こんなに楽しく過ごす時間は久しぶりだ。 中学時代、横一と遊んだときの楽しさに匹敵するくらいに。 そんな心地よさの中で、俺は眠りについた……。 「Marine☆Dream」番外編 3話 「横一、いくぞ。」 ―行くって、何処へ? ていうか横一って言うな。 「分からなくても、黙ってついて来い。」 ―…屋上へか? 「分かってるじゃねえか。」 ―でも、さやかの問題だぞ? 「あいつの問題でもあるが、それよりも“問題”なのがあの野郎どもだ。」 ―一応警戒はしとくつもりだけど…。 「甘いぞ横一。あいつらは今日の放課後に必ず行動を起こす。」 ―尚哉がそこまで言うってことは…あいつらの本当の狙いは!? 「ご名答…。さっさと行くぞ。」 ―尚哉…。 「どうした横一。」 ―お前、どのくらいキてる…? 「言わせるな横一、お前も同じだろうが…!」 ―ていうか、さっきからお前横一横一って!! ―ゆさゆさっ 「んん…。」 誰かが俺の体を揺すっている。 誰だ…茜か? それとも梢か…? ―ゆさゆさゆさっ 「うーん…あともう少し…。」 まあいいや…夏休みだし。 もう少し寝たってバチはあたらないだろ…。 ―がさごそ…ぴたっ! 「うわあああああ!!!!!」 肌から直接伝わる冷たさに、思わず声を上げる。 何が起こったのかも分からず、パニック状態に陥る俺。 「目の前に沙夜がいるって事はここは俺の家じゃなくて起こしてくれる人もいない訳で…。」 『ひとまず落ち着いてくださいっ!!』 沙夜が書いた紙を読んで深呼吸し、今置かれている状況を把握する。 「…おはよう、沙夜。」 しばらくして、ようやく出てきた朝の挨拶。 『おはようございます♪』 沙夜は何故か正座し、前に手をつきながら挨拶をする。 そして、沙夜が何かを書いて、それを俺に差し出す。 『寝顔、可愛かったですよ☆』 その瞬間、俺の顔が爆発しそうなほど熱くなった…。 『じゃ、ご飯の準備できてますから早く食べましょ♪』 朝から沙夜はすごく機嫌が良さそうだ。 あのハッタリ野郎を怖がっていたなんて嘘のように。 (俺の寝顔って、そんなに可愛いのか…?) …一瞬、帰ってから聞こうかと思ったが、茜と梢のコンビに瞬殺される様子が見えたので、考えるのをやめた。 『それにしても、ええもん見させてもらいました…。』 朝ご飯中、やたらニヤニヤしながらそんな事ばっかり書いては見せてくる。 昨日の俺が沙夜をからかったように、今日は沙夜が同じことをしている。 いつもなら妹に叩き起こされるため、そんなこと言われた事も無かった。 …顔がまだ熱い。 「ごちそうさまでした。」 それでも、料理は文句なしに美味い。 久々に朝飯をまともに美味しいと思った。 『今日は廃線になる電車を見にいくんですよね?』 「そうだな…行きかた分かる?」 『私も行きますから…案内しますよ。』 「お、助かる♪」 『それじゃあ私は準備しますから☆』 「了解。」 と、いうことで部屋から出てきた俺。 今日も沙夜と一緒にいられると思うと、なんだか楽しい気持ちになる。 (そういえば…どうして中学の時の夢なんか見たんだ…?) ―くいくいっ 袖を引っ張られたので後ろを向くと、満面の笑みで沙夜がいる。 『行きましょ、尚哉さんっ♪』 そう言って俺の左手を引っ張って、俺を急かす。 (沙夜も楽しそうだな――) そんな事を思いながら、俺は沙夜に、現地のことを聞きながら目的地へ向かった。 「地平線が見える…広いなぁ。」 一度都市部に出た俺と沙夜は、電車にのって廃線になる路線の駅へと向かう。 その駅に一番近い駅から、歩いて1時間ほどだそうだ。 『都市部を出ちゃうと、畑と牧場しかありませんけど。』 「退屈?」 現地の人間もやはり同じような景色ばかりだと退屈なのだろうか。 と、疑問に思い、聞いた。 『もう慣れましたけどね。でも…。」 「でも?」 『今は、尚哉さんがいますから退屈じゃないです♪』 書いた文字を俺に笑顔で見せてくる沙夜。 すでに、書きすぎてメモ帳くらいの紙がなくなったのか、絵を書くようなスケッチブックになっている。 言葉がない分、こういった表現方法が新鮮で、俺は思わず鼻の頭をかいた。 「まぁ、俺も沙夜といると退屈じゃないけどさ。」 俺の座っている席の対称方向にいる沙夜をまっすぐ見れず、顔を窓のほうにそむけた。 たった一日、出逢ってから今まで一緒にいただけなのに。 横一やさやかといるのが楽しいという思いとは、また違った感情が芽生え始めている。 (まあ、こういうのも悪くないよな。) それがなんという感情か俺は知らなかったが、とても心地よかった…んだけど、 廃線になってしまう路線の最寄り駅に向かって歩いているとき、俺は確かに感じ取った。 (誰かに見られている…?) さっきから見られているような感じがする。 それも一人ではなくて、複数…。 (気にしたほうがいいのか、それとも…。) 『どうかしました?』 ここで、沙夜を変に怖がらせてはいけない。 「いや、なんでもないよ。」 (まあ、この周りの景色なら誰か居たらすぐに分かるもんな。) 俺は、そう思い込むことにした。 くだらないことで、こんなにも有意義な時間を潰したくはないからだ。 「ついに到着!」 徒歩で小1時間、沙夜も一緒だったからか、そこまで長くは感じなかった。 「あ、あれってもしかして…!!」 駅について、俺が見たのは… 黒塗りの車体を堂々と見せ付けて停車している、憧れの蒸気機関車だった―――― 3話 完 第4話へ…