高校に入って最初の夏。  俺― 桐生 純一と、     桐原 奈々の夏休み……  〜夏休み〜 --------------------------------------------------------------------------------  夏の朝は早い。  まだ明け方の4時過ぎだというのに、もう東の空が白み始めている。  セミの鳴き声も、明るくなってくるのと比例して、増えてきた。  今日も暑くなりそうだなぁ。  「……ったく」  俺は家の前で立っていた。  本来ならこんな時間まだまだ夢の中だ。  でも、今日は起きている。  結構な荷物を背負って。  それは、ある人物を待っているからだ。  俺をこんな時間から起した張本人を。  「ごめ〜ん。遅くなっちゃった!」  すぐ隣の家から、一人の女の子が出てきた。  ― 桐原 奈々 ―  こいつが俺を待たせたやつ。  ずっと小さかった頃からの幼馴染で、俺の………恋人。  「おまえなぁ、誘った本人が遅刻するか?時間前に待ってるもんだろ」  「だってしょうがないじゃない〜。遅れちゃったものは遅れちゃったんだから」  「遅れたってなぁ……ま、いいか。ちゃんと来たんだし」  「なによ〜、ひょっとして寝坊して来ないって思ってたの!?ひど〜い」  「そうは言ってないだろ。それに……寝てたんだったら俺が起してるさ」  「なっ………!!」  とたんに顔を真っ赤にして俯いてしまう。  お、俺まで恥かしくなるじゃないかよ。  「ほら、行くぞ」  「え、あっちょっと待ってよ〜」  新聞屋のバイクくらいしか走っていない道路を2人で歩く。  本当に静かだ。  空気も澄んでるようにさえ感じる。  朝って、いつもこんな感じなのかなぁ。  「夏の朝って、すごい涼しいな」  「うん。ひんやりしてるね」  「どこをどうやったらあんなに暑くなるんだ?」  「う〜ん、地軸の所為かな?」  「……もっと夢があるような事言え。たとえばそれだけお日様が頑張って照らしてるとか、元気のエネルギーが気温を上げてるんだよ、とかさ。   そのまんま言っても楽しくないだろ?」  「お天道様が日夜頑張って照らしてるからだよ♪」  「まんま言うな、まんま。それに、ただちょっと文章変えて付け足しただけじゃないか」  「んもうっ、難しいなぁ」  こんな会話もいつもの事。  からかい半分ではめる俺と、何故か毎回それにのってしまう奈々。  昔から当たり前のように続いていた事は、例え関係が幼馴染から発展しても変わらなかった。  まぁ、いきなり奈々に『純一君』なんて言われたらと思うと背中に悪寒が……  「それにしても純一」  「ん〜?」  「ずいぶん荷物多いね。日帰りだよ?」  「いろいろ詰め込んであるんだよ。万が一のことを考えてな。あとは川に行くんだから着替えとタオルも持ってきた。   もし濡れた時に着替えがないと嫌だろ?」  「準備周到だな〜。私なんか汗拭きタオルと水筒くらいしか入ってないよ」  お前……山ナメてるだろ?  めっちゃこれが言いたい。  奈々の格好は、まるで街に買い物にでも行くかのような軽装。  無地の真っ白なワンピース。  「楽しみだな〜透きとおった綺麗な川♪」  何故今日川に行く事になったかというと………  〜数日前〜 --------------------------------------------------------------------------------  「純一っ川に行こう!」  「……えぇっ!?」  この一瞬の会話だけで決まった。  何でも、雑誌に載っていた川の写真に魅了されたらしい。  もともとプールとか海などの水関係が好きな奈々。  せっかくの夏休みだから是非行きたいと言ってきたのだ。  「じゅんいちっ」  「ん?なんだ」  「えいっ」  ちょっと勢いよく抱きついてきた。  そのまま腕を絡められる。  そんなピッタリくっ付かないでくれ……。  「恋人同士なんだから、これくらいはしないと!」  