心に降る雨…… 三

三日四日と過ぎていって、ついに一週間経ってもさやかは学校に現れなかった。
本当に、どうしたって言うんだ…。


空の机。
もう何日その光景を見ていることか。
さやかは今日もいない。
やはり何かあったんだろうか……。
最近どうも変だ。
さやかの事が気になって仕方がない。
一度断られているのに。
今はひかりがいるのに。
ひかりと話をしている時、何気なく目線がさやかの机や曇った空に向く。
そしてひかりに膨れられ、俺が謝る…これの繰り返し。
俺、何やってるのかなぁ。

「はじめぇ〜、本当にどうしたの? 心ここにあらずって感じだよ」

ひかりが心配そうにこちらを見ている。

「いや、何でもないよ。ただちょっと……寝不足なのかも。最近寝つきが悪くてさ」
「そうなの? 大丈夫」
「考え事とかしてるだけだから大丈夫。ごめんな、迷惑かけて」
「私は平気だよ。ただはじめがちょっと……」
「……ちょっと?」
「ううんっなんでもない」

一瞬だけど、どこか暗い感じのした表情。
でも、本当に一瞬だったからもしかしたら気のせいかもしれない。
あくまで、かも、だけど。

「………………」

放課後、ひかりと二人で帰るようになってからは尚哉が一緒でなくなった。
『俺はそこまで野暮じゃないからな』
そんなことを言っていた尚哉。
どうやら気を使ってるらしい。

「ねぇねぇ、はじめっ」
「…ん、どうした」
「帰りにどこかに寄っていこうよ。このまま帰るのもつまらないからねっ」
「あ〜、そうだな。どっか寄ってくか。何処がいい?」
「おやつでも食べに行こうよ」
「じゃあ商店街の方だな」

わ〜い! と、笑顔を見せながら左腕に抱きついてくる。
一瞬バランスを崩しかけるけど、そこはそれ。
普段の慣れってやつで転ぶ事はない。
周りの目って言うのも大分慣れた。
……まぁ春頃から幾度となくやってればねぇ。

「今日は何を食べよっかな〜♪」

言葉と行動が一致してるひかり。
子供っぽく見えるけど、それがひかり“らしさ”になって見える。
分かりやすくていいって事かな……ちょっとこれは酷いな。
まぁとにかく、そんな彼女様と商店街まで出てきたのである。
入った先は前から良く来てる甘味処。
ひかりはここのあんみつパフェが大のお気に入りなんだそうな。
いつもいつも同じものしか頼まないし。
それを見てよく笑ってたっけなぁ…………さやかと。
そういや、さやかはここのお茶がイマイチ、とか言ってたっけ。
いつだったか、文句つけそうになって慌てて止めに入ったこともあったなぁ。
お茶の事となると目の色変わるし。
まったく、やっぱりさやかは和風娘だったよな。

「……じめぇ」
「………………」
「はじめってばぁ〜」
「……んぁっ、と?」
「も〜注文してるのにボーっとしちゃダメだよぉ」
「あ、あぁ…すまんすまん」
「どうかしたの?」
「いや、ただ……」
「? ただ?」
「ただちょっと、なっ何にしようか悩んでたら真剣になっちゃってつい……」
「それで、はじめはどうするの?」
「んっとー、ひかりと同じので」

あんみつパフェお二つですね。 と言って店の人が注文を伝えに行った。

「はじめがなに頼もうか真剣に考えるなんて珍しいね」
「ん、あぁちょっとな。たまにはひかりと一緒のもいいかなって」
「だったら半分こでよかったのに」
「いや〜ほら、それだとひかりが納得いかないだろ? だって気に入ってるみたいだし」
「うん、まぁそうなんだけどね。ここのはとっても美味しいんだもん〜♪」

早く食べたいよ〜と言わんばかりに目が輝いてる。
よっぽど好きなんだな…。

「いっただっきま〜す♪」

しばらくして運ばれてきたあんみつパフェに至福の表情を浮かべながら頬張るひかり。
俺が3分の1くらい食べる間に、もう食べきってしまった。

「早いな〜」
「うんっ美味しいからすぐに食べ終わっちゃうよ〜」
「良かったら、俺の残り食べるか?」
「えっ?」
「なんかひかりの食べるところ見てたらお腹いっぱいになっちまったよ。残すのももったいないし、どう?」
「はじめがいいなら、断る事なんてしないよ。じゃあ貰うね」
「おぉ、ど〜んと食べてくれ」

そしてひかりは、自分のと俺の残りをきれいに食べきった。

「あ〜、美味しかったよぅ♪」
「それは良かった。俺としても払い甲斐があるし」
「また今度行こうねっ」
「そうだな」
「ねぇ、はじめ」
「ん?」
「今、元気?」
「え?」

元気って、どういう意味だろう…?

「元気ですかぁ?」
「いや、そりゃ元気だけど……なんで?」
「最近、はじめなんだか元気ないって時があるから。さっきのも、メニューに迷ってたんじゃなくてほかの事を考えてたんでしょ?」
「うっ……」
「何かは聞かないよ…。だってそれは、はじめ個人の事だから……」
「………………」

少し悲しそうな表情をしたと思ったら、今度は一転笑顔になった。

「でも、何か困った事があったら私に相談してね。だって私は、彼女さんだよ?」
「ひかり……」
「ねっはじめ」
「そう、だな。困った時はひかりに言うよ」
「うんっ」

夕焼けをバックに、ひかりがそれに負けないくらいに微笑んだ。
でも、この時俺は気がつかなかった。
振り返りざまに一瞬だけ、ひかりが悲しそうな表情をしたことに……


「はぁ」

まるで病人さながら。
誰もが学校に行ってる時間に、あたしはこうしてベットの上。
制服にも着替えないで、パジャマのままで佇んでる。
寝ていてばかりで腰が痛い。
だから今は上半身だけ起きて窓を見てる。
ホント、何やってるんだろうなぁ。
頭も心もぐちゃぐちゃで、やる気が何も起きない。
お母さんが持ってきたご飯も喉を通らなくて……これでお腹が空かないんだから驚き。
いいダイエットなのかしら……なんて、ね。

「はぁ…」

今頃二人は何やってるかなぁ。
ちゃんと仲良くやってるかな。
二人揃って少し抜けてるところあるから、ちょっと心配ね……。

「はぁ……」

もう何度ため息をついたかわかんない。
何か考えるたびにしてるかも。
らしくない……。
はじめならきっとそう言うわね。
ひかりも、尚哉も、きっと…。

「はじめ……」

あたし、自分の心が分からないや…。
どうしたいのか。何をしたいのか……。
なにも―――


2.心に降る雨……



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