俺はベッドに横になって、封を切り、取り出した手紙を読んだ。

手紙は五枚の便箋で、相変らず、字が綺麗で読みやすい。

「沙夜の字も変わらないよなぁ〜。」

そんなことを呟きながら、文面を追っていく。

手紙には「お久しぶりです尚哉さん、お元気ですか?」という文章で始まり、
「この前野良猫が家に来て…。」とか、普通の世間話が連ねてある。
沙夜らしい文面で、思わず笑みがこぼれる。

「何しろ、一年前だからなぁ……。」

沙夜は声が出せないから、電話は使えない。
だから、手紙でやり取りするしか方法が無かった。

今までの手紙は俺がすべて郵便受けから取っていたのだが、今回のは真が取った為に、こんな騒動になってしまったのだ。





そして、俺の目が手紙の一番最後の文章に差し掛かったとき、俺は手紙を持ったまま動けなくなった。




「尚哉さんに会いたくなったから、飛行機で会いに行きますね。明日のお昼くらいにそっちに着くと思います♪」




「なっ、なにーっ!!!」

その瞬間穂刈家の周辺に、尚哉の叫び声が響き渡った。







穂刈くん番外編AGAIN 序章






――ちょっと待て…落ち着け、俺。

もう一度、文面に目を落とすが、その文字に偽りはなく、はっきりと「明日のお昼」と書いてある。
急いで、さっき捨てた封筒の表を確認する。

「送ったの、今日かよ…。」

律儀にも、速達で送ってくれている。
なんということだろうか。

「明日のお昼って…。」

学校があるじゃないか、と言いかけたところで、今が「夏休み」だという事に気付く。

「沙夜が、来るのか…? 明日…。」





――ダッダッダッダッダ………。





階段を上がってくる音がする。
慌ただしい足音は俺の部屋の前で止まり、ノック無しでバタンっ!! とうるさく部屋に入ってきた。

「尚哉ったら何大声出してんのよ!」



――まずい。



「ん…あの手紙開けたの!? 見せて見せてっ!!」

さきほど話した沙夜のことに、ものすごい興味を示した茜が“これ”を見つけるのは簡単な事だった。
俺の手に今、しっかりと握られているのだから。
まさに獲物を狙う野獣のように、手紙を奪い取ろうとする茜。

「駄目に決まってんだろっ!」

やっと手紙のことから沙夜のことに興味が移ったのに。
今見られたら台無しになってしまう。

「……いいよじゃあ、今日の尚哉の夕食“茜&梢の特製トマト料理”にするから。」

「それはまあ、随分と豪華な夕食だこと……。」

茜の目が笑っていない。
これはヤバイ、この妹たちなら本気でやりかねない。

返答に困っていると、茜がさらに追い討ちをかけてくる。

「さっき言った夕食プラス……下のみんなに言いふらしてやるんだから。」

あはは♪ と短く笑い「それでもいいの〜?」とニヤニヤしながら上目を使う茜。




すでに「選択権」というものが、俺には無かった。










「……ったく、じゃあお前だけだからなぁ。」

「やったぁ♪」

「……はぁ。」

気がのらないも、茜に手紙を渡す。
ものすごく楽しそうに、自分の考えをまとめるかのように、ゆっくりと書かれた文章を読む茜。




そして、茜が最後の文章までたどり着き、手紙を俺に返してくる。

「ねぇ尚哉ったら、もしかして……迎えに行っちゃったりするわけ?」

好奇心丸出しの声で聞いてくる茜。

「そりゃ、俺に会いに来るんだから、迎えにいかないと…。」

「じゃあ、家に来るんだ。その、中山沙夜さん。」

これでもか、と言わんばかりに、俺を焦らせる茜。

「ぃや、それは無いぞ。」

「来るよね?」

夕食を特製トマト料理にされたいの? と茜が言葉に出さなくても目で分かってしまうのは、やはり血が繋がっているからなのか。

「分かったから、トマトはやめてくれ……。」

「とうとう連れて来るんだ…尚哉があの人たち以外の女の人を…♪」

楽しみ楽しみ♪ と呟いて、俺の部屋から出て行く茜。

嵐が過ぎ去った後のように部屋は静かで、疲れと不安が、俺の中に残った。





沙夜が、家にやってくる――





俺は、沙夜のことを、皆にどう説明すればいいのだろう……。




いろいろな事を悩みながら、その日の夜は更けていった――










穂刈くん番外編AGAIN 序章   完



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