「とは言ってもだなぁ」  二の腕越しに感じる、若干硬さの残る柔らかな……まだまだ発展途上中だな。  「……あ、今何かイヤらしい顔した」  じろ〜っと睨んでくる。  「してないって」  「した」  「してない」  した、してないと言う会話を続けたまま駅へと着いてしまった。  目的地までの切符を買ってホームへと出る。  まだ電車が走り出して間もない時間帯、ほとんど人がいない。  ホームと言えど、人がいなけりゃ静かなものだなぁ。  「奈々、こっからどれ位かかるんだ?その目的地とやらまで」  「時間?う〜んと…ちょっと待ってね」  ゴソゴソとリュックを開けて、中から雑誌を出した。  「えっとね……東京から特急電車使って3時間ちょっとってあるから、同じくらいじゃない?こっちの方が近いんだし」  「3時間か〜。結構あるな」  「喋ってたらすぐだと思うよ。それに朝ご飯も中で食べるんだし」  「あっそう言えば朝飯食ってないんだった。すっかり忘れてたぜ」  「……言わなきゃよかったかなぁ?忘れたままなら1人分浮くし」  「おい、浮かせた分は誰に食わすんだよ」  「私」  「……太るぞ?」  「うるさい」  そんな事を話している間に、電車がきてしまった。  電車内での会話はさっき話してたとおりの内容だったので取り分け話すこともないだろう。  ちゃんと奈々が作った朝飯にもあり付けたしな。  ……あれ?そう言えば、話すって誰にだ?  ま、いいか。  ピィーーッ!!  ゴロゴロと音を立てて列車が駅を去っていく。  電車に乗って2時間ちょっと、更に列車に乗り換えて小1時間。  ようやく最寄駅についたわけだ。  ずっと座っていたせいか、尻が痛い。  「さ、行こう純一」  「おう」  ここからは歩きだ。  山道って程山道じゃない山道を歩いていく。  ……どうでもいいけど、舌噛みそうな言葉を3回繰り返すとツライな。  もう止めよう。  「うわっ」  小石につまづきそうになる奈々を、俺が片手伸ばして支える。  「あ、ありがと……」  「気をつけろよ〜足でも捻ったらせっかくの川遊びが台無しだぞ」  「もし、足捻っちゃったら……おぶってくれる?」  な、なんだよ。その期待に満ちたような視線は。  そっそんな目で見られたら……  「あ、あぁ……」  遊びでも断れないじゃないか!  敗北って言わないでくれ……余計辛くなるから。  さて、のんびりと歩く事十数分。  先のほうから水が流れるような音が聞こえてきた。  もうすぐ目的地だ。  「小川のせせらぎが聞こえる…。近いね」  「あぁ。でも、なんか詩人臭くないか?今の表現は」  「いいじゃないの。たまには」  「水が絡むとこうだもんなぁ〜。ホント、好きだよな。水」  「うん。触れてると、なんとも言えないような気持ちよさというか、爽やかさと言うか……   上手く説明できないけど、こう……心が洗い流されるのよ」  身振り手振りで説明する奈々の姿が、何となく可愛らしかった。  そうだ、ちょっとからかってみるか。  「なぁ、水と俺とどっちが好き?」  「えっ!?な、何よ唐突に」  「じ〜………」  はぐらかされない様にじっと奈々を見つめる。  頬を薄く染めながら、目が左右に忙しなく動く。  「あ、え〜っと……その……」  「その?」  「えっと、え〜っと………う〜、いじわるだよぉ〜」  ちょっと拗ねた感じで、口を尖らせながら言った。  昔から、奈々は劣勢になると言葉遣いが幼くなる。  勿論態度もだ。いつもの気丈さはどこへやら……  あんまりやると可哀想だし、もうこの辺で許してあげるかな。  「う〜そっ。別に俺は水相手に嫉妬なんかしないさ」  奈々が比べられるわけない事ぐらいお見通しだ。  「も〜う。ひどいよぉ!」  「はははっ。悪かった、悪かったって。あっほら、着いたみたいだぞ」  「え?……あ〜!!」  奈々が目を大きく開けてる。  そして、一目散に駆け寄っていく。  ……なんだ、まだ元に戻ってきてないのか?  