彼女の想い 一

キーンコーンカーンコーン……

「ん〜……今日も一日終わったなぁ」

本日のお勤めが終わり、にわかに教室が騒がしくなってくる。
もう何もすることないし、いつものように帰るかな。

「さやか〜帰ろうぜ」
「あ、うん」

これまたいつものように、横にいるさやかに声をかけた。
本来なら尚哉とひかりにも掛けるのだが……

『ごめんね〜はじめ。今日は急ぎの用があって一緒には帰れないんだよ〜』

と言うひかりと、

『めんどいから今日学校サボるわ〜』

って言う尚哉があったから、帰りは二人なわけなんだ。
だから用事があるひかりはもういないし、サボりの尚哉は学校にすらいない。
準備をしてるさやかを待ってから二人で教室を出て家路へとつく。
冬の陽ってのはホント短いよなぁ。
もう暮れようとしてるんだから。
………………
………………
会話がない。
いつもなら何かと騒いで帰るものだけど、会話がない。
ただ帰り道を行くって感じ。
こういうのは嫌いじゃないけど何かヘン。

「な、なぁ。さやか」
「えっ…な、なに」
「今日は二人もいないせいか静かだよな」
「そう、ね」
「………………」
「………………」
「そう言えば、二人で帰るのってずいぶんと久しぶりだよな」
「うん……夏以来、かなぁ」
「だよなぁ。うん」
「………………」
「………………」
「なぁ……さやか」
「……なに?」
「話、続かないな」
「……うん」

やっぱりお互いに話が続かないことは気がついてたみたいだ。
何とか続かせようと搾り出してるけど二言目が出てこない。
こんな事、今まで無かったのにな。

「最近、何かあったか?」
「何かって言うと?」
「いや、特に何でも」
「あったと言えば……強いて言うなら、この気まずさ、かな?」
「………………」
「ヘンよね〜。何でこんなに話が続かないんだろう?」
「冬、だからじゃないか。寒いし」
「そう、かなぁ」
「そんなもんさ」
「う〜ん……」

本当に、この状態は冬の所為なんだろうか。
言った自分が疑問を持ちたくなる。
決してさやかといる事が嫌なんじゃない。
むしろいいくらいだ。うん。
でも、何でかなぁ。最近会話が続かないんだ。
妙に意識しちゃうというか、なんと言うか。
急に言葉が出なくなるんだ。
ホント、どうしちゃったかなぁ……

「さやか」
「ん?」
「寄り道する時間ってあるか?」
「え、どうしたの? 急にそんな事言い出すなんて……」
「何となく、ゆっくり話がしたいと思ってさ。時間大丈夫?」
「うん、大丈夫だけど」
「じゃあ公園にでもよって行こうぜ」
「公園?」
「そ。人いなそうだからゆっくり喋れそう」

学校の帰り道の中間くらいのところにある公園。
子供が遊ぶ場所と言うよりは森林公園に近いかな。
森はないけど原っぱみたいなのがある。
俺たちはその数少ない遊具であるブランコに腰掛けた。

「いや〜いつぐらいぶりかな、こうやってブランコに乗るのって。こんなデカくなってもちゃんと漕げるよ」
「はじめ、それなんだか子供っぽくない?」
「そうかな。別にそうでもないと思うけど。さやかは漕がないのか?」
「いいわよ。それに、今スカート穿いてるし」
「昔は気にしなかったのにな〜」
「昔は昔、今は今、よ」

しばらくブランコを漕いだ後、足を止めてみる。
キーコキーコと反動で少しの間揺れは続いた。
そのままの姿勢でポツリときり出した。

「もうすぐ今年も終わるな〜。一年ってあっという間だ」
「どうしたの急に?」
「いや、ふと思って。だってもう12月だろ? 今年ものこすトコあと一ヶ月弱だ」
「そうね。そう言われればあっという間かも」

その場のムードか偶然か、会話は続いていた。

「来年、俺たちはまた受験生だ。そしてそれぞれの進路へと進んでく。さやかは、進路とかもう決めてるのか?」
「あたし? あたしは……ううん。まだ決まってない、かな。はじめは?」
「俺も。就職ってのは無いと思うけど。進学はまだ何処とかは決めてない」
「また同じ所に進んで行ったりして」
「はははっ。そうなったらそれもいいかもな。少なくてもバラバラになるよかは良いや」
「そしたら今度は四人一緒に、かな?」
「そうだな。みんながいいって言えばだけど」
「あたしは、別にいいよ」
「男子大学でもか?」
「女子大学は聞いた事あるけど男子大はないんじゃない?」

苦笑するさやか。
確かにあんまり聞いた事無いな。
もしかしたら俺だけかもしれないけど……
後は極端な男女比率があるトコだな。
工業系って少なそう。
いや、俺はそこには進まないけど。
はぁ……なんだか太陽がやけに眩しく見える。
しばらく夕陽を見ていると、こんな言葉が出た。

「楽しかった、か?」
「え?」
「今年、さやかは楽しかったかって」
「ずいぶんと話が変わるのねぇ」

やはりまた苦笑していたが、しばらくう〜んと考えてから少しゆっくり目に話し出した。

「あたしは、楽しかったわよ。いつもそうだけど、今年は特に。いろいろあったからね」
「そうか……」
「はじめは、楽しくなかったの?」
「いや、そうじゃないさ……俺も楽しかったよ。確かに今年はいつにも増して賑やかだった。ひかりが……来たからかな」

そう言ったとき、さやかの表情が一瞬だけ暗くなったような気がした。
でも次の瞬間には元に戻ってて。影とかいろいろあるし、俺の見間違えかなぁ。

「……ひかり、か」
「えっ? 何か言ったか?」
「ううん。なにも。……ホント、いろいろあったわねぇ、今年」
「あぁ」
「来年は、どうなるかな」

久しぶりに会話が途切れて、ブランコが鳴らすギィギィと言う音がハッキリと聞こえる。
真っ赤な太陽はもうじき暮れようとしていた。
どこかでカラスが鳴いている。

「……じめは」
「ん?」
「はじめは、さ」
「どうした?」
「す……」
「酢?」

酢がどうかしたか?

「すぅ……はぁ。 はじめはさ。好きな人っているの?」

ドキリ。
心臓が早く動き出した。

「好きな、人?」
「うん」

好きな人……
少なくても、これはいつもの会話からくる話ではない。
結構、真面目な会話かも。
そんな空気が漂ってる。

「まぁ……」
「………………」
「いる、かな」
「それは、意外と近くにいる人?」
「……かも」
「そっか……」

会話はそのまま途切れ、結局帰るときまで一言も話さなかった。
さっきとは明らかに違う空気が流れてる。
別れ際、一瞬見えたさやかの横顔は――――


なんだか悲しそうに見えた。


冬のこの日……
後になって明らかになる事実。
この日から、確かに日常は変わっていった…。




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