メール --------------------------------------------------------------------------------  全ては、一通のメールから始まった。  「ん……メールが来てる。誰からだろ」  ピッピッ  「あれ?差出人不明だ……そんな事できたっけなぁ?」  差出人不明のメールの内容を読んだときに、その少年― 青田 翔 ―は目を丸くした。  「なんじゃこりゃ…」  そのメールにはこう書かれていた。  『貴方の事が好きです』  「おいおい…なんだよこれは。新手のチェーンメールか?それにしても、これがホントだったら名前くらい名乗れっての」  遊びなのか本気なのか分からない文に笑う翔。  すると、突然彼の持っていた携帯電話が視界から消えた。  「なになに…貴方の事が好きですぅ?あはっ、なにこれ愛の告白?」  「あっ!?ねっ姉さん!?」  「ほうぅ…ついに翔にも彼女かぁ。で、相手は誰?」  「ちょっ返してくれよ。差出人不明だから悪戯かもしれないだろ」  顔を真っ赤にして取り返そうとしている翔を見て、ようやく姉は携帯電話を返した。  「まったく…たとえ悪戯でもこういうの貰ったら誰だって驚くぞ」  「差出人…教えてあげようか?」  「え?…姉さん知ってるの?」  「知ってるも何も…私だし」  「はぁっ!?」  口を大きく開けながら固まる翔に、姉は笑いながら言った。  「ふふっ、ゴメンゴメン…久しぶりにかわいい弟をからかおうと思って。迷惑だった?」  「当たり前だよ…まったくもう、こういうの止めてくれよ、那美姉さん」  相手が姉だと知り、一気に落胆した。  それを見て、那美がちょっと不思議そうな顔をする。  「翔って彼女とかいないの?」  「いるわけないだろ。そう言う姉さんこそ大学生にもなって彼氏出来ないの?」  「さぁ、どうかしらね。それじゃ、もうすぐご飯できるから降りてらっしゃいね」  パタン。  「なんだよそれ。もう…それにしても、姉さんが犯人だったとは…」  姉である那美は、翔より二つ歳が上なのだ。  そんな那美に翔は好意を抱いていた。  さすがに姉弟なのでそういうことは言わない。  背中の真ん中くらいまである長い髪の毛。すらっとした外見。優しい微笑み…  もし自分が赤の他人だったら絶対に想いを那美に伝えていただろう。  それぐらい、弟から見ても那美は綺麗な人だった。  「はぁ…もう限界だよう…」  部屋に戻り、ベットに倒れこむと、自分の携帯電話を握り締めながら那美はポツンと呟いた。  「言わなきゃいけないこと…あるのになぁ」  ボーっと液晶画面をみつめる。  そこには、翔に送られた文と同じ文字が写し出されていた。  今まで、弟として可愛がってきた那美だが、別の感情が混ざり始めてきた。  「胸が…苦しいよ…」  布団に顔をうずめる。その目には、うっすらと涙の線が通っていた…  数日後、翔が学校から帰ってくると、家には誰もいなかった。  「あれ?珍しいな、誰もいないなんて。ま、いいか」  さっと着替えて、部屋に戻り適当に時間を潰していると、下から誰かが上がってくる音が聞こえてきた。  コンコン  「翔、いるの?」  「あぁ、どうぞ」  ガチャ  「あのね、さっき私の携帯電話にね、お母さんから電話があったの」  「それで、なんだって?」  「今日は遅くなるって。だから、適当に夕飯は食べててって言ってた」  「わかった。んで、どうする?」  「私が作っちゃうよ。それでいいでしょ?」  「あぁ…いいけど」  「んじゃ、もう少し待っててね」  パタン  程なくして夕飯が出来たので、二人で食べ始める。  その時那美が深刻そうな顔をしていたのだが、疲れているのだと思った翔はあまり気にしなかった。  ささっと夕飯を済ませて風呂に入ると、部屋に戻っていく。  そして、暫くして…  ピピピッピピピッピピピッ  「おっメールだ」  この時間に送ってくるのはきっと友人だろうと思い、苦笑しながら見ると、全然違った内容が書いてあった。  『I love you』  「…はぁ、また姉さんか。なんなんだよホントにもう…そんなにからかうのが楽しいかねぇ」  翔は、立ち上がると那美の部屋に向かった。  ガチャ  「おい、姉さん。いい加減にし…」  翔が見たもの…それは、部屋の電気もつけないで窓の側に立っている那美の姿だった。  「翔…メール…届いた…?」  「あ、あぁ…だけど、こういう遊びごともうやめてくれって言っただろ?」  「遊びごとじゃ…ないよ…」  そういって振り返った那美の顔には、涙の線があった。  「姉さん…?」  「遊びごとじゃないよ…私…翔の事…好きだよ…弟としてじゃなくて、一人の男の子として…」  「えっ!?あ、いやっだって…そ、それはまずいだろ。俺たち姉弟だし…」  突然の告白に動揺しまくりの翔。  しかし、那美は首を振っていった。  「血…繋がってないよ…私と翔は…」  「え?…う、嘘…だろ…?」  「ううん。嘘じゃない…翔のお母さんはね、翔を産んですぐに亡くなったの…」  「………………」  「それで、お父さんと離婚した私のお母さんと…翔のお父さんが再婚したの…だから…私と血が繋がってない…」  「………………」  黙ったまま、翔は何も言わない。  しーんとした空間が二人を包む。  やがて、ゆっくりと翔が口を開いた。  「…知らなかった。そんな事…俺と姉さんが本当の姉弟じゃないだなんて…でも…」  那美に近寄った翔は、両手で那美を抱きしめた。  「えっ…翔?」  「俺さ…姉さ…いや、那美の事、前から好きだったんだ」  「…ぁっ…」  「ずっと昔から…でも、姉弟だったからダメだって思ってた…」  「翔…」  「那美…俺も、那美の事、姉としてじゃなく、一人の女性として愛したい…」  「私も…翔の事……」  月の光が二人を照らす。  二つの影が、だんだんと近づいて行き…そして重なった…  翌日…  「んん……あっ…朝か…」  部屋に注ぐ太陽の光で、那美は目を覚ます。  「…ふふっ、翔の寝顔って、可愛い」  自分の隣で眠る弟――今では最愛の人の寝顔を見つめる。  「………あ」  「あっ……起きた?」  「…うん」  「……」  恥かしくて、相手の顔をじっと見ることが出来ない。  「…なんか、恥かしいね」  「…あぁ」  「シャワー…浴びちゃわないとね…」  「…あ、あぁ…」  「布団も…干さないとね…」  「あぁ…(真っ赤)」  「…翔、さっきから、あぁ…しか言ってないよ」  「おう…」  「もう…」  「すまん。えーっと、那美…おはよう」  「うん。おはよう」  そう言って翔の首に手を絡めて抱きつく。  「えへへー…翔〜♪」  そして、じゃれ付き始める那美。  「あー…こら、じゃれつくな」  「〜♪」  「…母さん達になんて言おうかな…」  「普通に言っていいと思うよ」  「…そうだな。普通にいこう」  「うん」  そして……  「早く行きましょ」  「あぁ…」  手を繋いで走ってゆく二人を、どこまでも続く青い空と太陽が、いつまでも見守っていた… 掲載日:2001/??/??