・バレンタインな


・そのいち


「ははははは、それでさ〜」

ガパッ  ドサドサドサッ………………

「………………」
「うわ、これはまたなんとも」
「は〜……」
「壮観、ね…」

目の前に広がるは下駄箱から排出された大量のチョコレート。
そう、今年も来てしまったのであります。
バレンタインって言う季節が…。

「はぁ……またか」
「相変わらず人気よのぉ横一。両手に花状態でもまだモテるとは。流石英国紳士がやる球技のトップクラスに立つ男!」
「いや、意味分からんから」
「それにしても、今年はまた例年以上に多いわねぇ。ここまでくるともう贈り物って言うよりゴミね」
「さ、さやか……それはちょっと言い過ぎかもよ」
「でも事実でしょ?」
「うん……まぁ」

心なしか、さやかとひかりの表情が少しどす黒い。
足元に転がってるはじめ宛のチョコをバレないように踏んでるし…。

「おいおい、俺に虫歯になれってか〜?  それとも鼻血を出せと?」
「ちゃんと食べきりなさいよ〜。人気者さん」
「うげぇ」
「まぁなんだかんだ言いつつも結局は…………」

ドサドサドサドサッ………………

「は…………?」
「うわ…」
「あらら……」
「二杯目〜とな?」

昇降口の一部領域内において、異常な数値の糖分量を感知!
そしてその一帯は過剰なほどまでに甘いにおいが…

「さやかもさやかで凄いな。って言うか……」
「なんであたしまで?!」
「ほほぉ。さやかって実は男だったのかぁ。(ニヤリ)」
「そんな訳ないでしょう。バカ!」

すぱあぁん!!

「………………」
「あーぁ、はじめのと混ざって大変なことに……」
「これじゃどれが誰のだか判らんな」
「ど、どうするの。はじめ?」
「どうするか…?」
「あたし、頭痛くなってきたわ…」
「奇遇だなさやか。実は俺もだ」

ははははは……と笑いになってない笑い声を漏らすさやか・尚哉の両名。

「まぁこのままにしておく訳にもいかないし、なぁ」
「ただでさえ周りに人だかりが出来てるのに〜」
「匂いにつられて更に集まってきてるな。特にチョコに縁のない男子連中が」
「とりあえず、これをどうにかしないと」
「でも、何で運ぶの?」
「そ、それは……」
「ん〜、実はここにナイスなタイミングで、サンタのオジサンが持ってるような袋があるんだが」

尚哉、それを一体どこにしまっていた?
しかも何故にそんなのを持っている……

とまぁともあれ下駄箱に散らばった大漁のチョコを仕舞い込むと、人で賑わうこの場をそそくさと退散。
結局手をつけぬまま席の後ろにおいておくこととなった。
……その結果……

「………………」
「………………」
「はじめぇ。部屋の中が甘いよぅ〜」
「安心しろひかり……俺も同意見だ」
「食べてないのに、何故か口が拒絶反応を起こしてるわ……」
「俺もう帰りてぇ」

休み時間といわず、授業中といわず。
とにかく窓を開けようがなんだろうが常ににおい続けるあま〜い匂い。
はじめ達が来るまでバレンタインの話や義理チョコなんかの渡しっこで賑わっていた教室も、すっかり今では沈黙状態…。
誰もがこの匂いにうんざりしていたのであった。
それはもちろん入ってきた先生も例外ではなく……

「で、あるからして…………はぁ。何でこんなに部屋が甘ったるい匂いなんだ。やる気が失せてくる…」

と、すっかり脱力していた。
この状態のお陰で後ではじめに渡すはずだったさやかとひかりのチョコレートは、すっかり渡す気分もなくなり、後日他のものが渡されたとか渡されなかったとか……。

「勘弁してくれ」

そんな二月のある日だった。


・そのに〜


「そ〜う〜た〜さんっ」
「ん、なんだ御菜?」
「今日は何の日だか分かりますかっ?」
「えっ今日?  なんかあったっけ?」
「も〜う。惚けないでくださいよ〜。二月の、十四日ですよ?」
「十四日だろ〜?  えっと…………あ」
「思い出しましたかっ」
「妹の誕生日だった」

かくっと首が傾いた。
そ、総太さん。なんでそうなるんですか……

「ち、違いますよ……それよりも、総太さんの妹さんは今日がお誕生日だったんですか」
「あぁ。すっかり忘れてたよ。今度何か言ってやらないと」
「い、言うだけですか?」
「ん〜、後はなにかお菓子でも」
「あららら……って、そうじゃないですよ〜!」
「え?  違うとな?」
「そうですよっ。話がずれちゃいました」

