あなたの隣で…… 一

「秋津――――今日も休みか。どうしたんだろうなぁ一体」

朝の学校。いつもの光景。
今日もさやかはこない。
そして今日は……

「千堂……千堂? なんだ、今日は千堂も休みなのか? 風邪でも流行ってるんだろうかなぁ」

目に入る二つの空席。
一つはさやかで、もう一つはひかりの。
やっぱり昨日あんな事があったせいだからか、ひかりは今日学校に来なかった。
二人がこういう状態になってしまったのも、俺の責任。
俺がどうしようもないからこんな事になってしまった。
もう、二人に会わす顔がない……。

「横一」

ふと、尚哉が声をかけてきた。
気がつくとざわざわしてる教室内。
いつの間にかホームルームが終わっていた。

「あ、あぁ…尚哉か。どうかしたか?」
「んにゃ、特にはな。ただ、ひかりも来ないなって」
「……そ、そうだな」
「ま、俺が言いたい事は一つだけだ」

やけにサラリと言ったかと思えば、次の瞬間には真面目な顔になって俺に言った。

「ここで行動を起こさないと、お前はいつまで経っても今ままだぞ」
「……え?」

それだけ言うと、尚哉は自分の席へと付いた。
そして始業のチャイムが鳴る。
ざわついてた室内も、先生が来た事で収まって授業へと入っていった。

「………………」

カツカツと黒板を走るチョークの音。
最近授業に集中できてない。
今日も窓越しに外を見ながら考えていた。
さっき尚哉が言った事を。

『ここで行動を起こさないと、お前はいつまで経っても今ままだぞ』

何度も何度も頭の中を駆け巡るこの言葉。
確かに……俺は人から言われてばかりでそこから自分で行動しなかった。
したように思ってただけで、実際は動いてなかった。
だからこんな事になった。
今俺には二つの道が目の前にあるんだ。
このままの自分でいるのか……。
それとも、行動に移すのかを。

「………………」
『……はじめ』

一瞬、さやかの声が聞こえたような気がした。
同時に、動くなら今と思った。
いや、思ったんじゃなくてそうするんだ。
答えは最初から出てた。そう、出てたんだ。
ようは、俺自身が逃げ腰を捨てればいいと言うこと――――。
ガタッ

静かな教室に響いた音に、クラス全員がこっちを向く。

「横浜……どうかしたか?」
「先生、俺帰ります」
「な、なんだと? 今は授業中だぞ」
「失礼します」
「お、おい!」

机の脇に引っ掛けておいた鞄を掴むと、中身も気にせずそのまま廊下へと足を向ける。
ちょうど、尚哉の後ろを通ろうとしたところで、

「頑張れよ……」

と言う声が聞こえたような気がした。


「横浜のやつ……なに考えてんだ」
「あー、先生。ちょっといいスか?」
「ん? なんだ、穂刈」
「人間、時には大切な事にまっすぐな事もあるんスよ。横一は……今がその時なんです」
「は、はぁ?」
「つまり、横一の好きにさせてあげろって意味です」
「し、しかし今は授業で……」
「どうしてもって言うなら俺が相手になりますが?」

横一……気張れよ。


四段飛ばしで階段を駆け下りて、昇降口へと向かう。
授業中だけあって構内も静かだ。
他の人に見つからないから好都合だな。
見回りの先生にも捕まらずに昇降口へとたどり着いて下駄箱の扉を開けると、白い封筒がはらりと落ちた。

「ん……なんだ、これ」

これまで、俺はこんな感じでラブレターなる物をもらったことが幾つかある。
もっとも全部断ったものだけど……今回もそれ類なものかと思った。
でも、今回だけは開けないといけないような気がした。

「!」

開けてみて、中を見たとたん俺は全身が震えた。
なぜなら、その手紙を出した人物というのが――――

『あの場所にて待ちます。   秋津 さやか』

「さや……か?」

手紙を持ったまま辺りを見回す。
それらしき人物はない。
今はまだ一時間目の授業中だ。
学校に着いたのがホームルーム始まる少し前だから、大体三十分も経ってない。
その間に、さやかがここに来たって言うのか?
それに……

「あの場所……って、何処の事だよ」

さやかの言うあの場所。俺にはどこかわからない。
分からないけど……。

「行くしか、ないだろ!」

上履きを放り込んで、急いで靴に履き替えると100メートル走を走るがごとく勢いよく飛び出した。
そして、走り出してすぐ頬に冷たい何かが当たった。

「あ……雨?!」

さっきまで薄い曇りだったはずなのに、今は暗く重い雲が空を覆いつつあった。
最初はポツポツ程度だった雨脚も、すぐに本降りとなって冬にしては珍しいシャワーのような大雨へと変わっていった。

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

足の先の感覚がなくなってきた。
身体も手も、寒くて動きが鈍くなりそう。
冬で雨が降ってるのに傘も差さないで全力疾走してるから無理もないか。
でも、俺はそんな事を気にしている時間はない。
濡れようが濡れまいが、風邪引こうが風邪ひかまいが関係ない!
今、俺にとって何よりも大事なのは、さやかを見つけることで……。
“あの場所”にいるであろうさやかの下へ行く事なんだ。

商店街を通り過ぎて、駅前通りも探し回った。
それでもさやかは見つからない。
あと、俺が行ってないところは……。

「……まさか」

ふと、何か思い立って俺はそこへと走っていった。
確証なんかない。自信もないけど。
でも、何となくそこな気がした。
その場所とは、いつかの夕暮れ、さやかと―――――

「はぁっはぁっはぁっはぁっ…………」

両手を濡れた制服のズボンに載せて、大きく肩で息をする。
もう靴も裾もグチャグチャだ。
制服もすっかり水分を吸って、髪の毛も濡れた重みでだらんと垂れ下がってしまった。
少し呼吸を整えてから、俺はゆっくりと歩き出した。
俺の歩いていく先に立っている、傘も差さずに立っている人の下へと―――――――。




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