「ついに到着!」 徒歩で小1時間、沙夜も一緒だったからか、そこまで長くは感じなかった。 「あ、あれってもしかして…!!」 駅について、俺が見たのは… 黒塗りの車体を堂々と見せ付けて停車している、憧れの蒸気機関車だった―――― 「Marine☆Dream」番外編 4話 “廃線になってしまう路線がある”という情報だけを手に入れて、1両編成の味のある電車だと思っていた俺は、 「蒸気機関車だああああ!!!!」 と、蒸気機関車を目の前にして、おもわず叫んでしまった。 「なあ、夢じゃないよな!? これ!!」 クスクスと微笑する沙夜は、大きく頷く。 「くぅ〜!! わざわざ北海道まで貯金全部使って来たかいがあったぜ!」 子供のようにはしゃぎまわり、持ってきた一眼レフのカメラでその勇姿を撮りまくる。 「よかったら、乗ってみるかね?」 (今、誰が何を喋った…?) ゆっくりと後ろを向くと、駅員っぽい制服を着た中年の男の人がいた。 (乗ってみるか、って言ったよな…?) 「い、い、いいんですか…!?」 声が震えているのが自分でも分かる。 それほど、俺は緊張し、興奮している。 「ああいいとも、これで最後の運転になるから、乗ってくれる人がいるとこいつも喜ぶだろう。」 あっさりと蒸気機関車に乗ることを承諾してくれたので、俺は動けなくなってしまった。 『尚哉さん?』 「君、どうしたんだね?」 この場に沈黙が続き、心配した2人が俺の様子を伺う。 「…ほんとにいいんですよね?」 出せるだけの声を振り絞り、俺は再度確認を取った。 「もし良かったら、簡単な運転作業でもしてみたらいい。」 こんな…こんな幸せな事があっていいのだろうか。 生きている蒸気機関車に乗ることが出来て、しかも運転の補助までやらせていただけるとは!! 「ぜ、是非お願いします!!」 俺は深く、頭を下げた。 「それじゃすぐに都市部へ向かうから、乗りこんでくれるかな。」 私もすぐに準備をして行くから、と言って男の人は駅舎に戻ってしまった。 『やりましたねっ! 尚哉さん!!』 この突然の申し出に体がついていけず、俺たちは心だけが先行していた。 「やった…乗れるんだ、こいつに!」 もう一度この車体を見上げる。 現役で走ってきたこの見事な蒸気機関車に乗れることを俺は誇りに思った。 駅員さんと俺ら2人は、すぐに乗り込む。 「出発進行。」 駅員さんが、もう何年も同じことをしてきたかのように、慣れた口調で発進させる。 ――しゅっ、しゅっ、しゅっしゅしゅしゅ……… 発進してから、さっきの駅員さんの言葉を思い出し、運転室に向かう。 沙夜は客室で座っていたいというので、俺だけで来た。 駅員さんだけかと思ったら、もう一人いた。 蒸気機関車の運転は、1人ではなく2人でやるそうだ。 「じゃあ早速やってみるかい?」 「お願いします!!」 やらせてもらえるのは、石炭を入れる作業だった。 これなら俺にも簡単にできそうだ。 「ほんとうなら、水の調節も必要なんだけど、これは難しいから私がやるよ。」 駅員さんでないほうの人が言う。 俺は、ひたすら石炭を入れ続け、その間、この蒸気機関車の話を聞かせてもらった。 都市部まで乗ってきた蒸気機関車と別れを告げて、俺たちは帰路へついていた。 さっき通った道とは違い公園を通るみたいなので、道は沙夜に任せる事にした。 すでに橙色に染まった公園に、俺と沙夜の影が伸びる。 「博物館にそのまま納めちゃうらしいんだ…まだ走れるのに、勿体無いなぁ。」 都市部と田舎を結ぶ路線だったらしいのだが、もう利用する客がいなくなってしまったために、廃線になってしまうらしい。 『しょうがないですよ…客がいなくちゃ電車は動きませんし…。』 沙夜も残念そうだ。 肩を下ろして、すこし沈んでいる。 「ま、最後に俺たちが客になれたから、よかったよな!」 いつもなら見ているだけでも笑える反応を見せてくれるのに、今日は違った。 (沙夜が笑ってくれないと調子が狂う…。) その後も俺が何を言おうと、沙夜が笑ってくれることは無かった。 (どうしたんだろう、沙夜は…。) さっきまでずっと笑顔だったのに、一気に暗くなってしまった沙夜。 どうしたの? と聞いても首を振るだけで答えてはくれない。 二人の間に沈黙が生まれる。 何をしたわけでもないのに気まずくて、空気が重い。 『尚哉さんは…明日、帰っちゃうんですよね?』 急に足を止め、聞いてくる沙夜。 「うん、その予定だけど…飛行機に間に合うようにしないと帰れないし。」 『…。』 止まった足をとぼとぼと動かして、何も言わずに抱きつく沙夜。 「沙夜……。」 俺が名前を呼ぶと、沙夜の抱擁が強くなった。 何を伝えたいのかがはっきりと分からなくて、自分自身に苛立つ。 「ヒュ〜ヒュ〜っ♪ いやぁ熱い熱いっ!!」 はっ、と俺が顔を上げると、この前のハッタリ野郎が4、5メートル先にいた。 急いで後ろを確認すると、ひと目見ただけで10人以上はいる。 「いくらタイマンで勝てないからって…今度は数で来たか。」 沙夜を守りながらでは完全に不利になる。 なので、とりあえずこの場は沙夜を別の場所へ逃がすことにした。 「なっ!!」 ―どかっ! ハッタリ野郎を跳び蹴りで倒すと、沙夜を逃がす。 「ここから離れろ、沙夜!!」 「くっ…ほざくなっ!!」 『…っ!!』 沙夜が震えて、その場から動けなくなってしまう。。 このハッタリ野郎に対してだけ反応する沙夜に疑問を持った俺は、すぐに沙夜に近付く。 「沙夜…あいつになんかされたのか?」 そう聞くと、俺に抱きついて震える沙夜が小さく頷く。 「そっか…なるほどね。」 (どうりで怖がるわけだ…。) 「…いいか沙夜、こんな奴らなんかにもう怖がる必要は無いんだ。」 「くそったれが! もう許さねえぞ!! おい、アレを貸せ!」 やっと起き上がったのか、後ろで怒鳴り声を上げている。 「…捕まるなよ、沙夜。」 そう言って立ち上がらせると、沙夜を走らせる。 ―バゴッ!! 俺の後頭部に鈍い音とともに衝撃が伝わる。 「…それで、満足したか? ハッタリ野郎が。」 「馬鹿な…バットだぞこれは!」 沙夜が公園から出たのを確認して、頭をおもいっきり殴ったはずなのに倒れない俺を見て動揺するハッタリ野郎と対峙する。 「1対30で、始めの攻撃が奇襲とは随分とVIPな待遇だなぁ。」 「だ、黙れ!! 一気に潰すぞ!!」 その声を張り上げたときには、すでに5人は地面に倒れていた。 「横一がいれば2分もかからないんだけどな…。」 尚哉の速さについて行けず、次々と倒れていき、30人もいた相手もすでに14人くらいになっている。 「ば、化け物だ…勝てるはずがねえ!!」 そのうち10人が逃げて、残り4人。 「どうした、もうかかって来ないのか…?」 この挑発に乗ってかかって来た男3人の攻撃をかわして、一人一人倒していく。 残り、1人。 「な、なんだよお前…。」 「…。」 ハッタリ野郎と逃げた奴以外が地面で潰れていて、こんな時間に人がいっぱい倒れているすごい公園になってしまった。 「お前、沙夜になんかしたらしいな…。」 ―グググっ…。 首を掴んで、地面から浮かせる。 「く、苦しい…。」 「あの怖がりかた…尋常じゃねえよ。何したんだお前。」 「何もし…ぐぉ!!」 苦しそうに、もがくハッタリ野郎。 「…そういうことなんだな?」 もうどうすることも出来ないのか、頭をぶんぶんと振って苦しみから逃れようとする。 「沙夜はもっと…もっと辛かったはずだ。」 口から泡を吹いて、目は白目になる。 「ちっ…。」 首から手を離すと、地面に力無く崩れ落ちる男。 「…沙夜。」 俺は、空を見上げた。 すでに橙色から藍色に変わり、月が地面を見下ろしている。 『尚哉さんは…明日、帰っちゃうんですよね?』 書いたスケッチブックを見せる沙夜の淋しげな瞳が、俺の脳裏に焼きついて離れなかった…。 4話 完 終章へ…