ぷぅ〜っと頬を膨らませる御菜。

「う〜ん? 他に何かあったか?」
「ありますっ。女の子が男の子に何かを渡す日です」
「渡す日……? 誕生日とかじゃなくて?」
「そうです。誕生日でもお正月でもないですからね」
「あぁっと……ホワイトデー?」
「なんで逆になるんですか〜! 総太さん酷いですっ」
「あっははははははは。分かった分かった。俺が悪かったって。ホンの冗談だったんだ」
「ぶぅ〜」
「今日がバレンタインだってコトくらい分かってるよ」
「あんまりからかうとチョコ上げませんよ」
「ゴメンゴメン。俺は御菜からのチョコだけが全てなんだから。貰わないと幸せ不足で倒れそう。なんてね」
「もぅ……でも、そう言ってもらえると嬉しいです」

御菜の顔に笑顔が戻った。
やっぱり御菜は、笑ってるほうがいい。

「それでは……はい、総太さん。バレンタインデーのチョコレートですっ」
「うん。ありがと。御菜」
「それじゃあ、今食べさせてあげますねっ」
「えっ? いやぁそれはさすがに……」
「遠慮なさらないでください。バレンタインのとっておきの渡し方を磯部さんから教わったんですから」
「い、磯部さん?  橋本の彼女の?  一体御菜に何を教えたんだ……え?  あの、御菜さん?  何でチョコを口に?  あー、なんかそのすごいイヤ〜な予感がするんですけど?」
「……ふぁい、ほぉうほぉ(はい、どうぞ)」
「や、やっぱり!!」

これはあれですか。
前にどこかで見たことあるかもしれないけど、俗に言うハイあ〜んの発展版、私の唇も頂いちゃって♪(謎)ですか。
な、なんて光景……目を瞑ってチョコをくわえて、唇をツンと突き出すような格好で今、御菜が……磯部さん、御菜に妙なことを教えないでくれ……いや、決してイヤじゃないんだけどその……なぁ?

「〜………………」
「……じ、じゃあ……頂きます」

ゆっくりゆっくり顔を近づけていって、御菜がくわえるチョコの端をそっと噛む。
何か傍から見ると本格的に口付けしてますって展開!?

「………………」
「………………」

少しずつ口の中へ入っていくチョコ。
近づくお互いの息遣い。
そして口に含むチョコの甘い感触に加えて――――――


・その????


「……いや〜、まったく。見ててこっちまで恥ずかしくなるような展開だね」
「え、えぇ……まぁ」
「あたしには流石にそんな事はできないなぁ。うんうん」
「あ、あの。ちょっといいですか?」
「うん、なに?」
「なんで俺たちここにいるんですか?」
「え?」
「いや、だって……まだ……」
「こらせーちゃん。そんな事は気にしちゃダメなんだぞぅ」
「え?  えぇ〜そんな」
「せっかく顔を出せるチャンスなんだから。出しておかないと。って、あたし何言ってるんだろうね?  自分でも分からなくなっちゃったよ」
「は、ははは……まぁとにかく、あんまり長居すると何かと問題があると思いますよ」
「う〜ん……そこら辺は特に気にしてないやっ」
「ミー先輩らしいですね……で、結局用ってなんですか?」
「えっ。あ〜いけないいけない。あんまりに衝撃的な瞬間を見ちゃったからすっかり忘れてた。ハイ、これ」
「なんですかこれ」
「チョコ。バレンタインデーだから」
「あ、あぁ……それはそれは。どうもありがとうございます」
「う〜ん、せーちゃんちょっと素っ気無さすぎ」
「そう言われましても……」
「まぁね。あんなのとかそう言うのは望んでないよ?  でもせっかく女の子から貰ったんだしさぁ。もう少し喜ばないと」
「ん〜、どうやら俺もさっきの光景に衝撃を受けてるみたいです」
「そっかぁ……ちょっと渡すタイミングが悪かったかも、ね」
「それよりもむしろ……」
「ん?」
「ホワイトデーに返すものが大変な量になりそうな予感がしました」
「え〜、なんでぇ?」
「せ、先輩……まぁいいですけどね」
「たったのサンドイッチ一か月分オゴリだよ〜」
「………………はぁ」
「あらら、ため息つかれちゃった。む〜、じゃあ今年は他のにするかにゃぁ」
「叶えられる範囲でお願いします。って言うか、何で俺が返すものを先輩が決めてるんだろう?」
「そこはそれ。気にしない方向で。気にしたら負けなのだよせーちゃん!」
「は、はぁ……」
「んじゃあ、そろそろ帰ろっか」
「そうですね。自分でも言いましたけど、長居はアレですし」
「また今度会えるって。すぐにねっ」
「先輩、一体誰に言ってるんですか?」
「さて、誰にでしょう〜?」
「み、ミー先輩……」
「さーてと、それじゃ帰りに近くのパン屋さんでせーちゃんにサンドイッチ奢ってもらおうかなん。ちょうど小腹もすいてきたことだし〜」
「はぁ。まぁいいですけどね」
「せーちゃ〜ん。はーやーく〜」
「はいはい。分かりましたよ」


〜Happy Valentine!〜




掲載日:2005/02/14


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