俺は今、空港と言われる所にいる。

速達で届いた沙夜の手紙によると、今日のお昼にこの空港に来ると書いてあった。
つまり、それは俺に迎えに来てくれというのと同義語なのだった。

「まったく、急すぎなんだよなぁ。」

茜はあの後、他の妹弟や横一たちに、沙夜が家に来るという事を言わなかった。
そして、今日は朝からずっとご機嫌で、梢や真が首をかしげる中、俺は一人黙々と飯を食べて、間に合うように家を出た。

(あいつ、何か企んでるんじゃ…?)

俺は不安になりながらも、空港で待ちつづけた。






穂刈くん番外編AGAIN 中章







時刻は正午。

お昼にってことは、正午あたりに来るということだ。

ゲートからちらほらと人が出てくる。

「あ、居た……。」

既にゲートから出ていた沙夜が、自分の荷物を取りに行く。
スポーツバッグというか、沙夜が持つにしては大きい荷物を抱えると、キョロキョロと周りを見回し始めた。

「ああそうか、俺を探してるんだ、あいつ。」

急いで沙夜のところまで行く。
少しすると、自分のほうに歩いてくる俺に気がついたのか、自分からもこっちへ歩いてくる。

「久しぶりー。」

『居ないのかと思いました……。』

書いたスケッチブックを下ろして、泣きそうになる沙夜。

「ちょっと、急すぎてビックリしたけどな。」

俺がそう言うと、はっ と俺の顔を見て、また書き始める。

『だって……会いたくなったんだもん。』

それを見せるのも恥ずかしいのか、俺と目をあわせない沙夜。

「……沙夜、それは反則だな。」

俺も恥ずかしくなって、沙夜のバッグを肩に掛ける。

「とりあえず、ここ移動しようぜ。」

沙夜が頷くのを見てから、俺たちは歩き出した。











空港からは、電車を使う事にした。

「沙夜、髪伸ばしたんだな。」

一年前は、ショートっぽかった。
髪は長くなっても、俺は一目見ただけで沙夜だって分かったが。

『へ、変ですか……?』

不安そうな顔で聞いてくる沙夜。

「一発で分かったから、似合ってるんだろうな。」

普段言わないような言葉が出ていることに気付いた。
沙夜は、その言葉に何も返さず、代わりに笑顔を見せた。

(沙夜の笑顔って、人を安心させる何かがあるよなぁ……)

その後、何回か沙夜との“会話”を楽しんで、一年会わなかったギャップを埋めていく。
程よく喋ったところで、沙夜のスケッチブックの紙が無くなる。

「無くなっちゃったか。」

『どうしよう…ちっちゃくしか書けない…。』

文字の隙間と隙間に書く沙夜。

「んー、この電車の終点まで行くから、寝てれば?」

じゃあ…お言葉に甘えて、と言いたげな顔で頷くと、俺の肩に頭を預け、沙夜は目を閉じた。

(周りから見たら恋人同士だよなぁ……この状態。)

やわらかな圧力が肩に掛かるのを感じながら、俺は考えた。




俺は。



沙夜を。




沙夜という存在を、俺はどう思っているかを――――











(……ん。)



いつのまにか自分も寝ていたのか、俯いていた顔を起こして、今の駅を確認する。

「あと三駅か……。」

いいところで目が覚めたと、自分でも思う。
隣を確認すると、沙夜が気持ちよさそうに寝息をたてている。

(寝にくくないのかな……?)

あと三駅だから起こそうかと思ったが、あまりにも気持ちよさそうに寝ているので、着くまでそのままにしておく事にする。




――沙夜、か。




廃線になる蒸気機関を見にいった、去年の夏。
そのときにハッタリ野郎に絡まれていたのを助けたことで、俺は沙夜と出会った。



――終点〜終点です。お忘れ物の無いようご注意ください。



「沙夜〜、着いたぞ。」

ぽんぽん、と頭を軽く叩く。
よほど気持ちよかったのか、ものすごく眠そうな顔で、俺の後をついて来る。

「ここから、歩きで少し行ったところにあるから。」

うんうん、と頷く沙夜。
朝の茜の上機嫌な様子がふと頭を過ぎる。

(何もしなきゃいいけど……。)

そのとき、服の裾を掴まれる感触があった。

「ん?」

俺が聞き返すと、沙夜は俺の向こう側にある何かを指差す。
その場所には……文房具屋があった。

「……スケッチブックか。」

買ってくるから、ちょっと待っててと、ジェスチャーで俺に伝える沙夜。
久しぶりに見る沙夜のジャスチャーは、俺の笑いを誘った。

「拗ねんなって。俺も行くよ。」

この沙夜のジェスチャーを見ていると、面白くて笑いがこみ上げてくるのだ。
決まって、俺が笑うと沙夜は拗ねて、それを俺がなだめて、の繰り返し。

些細なことなんだけど、沙夜じゃなきゃこんなに面白くは無いだろう。
一緒にいて、こうは楽しくはないだろう。





それは、沙夜だから。
沙夜が沙夜であるからこそ、俺は楽しいんだと思う。





久しぶりに本人に会ったことで、俺は確信を持った。




やっぱり、俺は、沙夜の事を………――――










『これも買ったし、早く尚哉さんちに行きましょー♪』

「バスで行きたい? それとも歩きで行く?」

念のため、聞く。
駅から少しといえども、女の子が歩くには結構な距離があるからだ。

『……徒歩がいいな。』

俯いて、真新しいスケッチブックを見せる。

「じゃ、ゆっくり行こうぜ。」

俺自身も、沙夜と喋りながら歩きたかったのもあってか、その答えは嬉しかった。


こう、やはり、男と女が並んで歩いていると、俺の横の沙夜は、俺の彼女に見えるんだろうか――――






そんな事を思いながら、沙夜と喋りながら、俺の家を目指す。



そして……


「到着。ここが俺んち。」

穂刈家の玄関前に着いたのであった。











穂刈くん番外編AGAIN 中章   完



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