・バレンタインな


『バレンタインの10倍返しはキホンだよねー』
『ってゆーか、フツーにクッキーとか貰っても“は? コイツなに”って感じだし?』
『空気読めよオマエーみたいな?』

テレビの中で、イマドキの女子高生が街角インタビューに答えてる。
言葉遣いはどうでもいいとして、問題は中身だな。

「10倍返し? どんだけインフレなんだよ」

思わず口に出る言葉。
たとえ1,000円のチョコを貰ったとしたら……10,000円?! あんですと!!
最近のオンナノコは怖いねーなんて思ってしまう辺り、じゃあ自分はなんなんだと自己嫌悪。

……ボク、まだハタチも迎えてないのに……

深々と降り積もる雪を窓越しに見ながらコタツで丸くなってる俺は、きっと年相応に見えないだろう。
なんていうか、じじくさい? いいんだよ。外は寒いから。
あーあ、バレンタインかぁ。そう言えばもうそんな季節なんだなぁと。
ついこの間そばを食べて、餅を食べたと思ったらもうチョコの話か。一月は早いね。
今年は幾つもらえるかなーなんて考えてるけど、実際ははたして?
ゼロって事はないと思うんだよ。うん。自慢じゃないぞぅ。
少なくとも、俺にはコイツがいるからな――――

「……ん? どうしたの。私の顔に何かついてる?」
「いや、別にたいした事じゃない」
「じゃあ、なぁに」
「もうすぐバレンタインだなーと思って。今年も舞ちゃんからチョコは貰えるだろうか。なんて」
「こんな時だけちゃん付けしないでよ。それに〜、お兄ちゃんは私から貰えなくたってたくさん貰えるでしょう」
「ああ、言葉にトゲを感じるのは気のせいだろうか」
「気のせいじゃありません」

そんな、ロコツに言わなくても。

「モテる兄を持つと、妹は苦労するんだよー」
「関係ないだろう。それに、俺はモテないぞ?」

これだけは言っておく。うん。間違いない……と思う。

「じゃあ、去年いくつチョコ貰ったの?」
「んと、十個くらい、かな」

ちなみに、全部友チョコ。義理チョコじゃないところは気にするな。言った本人に聞いてくれ。
女友達もいない訳じゃないから、まぁ貰えたりするわけで……ごにょごにょ。
ああ、舞ちゃんの視線がどんどん厳しく…。

「どこがモテないんだか。世の中一個も貰えない人だってたくさんいるって言うのに」
「個人差」
「認めません」

キッパリ。そんな、無茶苦茶な。

「絶対にいつか見返してやるんだから」
「ま、まぁ舞からチョコが貰えるなら俺は喜んで受け取るよ。だからホワイトデーは――――」

そこでハッと思い出す!
ついさっきテレビで言ってたあの言葉! イマドキの女子高生の、信じられない一言が。

『10倍返しはキホンだよねー』

ま、まさか……。

「あの、舞ちゃん」
「だからちゃん付けは止めてよー。なんだかヘンな感じするから。で、なに」
「あのね。ボクね、ヘンなことを耳にしたんだけどね」
「………………」
「……冗談は置いとくとして。望みは10倍返しか?」
「え? な、なにが」
「だから、ホワイトデーの」

それを聞いた舞は一瞬だけキョトンとした目になる。
何のことだか分からないようだ。

「10倍って、ホワイトデーに?」
「ああ」
「お兄ちゃんが?」
「ああ」
「私に?」
「ああ」

答えが怖い。これで当たり前とか返ってきたらどうしよう。
少なくとも、友チョコをくれた女友達の中にそんな事を言うのはいなかった。…遊びで言ってるのならいたけど。
今も昔もそんな事を言われたことはない。だけど、テレビを見る限りその光景は珍しいものではないのだろう。
知らない間に流行とかアタリマエって広がるからなぁ。

「くれるの?」
「ああ……って、ちょっと待った! いまのはナシ」

危うく自爆するところだった。大事なところなのに無意識に返事をするのはやめよう。

「そんなに慌てなくても、私はそんなの望んでないよ」
「そ、そうか」
「ひょっとしてお兄ちゃん、テレビ見て全部の女子高生がそんな事考えてるって思ってる?」
「いや、そんな事はないけど」
「そりゃあ、私の周りにもそういうこと言ってる人はいるよ。でも、それっておかしいと思うんだよなあ。なんか、お金の量で価値を決めてるみたいで」

