が一人だけ立っていた。

いや、立ち尽くしていた。

俺のぶらんとだらしなく垂れ下がった手には、ケータイがにぎられている。

もう少し力を緩めたら、落ちそうなくらい。

ううん。落ちたってかまわないさ。

もう、どうなったっていい。


びゅう、と冬特有の刺すような冷たい風が俺を容赦なく貫いていく。


俺には好きな娘がいた。

同じ学校で、同じクラスで、仲も良かった。

メールもやり取りしてて、たまには一緒に遊びに行ったりもした。

楽しかった。

本当に楽しい時間だった。

今思えば、あれは夢の中の時間だったのかもしれない。

幻想って言う名の、一瞬のひと時。

彼女は楽しそうに笑ってくれてたし、帰りにはまた誘ってねと言ってくれたりした。

正直、好かれてるんじゃないかって思った。

俺自身も、彼女が好きだったから……

好きじゃなかったら遊びに誘ったりメールなんか送ったりしない。

俺は本当に彼女が好きだったんだ。


だから、俺は彼女を呼び出した。

そう、この神社の境内に。

そこで俺は自分の想いを伝えたんだ。

キミが好きだ、ってコトを――――――


「ふぅ……」


白い息が空に浮かんで、そして消えた。

なんだか、まるで俺の心の中みたいだな。

そっとケータイを開いて、メールの画面を開く。

たくさんの受信メール。

そのなかに、いくつも保護されたメールがある。


それは俺が夢の中にいた証拠。

夢を見ていた証拠。

彼女とやり取りした、たくさんの記録が無くならないように残ってる。

もし夢が叶ったら、もう絶対に消したりしない。

たまに開いては、懐かしさを思い出すように読んでいただろう。

だけど、今は……


指がまるでひとりでに反応してボタンを押してく。

メニュー画面を呼び出して、全メールの保護解除。

そして一番上の蘭。“受信したメールを全て削除しますか?”ボタン。

そこに指が伸びたとき、一瞬動きが止まった。

それはきっとためらい。後悔。その他いろいろ。

もう叶わない夢なのに。

残ってても、自分を苦しめるだけだから……

一瞬止まった指も、また次の瞬間には、決定ボタンを押していて、最後の確認画面まできた。

これを押したら、今までの思いでは全部空の彼方へと消えていく。

そしたら、また新しい時間が流れ出すだろう。

また次の思い出を歩みだすだろう。

また……メールを護っていく時がきっと来るだろう。


「じゃあな……俺の思い出」


ピッ




その瞬間、俺の恋が終わりを告げた。







掲載日:2004/11/26


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