あ、ほらほら。靴を脱ぎ散らかすなって。  「じゅんいち〜!早くおいでよー。水が気持ちいいよ〜!!」  「あ〜……はいはいっ今行くって!」  ま、このままでもいいか。  「〜♪」  大きな石に座って、両足でパシャパシャと水面に波紋を作っている奈々。  もうその顔と言ったら笑顔120%だ。  時より水の冷たさを確かめるようにして足を静めている。  そして、俺はと言うと………  「ふむ。こんなもんかな」  親から借りてきた釣竿を取り出してそこらへんの石に固定。  当たりが来るまではほったらかしだな。  さ〜て、上手く来てくれよ……魚ちゃん。  「はぁ〜っ。ホント、静かで良い所だな〜」  「でしょ?都会の五月蝿さを感じさせない、空気の澄んだ素敵な場所……こんな所に住んでみたいなぁ」  「不便だぞ。店だって近くにないし」  「んもうっ、ムード壊さないでよね!自分から言い出したクセに……」  あれま、元に戻ってら。  「はいはい。俺がわるぅござんした……おっ、引いてる引いてる」  早速ヒット!こりゃ先行きがいいねぇ〜  「ふぅ、純一は純一ってコトね……」  「いよっしゃぁー!!」   始めの辺りは、こんな感じで過ぎていった。  「お〜い奈々、そんな歩いてると転ぶぞ〜」  「大丈夫。ちゃんと確認しながら歩いてるから」  しばらくして、浅い川の中を歩き出した奈々。  俺も裸足になって足だけを水の中に入れていた。  ……釣りの事は聞かないでくれ。  あれから1匹も釣れなかったなんて……くそ。  「えいっ!」  パシャッ  「わっ!な、なにすんだよ」  「あははっ!ボ〜ッとしてるからだよ〜♪」  「こなくそっ!負けてたまるか」  こっちからも水をかけようとしたけど、すでに奈々は攻撃範囲外。  や〜いや〜いとばかりに笑ってた。  ホントにもう……あれ?おいおい、そっちの方は深くなってるんじゃないのか?  あんまり行き過ぎると……  「お〜い奈々、戻って来いって!」  「いや〜。そういう事言って、私に水かけようとしてるんでしょ?」  「違うって。危ないから早く戻って来い!」  あ〜もう仕方がない!  少し滑る川底を一歩一歩確認しながら奈々の下へと歩いていく。  足首ぐらいまでしかなかった水かさが、もう膝近くまで……ズボン捲っておいて良かった。  「服濡れちまうぞ」  「だから大丈夫だってば〜。スカートの部分がちょっと濡れちゃったけど、転びはしな―――!!」  ……それは一瞬の出来事だった。  奈々は、転びはしないって言いたかったのだろう。  そういい終わる前に、体がグラッと揺れた。  「奈々ッ!!」  何とか奈々を捕まえようと、思いっきり手を伸ばしてダッシュした。  でも、水の抵抗は思った以上に強い。  伸ばした手は届かず、奈々は背中から尻餅をつくようにして倒れてしまった。  一方の俺も、勢い余ってつまずいてしまい前のめりになったままちょうど奈々の上に。  何とか手でこらえて体ごと倒れるのを防いだけど、前面の服が水に浸かってしまった。  「…………………」  「…………………」  下から俺を見上げている奈々と、上から奈々を見下ろしている俺。  何だか、この体勢……イヤだな。  まるで俺が奈々を押し倒したみたいで。  お互い無言のまま、そしてその格好のまましばらく止まっていた。  「!!」  何となく、奈々の顔を見てるのが恥ずかしくなった俺は視線を下へと下げた。  でも、その先にあったのは…………  みんなは、知ってるか?  白い服って、水に浸かると透けるんだぞ。  ましてや、生地が薄い夏服にいたっては……  白に白、ですか……ははは……  平静を装いながら奈々を起す。  でも、少し意識してしまいどこかよそよそしい感じになってしまった。  「だ、大丈夫か?」  「う、うん……」  「まったく……川の中で後ろ向きに歩くバカがどこにいるんだよ」  「ご…ごめん……」  「まっまぁ、奈々が無事で良かったけど……」  「………………」  川から上がって、着たまま服をギュッと絞る。  