あなたの隣で…… 二

激しく降る雨の下。
人気のない公園に俺はいる。
俺の目の前にいる人に会うために……。


ギュッと後ろからその人を抱きしめた。
俺と同じく全身ぐっしょり濡れていて、その身体はどこか小さく感じる。
もしかしたら違う人かもしれない。
でも、俺はそうは思わない。
だって、たとえどんな状況でもそのうしろ姿は目に焼きついてるから…。

「……来て、くれたんだ……」

小さな声でそうつぶやいた。
そして、俺の手に自分の手を重ねる。
のせられた手は、とっても冷たかった。

「なにいってるんだよ……当たり前だろうが」
「……ここ、よく解ったね」
「他にもいろいろ探したけど、最後にここが浮かんできた。さやかはきっとここにいるって……ここにしかいないだろうって」
「はじめ……」

そっと彼女を振り返らせると、もう一度ギュッと力強く抱きしめた。
身長差で、さやかの頭が俺の手を回すところに当たるから、まるで親が子供を抱きしめるみたいな形になった。
さやかの背中を、頭をしっかりと抱きしめる…。
さやかもまた、俺の背中にしっかりと腕を回した。

「さやか……俺、やっぱりさやかの事好きだ。諦められない」
「はじめ……」
「俺が隣にいて欲しいのは、ひかりじゃなくてさやかなんだよ。さやか以外じゃダメなんだよ」

それは雨なのか、それとも涙なのか。
判別のつかない水の結晶が一粒、さやかの目尻から頬を伝い流れていった。

「あたしも……好きだった……本当ははじめの事、好きだった……!」

俺の胸に顔をうずめ、溜まっていたものがすべて言葉や涙となって出てくる。
俺がさやかに思いを伝えた時の事。
それを断った時の事。
それからの自分のこと。そして……
今の自分の気持ちを。
俺もいつしか、涙か雨か分からないくらいに泣いていた。
泣きながらさやかの事を抱きしめ続けた。

「すっ……ぐすんっ……」
「……さやか……」
「……すんっ……は、はじめ……」

そして、雨降る公園の下で、俺とさやかはキスをした――――――


「ほら……上がりなよ」
「う、うん……おじゃまします」

なんだか恥ずかしそうにさやかが部屋へと上がった。
あれから公園を後にした俺とさやかは濡れたままじゃ風邪を引くという事で、俺の家へとやってきた。
長時間濡れていた服はもう着衣水泳でもやってきたのかといわんばかりに、濡れてない所を探すのが難しいくらいにぐっしょりと濡れていた。
なんだか、夏休みが始まったときを思い出す。
あの時もさやかと濡れて帰ってきたっけ。
でも今のほうが濡れてるな。
しかも……寒い。

「こりゃ熱いシャワー浴びないと危ないな。さやか、先に浴びて来ていいよ」
「え、でも……はじめだって風邪引いちゃうし……」
「俺は大丈夫だよ。熱い飲み物を作ってるからさ」
「でも……」
「さやかに風邪ひかれちゃったら、俺が困るから。な?」

それでもさやかは渋る。
う〜ん、どうしたものか。

「…………ねぇ、はじめ」
「ん?」
「……一緒に……はいろっか」
「……えぇっ?!」

びっくりして、おもわず持ってたコップを落としそうになった。
い、一緒に入るだって?
それはいくらなんでも……

「……だめ?」

さやかの視線が痛い。
最初、ただ何となく言ってるのかなって思った。
けれど、そのさやかの目は少しばかり潤んでいて……ホンキ、なのかも知れない。

「………………」
「さやか……」


聞こえてくる水の跳ねる音。
今さやかはシャワーを浴びてる。
俺もって結構本気で誘われたけど……流石にそれは……ね。
ちょっとだけ口をとんがらせてたけど、さやかは風呂場へと入っていった。
俺も濡れた服を脱いでから着替えを取り出す。
さやかの着替え……どうしよう。
前と同じくシャツって事になっちゃうけど……。
暖房強めに入れておけば何とかなるか。
いざとなれば布団がある。
濡れた身体をタオルで拭いて、着替えたりといろいろやってる間にシャワーの音が止んだ。
そして聞こえてくるさやかの声。

「はじめ……着替え、どうしよう?」
「あぁ、それなら今渡すから〜」

こんなのしかないのは勘弁してもらおう。
なるべく中が見えないように、腕だけ通るようにドアを開けるとそっとさやかに手渡した。

「テーブルに熱いお茶入れといたから、着替えたら飲んでて。その間に俺が入ってくるから」
「うん……ありがとう。はじめ」

ドア越しにさやかと話をする。
中から聞こえてくるタオルで拭く音と、肌と服がこすれる音。
ちょっとだけ……恥ずかしいな。


「あったかい」

俺の隣にさやかがいる。
あれから、俺もさっと熱いシャワーを浴びてきた。
今はさやかとベットの淵に腰掛けながらこうして熱いお茶を飲んでる。
静かな空間だけど、俺にはとっても安心できる場所だった。
それはきっと、さやかも同じはず。

「あたし……学校、いっぱい休んじゃった」
「俺も今日はサボった」
「今頃……みんなどうしてるかなぁ」
「変わりなくやってるよ。さやかは何も気にしなくてもいい」
「テスト、とかも?」
「うっ……それは…」

そういや、年明けにテストあるんだっけ……。
なんとかなるでしょ。多分だけど。

「尚哉にでもノート見せてもらうか?」
「ノート、とってるのかなぁ」
「……とって無いかも」
「あたしははじめに見せてもらうからいい」
「いや、俺も実は最近ノートどころか授業もまともに聞いてなくて……」

いろいろ、あったからな…。
特にこの二週間ちょっとは。

「じゃあ……もしダメだったら、二人で追試ね」
「かもね」
「それだったら、そう言うのも悪くないかな」
「さやか……」

ニコッと笑うさやか。
この笑顔、実に久しぶりに見た気がする。
それを見た瞬間に胸の奥からこみ上げてくるなにか。
おもわずギュッとさやかを抱きしめた。

「は、はじめ…?」
「ごめん、でもちょっとだけ……ちょっとの間だけ、こうさせてくれ……」

こみ上げてきた気持ちは、愛しさなのか他なのか。
とにかく今はさやかを離したくなかった。
そんな気持ちが伝わったのか、何も言わずにそのままでいてくれた。

「……ねぇ、はじめ」
「ん?」
「もう、絶対に離さないからね。だからはじめも、いつまでもこうして、あたしのこと、ぎゅっと抱きしめていて」
「そんなの、当然だろ。俺だってさやかとずっと側にいたい」
「…ありがとう、はじめ……大好きだよ――――――」

重なる影。
重なる身体。
重なる唇。
そして重なる心と心。
閉まりっぱなしのカーテンの隙間から、一筋の光が俺たちを照らしていた。
それは、長い暗闇が去り光が差し込めた証拠。
俺の心にも、そしてさやかの心にももう暗闇は無い。
なぜならば、もう雨は止んだのだから……。


4.あなたの隣で……



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