・Coral Leaf
三月が過ぎて…
学年が一つ上がって…
桜があっという間に散って…
気がつけば緑がまぶしい時期になってた。
夏も近くて、そろそろ長袖じゃ限界かなって感じる今日この頃。
俺はとある場所へと足を運んでみたわけだ。
家から自転車で30分くらいの所にある公園。
公園といっても、子供が遊ぶような場所じゃなくて、森林浴を楽しむような……まぁ森林公園だな。
敷地内全部が木々で覆われてて、その中を貫くように石畳が敷かれてる。
散歩をするには絶好の場所だな。
……なんて。
我ながらずいぶん若者らしくない発言だなこれ。
ま、そんな事はどうでもいいわな。
気にしない気にしない、と。
ただ、一つ気になるのがある。
それはさっきから俺の隣にいる一人の人物。
「あのさ、聞いてもいいか?」
相手が、なに? とこっちを振り向いた。
「なんでついて来てんの?」
「え、そりゃあ―――」
それは少しだけ前の事。
いつものように学校へ行こうと家を出たわけだ。
でもなぁ、なんかやる気が起きない。
遅れてやってきた五月病かといわれれば胸を張ってうんと言えそうな状態。
こんな日はサボるしかないだろう。
よし、じゃあ今日は学校は行かない。
行かないと決まれば何処に向かうか。
制服着てるし街中は危ない。
じゃあ……って事で来たのがここなんだが、そこで一つ問題が。
さっきも言ったけど、俺の隣に居る人物だ。
どういう訳か、そいつまでついて来たんだなこれが。
俺一人でサボるつもりだったのに……
だから、こうして理由を聞いてみたんだ。
「…そりゃあ?」
この言葉の先が、当然ながら今一番気になってるわけで。
「そりゃあ、どうしてだと思う?」
「質問に質問で返すな。聞いたのは俺」
「じゃあ、質問に答えるからあなたも答えてね」
「なんだよそれ……まぁいいや。で、なんでだ?」
何故にたった一つ聞くのにこれだけ掛かるのやら……
「ひみつ、かな」
「……をい」
散々引っ張ってそれですかオネエサン。
「まぁあたしの事はいいっしょ」
「なんだよそれ。全然答えになってないじゃん」
「まぁまぁ。それより、どうしてついてきたと思う?」
「あー、そんなの俺が知る訳ないだろ。こっちが聞きたいってのに」
「だからひみつだってば」
すでに質問は意味を失っていた。
って言うか全くもって言う気がないらしいなコヤツは……
「そんな事よりさ、せっかく学校サボったんだからいつまでもこうやって止まってないで歩こうよ。その為に来たんでしょ?」
「ま、まぁ……な」
「ほら、いこ」
そう言って、スタスタと先に歩いて行ってしまった。
なんか腑に落ちない。
ってか何でこうなってるのかも飲み込めない。
あーもー、考えたってでやしない。
俺も歩くぞ。えぇ歩くとも。
木々の門というか、木の葉のトンネルというか。
石畳の両脇にはとにかく木が植えられてる。
お陰で日の光もそんなに入ってこないからそこまで暑くない。
上を見上げれば、緑の葉っぱが日に当たってキラキラと輝いてる。
なんか、この時期が一番合ってる感じがするよな。
秋とはまた違った趣が、なんてな。
「いつきてもいいよね。ここは」
「そうだな」
「小さい頃から来てたけど、今でも飽きないから凄いよね。木以外に何もないのに」
「夏になっても、そこまで不快じゃないしな。普通虫だらけになるのに、何故かセミの音もそんな聞こえないし」
「どこか、不思議な空間って言うのかも?」
「だな」
確かに、ここは不思議な場所だ。
木くらいしか見るものがないのに、全然飽きが来ない。
それよりも、またこうして足を運びたくなる。
かと言ってそう頻繁にじゃあないけれど、ふとした時にまたって感じに。
なんかこう、言葉じゃ言い表せないような“なにか”がここにはあるのかもしれない。
「でもさ、あれだよな」
「うん?」
「何度も来たくはなるけど、他の人ってあんまり見かけないよな」
「あーうんうん。確かにそうだね。なんでだろ。そう広いわけでもないのに」
「俺たちが来ると、いつもここは静かだな」
「そういえば、一度も人で賑わってる所を見たこともないなぁ……」
やっぱり不思議だこの場所は。
……でもまぁ。
「こういう場所だからこそ、静かなのは大歓迎だな」
「そうだね。うるさかったら雰囲気ぶち壊しだ〜」
石畳を、誰ともすれ違わずに二人並んで歩いてく。
やがて、十字に分かれる場所へと着いた。
「ねぇ」
「ん?」
「こっちに行ってみよっか」
そう言って指さしたのは、普段行かない場所の道だ。
普段というか、実際は一回も行ったことがない道。
何でも来てるのに、だ。
これも不思議の一つに入るかも。
「坂だな」
「うん。一応小さな山みたいになってるからね。こっちが頂上ルートって所かな」
「よし、じゃあ初ルート行ってみるか」
右に曲がって、恐らく頂上へと続いてるだろう道を登っていく。
緩やかな坂道になってる以外は全然他と変わらない。
やっぱり周りは静かな空間に包まれていた。
「今頃は二時間目が始まってるね」
「それを言うな。せっかくサボったんだから、学校のことはやめようぜ」
「はいはい。ただちょっと気になっただけ」
「なにもお前までサボらなくても良かったのに。みんな驚いてるぞきっと」
「まぁね〜。あたしこう見えても優等生だし?」
先生。その自称(他称?)優等生が今こうして学校サボってます!