その後で、持ってきていたタオルを使って拭いていく。  万が一の為に持ってきたタオルをホントに使う事になるとは…ね。  「くしゅんっ!」  「奈々、着替えたほうがいいんじゃないか?風邪引いちまうぞ」  「…持ってきてないもん……くしゅっ!……着替え……」  あ………。  今朝、奈々が言っていた言葉。  『準備周到だな〜。私なんか汗拭きタオルと水筒くらいしか入ってないよ』  はぁ、本当に世話の掛かる奴だ。  「しょうがない……俺が持ってきたやつを貸してやるから、それに着替える事」  「え、でも……そうしたら純一が」  「俺なら平気だ。前だけだしな。少ししたら乾くだろ。奈々は全部濡れちまってるんだから」  「うん……」  「大き目のバスタオルとかもあるから、それで隠すといい。あ、でもそうしたら着替えられないか……」  何か言い方法は―――と、ここでいいもの発見!  「ちょっと待ってろよ」  「え?あっちょっと純一……」  やっぱり、ここは山だよな。  当たり前だけど、そこには木がある。  当然、川の目の前にだって、だ。  都合よく俺の頭ぐらいの高さに横に長く伸びた木の枝がある。  太さもお手頃。これならタオル引っ掛けてもびくともしないだろう。  だから、ここをこうやって……タオルを引っ掛けると……  「ほい、完成」  即席更衣室。  全方向を隠す事は無理だけど、人が来そうな方向だけを隠す事は出来る。  もちろん、俺からだって見えない。  ……まぁ、見えなくもないんだけど、命は惜しいし。  「見張っておいてやるから、ここで着替えなされ」  「う、うん……覗かないでよ?」  「お前の裸に興味はない」  「………バカ」  背中越しに、布の擦れるような音が聞こえる。  本当はもっと離れてようとしたんだけど、奈々が怖いから近くにいてくれと言うのでここに。  自分が無防備な姿をしてるときに予期せぬ事があったら大変だからなぁ。  ましてや……ねぇ?  「まだか〜?」  「もうちょっと……待って」  「後どれくらいだ?」  「そんな事、女の子に聞いたら嫌われちゃうよ」  「野暮、ってやつですかい」  流石に自分の目で確認する事は出来ないので、音だけを頼りに。  はぁ……何だか、複雑な胸中だよ。  自分のすぐ後ろには着替え中の彼女が―――ってなにヘンな事考えてんだよ俺。  邪念退散・邪念退散……  やがて、するすると腕が袖を通るような音が聞こえたかと思うと、いいよ…と控えめな声が聞こえてきた。  「大きいね……純一の服って」  「そりゃ、体格差があるからなぁ」  「腕が出ないよ」  そう言って両腕を左右に広げる。  ぎりぎりで指の先っぽが見えるくらいだ。  「でもさ、やっぱり純一は純一なんだよね。抜けてるというかなんと言うか……」  「うるせ〜。誰にだって忘れ物はあるさ」  「もしグッショリ濡れちゃってたらどうしてたの?ズボン」  俺の忘れたもの、それはズボンだ。  確かに、もしそうだったらどうしてたんだろう…?  「う〜ん……下着姿でいるかな?」  「えっち」  即答するな。即答。ぐぅの音もでんだろが。  「はあぁ〜……この格好は恥かしいよ〜」  「確かに…な。じっと見てると」  白いワイシャツのみと言う姿はやっぱり恥かしいか。  見てるほうの俺も……運良くというか、ワイシャツの大きさからワンピースみたいになったけど、奈々のすらっとした細い足がよく見える。  その上にある太股も……  「ぐはっ!」  「ど、どうしたの?」  「い、いや……何でもない」  言えない……絶対に言えない。  その格好見て、思わず抱きしめたくなったなんて……はぁ。  「水の音が気持ちいいね」  「こうやって音を聞くだけでもいいもの何だな〜」  川の中に入らずに、近くで座りながら流れる音を聞いていた。  あらためて、ここの静かさに驚かされるな。  川のせせらぎの音と、木々が風になびく音、何処からか聞こえてくる鳥のさえずる声……  「奈々の言ってること」  「え?」  