「へぇ…夏なのに涼しいもんなんだな〜。」

飛行機で数時間。
俺は一人で、日本列島最大の大地に立っている。

北海道に廃線になってしまう路線があるみたいだ、という情報を聞きつけた俺は、夏休みを利用してここまで来てしまった。

その目的は2つ。
廃線となる電車を見ること。
もう一つは、その電車に関わってる人の話を聞くこと。

この、電車に関わってる人の話がマニアにはたまらなく面白いものなのだ。

「うし、行くかぁ〜!!」

俺は空港から高速バスに乗り、今回の目的地を目指した…。







―「Marine☆Dream」番外編 1話―






「…。」

俺の目の前には、広大な農場と大きな牧場。

「ヒヒ〜ンッ。」

(ここから歩くんだっけ…。)

記憶を辿ると、降りるのはここであっているはずなのだが…。
やはりこういう場合は現地の人に聞くに限る。

「…。」

あたりを見回すが、家らしきものが一軒も無い。
ジャガイモ畑やとうもろこし畑、馬と牛が放牧されているを見ることができるだけだ…。

うーん…素晴らしきところかな、北海道。

「とりあえず都市部まで行くか…。」

俺は再び、高速バスの旅を選んだ…。








夕方になって都市部についた俺が知ったのは、直ではもう行けない為、
途中まで電車でいかないと目的の場所までいけないということだった…。

「バス降りなくてもよかったんじゃん…。」

体から一気に力が抜けたような感覚がして、睡魔が俺を襲う。

(ホ、ホテルに行って今日はもう寝よう…。)

事前にホテルは予約してあるため、俺は不安定な足取りで歩き出す。

(眠い…。)

飛行機の中では、初めてという緊張感で寝れなかったし、バスの中では昂ぶる気持ちを抑えられなくて眠くなかったし…。
ホテルにつくまでは余計な体力を使わないようにしないと…

「ぶつかっといてそれは無いんじゃないの〜?」

少し前で、誰かが柄の悪い男に絡まれている。
周りはそれに気がつきながらも何もせず、ほとんどが素通りしていく。

見ると、絡まれているのはただただ頭を下げている女の子。
男に手を掴まれているが、声すら出せないほど怖がっているのか…。

「ちっ…。」

すでに人だかりで男の周りは人の輪になっている。
舌を打ちながらもその真ん中へ俺は歩み寄る。

「なんだお前は? 文句あるのか?」

品性のかけらも無い言葉を吐くあたりハッタリ野郎だと思うが…。
女子があまりにも怖がっているので、助けてあげる事にする。

「その子が嫌がってるのは明らかだぞ。離してやれよ。」

俺が女子と男との間に入って、女子を庇うような体勢にすると、男は露骨に機嫌を損ねて、いきなり殴りかかってくる。

―ぱしっ。

「喧嘩に卑怯もクソも無いってか…。」

奇襲のパンチを止められ動揺したか、すぐに中段の蹴りを繰り出す男。

―ささっ。

難なくそれを避ける。

「体力を使いたくないから今退けば見逃してやるよ…。」

「調子に乗るなよコラァ!」

(まったく…。)

そうだった…こういう奴に限って変にプライドが高いんだった…。
男はがむしゃらに襲い掛かってくる。

―すかっ。

あ〜…なんだかイライラしてきた。

―さっ、ささっ。

もう丸1日くらい寝てないからかな…前日は興奮して寝れなかったしなぁ…。

「全部避けやがった…。」

「…。」

男の右頬に一発。
よろめいたところを見逃さず、すぐみぞおちに左の拳を入れる。

「っ!」

声ではない声を出し、男はその場に倒れて悶絶する。

男が動けなくなったのを見て、今にも泣きそうな顔でこっちに走ってくる女子。

「おう、大丈夫だったか〜?」

こくこくっと頷く女子。
なにやら、自分が持っている鞄から紙を取り出して何かを書き、俺に見せる。

『ありがとう…。』

喋ればいいのに…。
言葉で言えばいいものを普通は紙にわざわざ書かないよな…。

『私、喋れないけど…違う方法で表現できるから。』

疑問が顔に出ていたのか、心を読まれたのか…自分から事実を教えてくれる彼女。

『紙に書けば大抵は伝わるし、耳は正常だからなに言ってるかも分かるし…ジェスチャーもできるし。』

そう書いた紙を見せてから必死になってさっきの俺のジェスチャーをする彼女をみて、思わず吹き出してしまう。
声を殺して笑っている俺を見ると彼女は、頬をふくらませて、拗ねる。

「ごめんごめん…よかったら名前を教えてくれないか?」

再び、こくこくっと頷くと、急いで紙に書いて俺に渡す。




『中山沙夜』




「呼び方は沙夜でいい? っと、俺は穂刈尚哉。よろしくな。」







これが、俺と沙夜との出会いだった。










1話  完




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