「ま、あたしは別に優等生になろうなんて思ってないけどね」
「俺は別におまえは優等生だとはぜんぜん思ってないけどね」
「むっ。なーんか、引っかかる言い方だよなぁ〜」
一歩前に出て、振り向きざまに俺のことを上目遣いにじっと見つめてきた。
反動で流れるように髪の毛が揺れ動く。
「じ〜っ……」
「な、なんだよ…」
「…………………」
ごくっと、喉が鳴った。
なんて言葉が返ってくるのか、なんて思っていたら……
「ま、別にいいんだけどね」
そう言って、また前を向いてしまった。
な、なんなんだよ…。
「期待した?」
「なにをだよ」
「ふふっ。べっつにぃ」
「ますますワケ分からんな。頭のネジ緩んでるんじゃないのか?」
「そだね。きっとイイ感じにこう、外れてるのかも」
笑いながらそう言った。
やれやれ。
そんな話をしながら歩いてるうちに、だんだん周りが明るくなってきた。
俺たちの上を覆ってた葉っぱがだんだん少なくなってく。
すこしだけ、暑くなってきた気がした。
そして、坂を上り終えると……
「……まぶしい」
「……同感」
頂上の部分だけ樹がなくて、視界が一気に開けた。
久方ぶりに見た青い空が眩しくて、思わず二人目を瞑る。
空がこんなにも眩しいなんてな……今見えてないけど。
「登っちゃったね」
「そんなに高くないけどな」
「でもさ、結構見晴らしいいじゃん」
「まーな。これでここも完全制覇ってか」
十数年掛かって完全制覇とはね。
「さてと、戻ろうぜ」
「早っ。いくらなんでも早すぎじゃない?」
「そうか?」
「せっかく初めて来たんだから、もっとゆっくりしてこ」
「俺は別に構わないが」
「んじゃ、決定」
目線を外に向けてみる。
景色を一望できるわけじゃないけど、小高い丘から見たらきっとこんな感じなんだろうな。
家々がたくさん連なる住宅街。
さすがにここからは、住んでる家も学校も見えはしない。
道が反対だし。
でも、こんな風に見たのは初めてだ。
新たな一面を発見かな。
「ねぇ」
「ん?」
「さっきの質問の答えだけどさ」
「…質問?」
そう言われて、あっと思い出した。
俺が最初に言ってたやつか。
「今頃かよ」
「まぁまぁ。で、さっきの質問だけど、まだ答えてなかったでしょ」
「あぁ」
「あたしが言う前に、答え言える自信はある?」
「俺がか?」
うん、と頷く。
「もちろん、ないな」
「そっか……」
一瞬だけ、残念そうに見えたのは気の所為か?
「なんで来たかって言うとね〜……」
「あんたがいないから、学校行ったってつまんないじゃない」
………………
ん?
「ちょっとまて」
「え?」
「それ、前に聞いた気がする。確か……去年の秋頃だ」
「あ、バレた?」
舌をペロッ出して笑う。
まったく……
それにしてもなぁ。
「なぁ」
「ん?」
「その言葉に、意味はあるのか?」
「え、何が?」
「その、あんたがいないからつまんないって言うやつにだ」
「…………はぁ」
今度はため息を吐かれた。
俺にはサッパリわからない。
「こりゃあ当分はムリかもなぁ」
「なにがだ?」
「なんでもありませ〜ん」
プイッとそっぽを向く。
拗ねられた。
すまん。正直言って分からない。
なにがどうなってんだ?
俺が何か悪い事言ったか?
「まぁ、焦る必要もないか〜」
「だから、何をだよ」
「気にしないで。独り言だから」
「ずいぶん大きな独り言だこと」
俺の言った事には答えずに、ん〜っと大きな伸びをした。
そしてこっちを見て言う。
「さぁてと、じゃあご希望通り下りよっか」
「まだ散歩するか?」
「そうだね。今日はここで一日ゆっくりしてようか〜」
そう言って、また先行して歩き始める。
ま、たまにはのんびり散歩をして過ごすのも悪くはないな。
少し坂を下って、前の方から置いてくぞーっと声が聞こえてくる。
それに返事をしてから、俺も歩き始めた。
「ね、また二人で学校サボって来ようか」
「……そうだな。また来るか」
ごくごく自然に、まるでそう返すのが当然のように、俺の口から言葉が出た。
掲載日:2005/05/14
改装日:2006/10/24
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