お金よりも気持ちじゃない? と舞は言った。ありきたり過ぎかな? とも付け加えたけど。
ほっと、心の中で安堵の息をつく。良かった。俺個人の考えだけど、舞はまだヘンな色に染まってない。お兄ちゃんは嬉しいぞ。

「お兄ちゃん、そんな事を気にしてたの? 私に対して?」
「俺も最初から信じてるわけじゃないけど、テレビであんなこと言ってるとな。まさかって考えるじゃん?」
「何年一緒にいると思ってるの。もう少し私のことを分かってくれてると思ったんだけどなぁ」
「あーうん。正直悪かった。でも舞本人からそれを聞いて安心したよ」

ニッコリ笑いかけると、舞からも微笑み返してくれた。ああ、兄妹ってすばらs

「で、お兄ちゃん今年はいくつ貰うの? ねぇ、“誰からチョコを貰うの?”」

……すばらしい。素晴らしいよね?!

「ま、舞。少し落ち着こう。それにまだバレンタインデーは先の話だから誰から貰うかなんて……」
「……貰うあて、やっぱりあるんだ。だから誰?」

ジトーっと見つめる舞の瞳。
毎年思うんだけど、舞はこの時期だけいつも機嫌が悪くなる。
理由は……あえて言わない。
ヘンに話を曲げるときりがなくなるから。
何より、舞だって分かってて言ってると思う。
でなきゃ、今の俺達は……

「お兄ちゃん! 私の話を聞いてるの?」
「問題ない。しっかり把握している」
「じゃあ、チョコは誰からも貰わないんだね?」
「ああ、もらわな―――って? あれ?」

いつの間にかそんな話に?

「もし貰ったら……分かるよね?」
キラン、と舞の目の奥で何かが光ったような気がした。
あー、また意識を飛ばしてる間に……。
今年のバレンタインデーは激しい戦になるっぽい。マジで。
ただ……ただ、ね。

「それじゃ、私からのチョコレート楽しみにしててね。お兄ちゃん♪」

この笑顔が見れるんだったら、頑張りとおしてみようかな。なんて思ってしまうのである。
そんなある日の昼下がりのこと…。

「ところでお兄ちゃん。さっきっからずっと気になってたんだけど」
「ああ、なんだ」
「なんだかいつもと違うんじゃない? キャラでも変えたの?」
「まさか。ちょっと“頼りなさそうな兄貴”をやってみただけだ」

もちろん、何を以ってそうなるかなんてのは考えてないけど。

「ボク、なんていってるお兄ちゃん。すっごく変」
「問題ない。俺自身もそう思った」

慣れない事はやらないに限るな。妙に身体がムズムズする。

「お兄ちゃんは、いつものお兄ちゃんだけで十分だからね」
「ん。了解」

二人して、コタツで丸くなりながら何気ない会話のキャッチボール。
ああ、平和だな…。たまにはこういう休みの日って言うのもいいだろう。
週が明けたらまた学校だし。って言うかこの雪だと自転車が使えないな。
結構積もってきたし、どうやって学校へ行けばいいんだ?
なーんて、今から心配してしまうくらい、平和。
うん。そんな事は当日になって考えよう。

「雪、止まないね……」
「ああ、そうだな」
「たくさん、積もるかもね……」
「ああ、そうだな」
「雪だるま、作れるかもね……」
「ああ、そうだな」
「お兄ちゃんが他の人からチョコ貰ったら、人間雪だるまが作れるね……」
「ああ、そうだな」

……ん?

「あ〜、冬といったら、やっぱり雪とコタツだよねぇ〜」

抜けられないーと舞が呟く。
なんだかすぐ前にトンデモない事を言ってたような気がするんだが、はたして気のせいだろうか。

「これにみかんと暖かいお茶があったら最高なんだけどなぁ」
「両方あるじゃん。台所に」
「お兄ちゃん持ってきて〜。私はみかん二個ね」
「自分でもってこい」
「ヤダ。さむいー」
「…しょうがないなぁ」

兄妹で過ごす穏やかな休日。
今日も兄貴は妹にパシられるのでした。まる。
あー、なんだか全然バレンタインじゃないような……って今なんでそんな事言ったんだ俺。
ん? んん?

「安心してお兄ちゃん」
「って、何がだ?」
「ちゃーんとチョコはあげるから」

それはさっき聞いた。

「ちょっと特殊なチョコを、ね」

意味深な言葉を頬を赤く染めながら……って、何故に赤く染める舞よ!
何かあるのか? それには何か含んでるってことなのかぁ?!
俺が答えを知るまでに、あともう少し時間が必要だった。


〜Happy Valentine!〜




掲載日:2008/02/14


もどる