「奈々が言ってたことが、何となくだけど分かった気がした。これなら、来たくもなるよな」  ……俺も、こういうところが好きなのかもしれない。  奈々と同じで。  「来て、よかったな。ここ」  「うん」  「また来ような、2人で」  「…うんっ♪」  そんな俺たちを歓迎するかのように、柔らかな風が一頻り撫でていった………  〜帰り道〜 --------------------------------------------------------------------------------  「それにしても……意外な置き土産だったな」  「ごめんね……」  何物でもない“何か”が置いていった副産物。  それは……  「まさか、コケた時に足を挫いていようとは」  「あの時は服の事とかいろいろあって気がつかなかったんだね、きっと」  「ずっと気付かないでくれれば……」  「むぅっ。まだ言うかなぁ〜純一は。……本当は嬉しいクセに」  「嬉かない。荷物が増えただけだ」  「昔、よくこうやって純一におぶってもらったっけなぁ」  「……人の話はちゃんと聞きなさい」  でも、確かに小さい頃やってたな……  あの頃の奈々は本当に小さくて、俺も小さかったけどおぶってやってた。  お互い……あれから大きくなったなぁ。いろんな面で。  「ねぇ、じゅんいち〜」  甘えたような声を出す奈々。  何を企んでるんだ?  「私、さ。胸……大きくなったかな?」  「…………………………」  …………はぁ!?  「いっ一体何を唐突に!この不思議少女め」  「いや、前に……確か中学校のときだったかな。体育祭のときに今みたいに足を挫いちゃってこうやって負ぶってくれたでしょ?   その時に、純一が『胸ないな〜』って言ったじゃない?」  「あ………」  言ったような気がする。  でも、あの時は遊び半分&からかい半分で言ったわけで、決して下心があったわけじゃ……  「その時と比べて、桐生純一君はどう思いますか?」  どうって……  何だ、これは答えてほしいと?  「回答の拒否権は―――」  「あって、ほしくない……な」  退路は截たれました。  山から帰ってきて、夕暮れに染まった空の下、家へと遠回りして帰る俺と奈々。  こんな会話を知人に聞かれたらなんと言われるか……。誰もいないのが救いだ。  「人は、成長するものだ。個人差はあっても」  と、こう言っておく。  「だから、私は?」  「自分の胸に聞いてみろ」  本当に、俺たちはなんちゅ〜会話してるんだか。  「でもな、あえて言うならアジア諸国だな」  「ほえ?」  「この間地理でやっただろ〜今のアジアは何だって」  「え、確か発展途上…………純一!!」  ポカポカと頭を叩いてくる。  何で叩かれるんだよ。言えって言ったの奈々だろうが。聞いた本人が騒ぐな!!  「どうせ私は………」  「拗ねるなって。聞いた本人が」  「前に計ったらなな―――」  「ハイッ!これ以上はもうストップ、お終い、終了」  これ以上続けたら本気で止められかねない!……って誰にだってば。  「ぶ〜」  「ぶ〜、じゃない。もう高校生なんだから少しは羞恥心と言うやつをだな………」  高校生になって最初の夏。山に行って、川で遊んで、今まで行った事のない遠方の地まで行って……  少しは大人になれたかと思えば、俺も奈々もやっぱりそのままなワケで。  たぶん、これからもこんな感じで流れていくだろう事を考えながら、家までの道をゆっくりとゆっくりと歩いていくのだった。  「………そういう事は、言うべき時に言ってやるから」  「……え?今なんて言ったの?」  「べ〜つにぃ〜」  「言うべき時とか何とか言ってたでしょぉー!」  「記憶ニゴザイマセン」  「んもうっ!純一のバカぁ〜!!」  高校に入って最初の夏休み。  俺― 桐生 純一と、     桐原 奈々の夏休みは……  ゆっくりと、そして穏やかに過ぎていった―――。 掲載日:2002/09/09