Marine☆Dream ― Summer memories ―
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
電車に揺られながら、外を見ている。
目的地に近づくごとに、懐かしい景色が目の前に広がってくる。
九年ぶり―――
そうだ、九年ぶりの街だ。
もうそんなに行ってないのか。
少しは変わったかなぁ。
俺が懐かしさに浸っている隣では、その九年来の親友であり幼馴染がいる。
その幼馴染が二人、すやすやと寝息を立てていた。
もう電車に乗って二時間か……それじゃ飽きて寝てしまうだろう。
騒いでたのは最初だけだ。
俺の肩に寄りかかって寝ている女の子――さやかと、
反対側の椅子で腕を組んで寝ている男の子――尚哉。
せっかくの夏休み、どこかに遊びに行こうという事で決めた俺の生まれ故郷への旅。
旅といっても、朝早くに行って夕方に帰る日帰り。
本当は二日くらいかけてゆっくり案内したかったなぁ……
今はそこにいるかわからないけど、会わせたい人もいるから。
「………ん…」
「…おっ、起きたか?」
「ん……あ、あれれ…ひょっとして、あたし寝ちゃった?」
「そりゃもうぐっすりと」
「ごめんね……」
「気にするなって。もうそろそろ着くから」
そう言ったところで、反対側に座る尚哉も起きた。
あの電車マニアの尚哉が車内で寝るなんてありえないと思ったけど……寝るんだな。
「ふぁ〜……寝た寝た。今は…どの辺だ?」
「ついさっき神館を出たトコだ。あと二駅で春日井に着く」
「むぅ、って事は相当寝ちまったみたいだな……にしても、さすが朝一番の快速だ。客がほとんどいない」
「朝一番はともかくとしても、これは下りだ。しかも、朝の通勤ラッシュに逆らうんだから、
人がいなくて無理ないんじゃないか?しかも、今ちょうど七時過ぎだし」
今日は本当に早く出た。
普段なら絶対に乗る事がない、初電から三番目の、かつ下り一番最初の快速に乗って来ている。
当然、途中で乗ってくる人なんて指折り数えられるくらいだ。
『次は春日井 春日井です』
アナウンスが流れた。
どうやら目的地に着いたらしい。
やや振動があって、電車が減速していく。
「あれ?確かはじめ、あと二駅って言ってなかったっけ?」
「あぁ……そうだと思ったけど。おかしいなぁ」
春日井の前って神館じゃなかったハズだけど………
「横一、これ快速だぞ。お前が言いたいのってこれだろ?」
そう言って尚哉は目の前に本を――駅名が乗ってる時刻表を見せた。
俺たちが乗った電車の時間をつーっと目で追っていくと……
「…あれ?通過だ」
「だろ?」
さっすが電車マニア。
…おっと、話してる間に到着したみたいだ。
ほとんど人のいないホームに降り立つ。
「到着〜!!」
「やっと着いたわね〜」
体をほぐすように、う〜んと3人で伸びる。
やっぱり二時間も座ったままだとこたえるわ……
「さてと、では行きましょうかね」
改札口を通って、駅の外に出る。
―――――――
「…あれ?どうかしたのはじめ?止まっちゃって」
「いや、九年も来ないと駅前は変わるな〜と思って」
ま、そりゃ当然か。
高層ビルとかはないけど、結構大きなデパートみたいのが、昔駐車場だった場所に建っていた。
道……迷わなきゃいいけど。
「横一、移動する前に朝飯食おうぜ。腹減った……」
同時に、ぐうぅぅぅ〜と尚哉の腹の音が鳴った。
「だらしないわねぇ〜」
「るせ〜。俺はちゃんと三食取らないとダメなんだ」
「茜とか、梢の影響?」
「まぁ、それもあるんだろうな。という訳だ。まずは、朝飯な」
「しょうがないなぁ……」
結局、コンビニは嫌だという事なので、三人で朝マックする事になった。
「ふ〜む、ここまで来ると昔と大差ないなぁ」
朝マックの後、まずは神社に行ってお参りして住宅地へと降りてきた。
昔空き地だった場所に家があること意外は本当に当時のままみたいだ。
俺が住んでた家とか、あるかな?
「ここだけ見てると、あたし達が住んでいる所と同じに見えるわね」
「ま、家なんてどこも一緒だろ。俺としては横一が住んでた所が気になる」
「ねぇ、はじめが住んでた家ってどこなの?」
「ここよりもっと向こう……だったかな?」
いかん、ちょっと忘れ気味だ。
「……確か、この道を左に曲がって公園を抜けると……」
―――あ、あった。
公園の先に見える赤い屋根の建物……九年前と全く同じその姿があった。
そして、その隣は―――――
「…………………」
「はじめ〜」
はじめちゃ〜ん
「…はじめ〜」
はじめちゃ〜ん…
「はじめってば〜」
はじめ―――
「……はっ!?」
「あ、やっと気がついた。んもうっ急に黙り込まないでよね」
「あ、あぁ……すまん(気のせい、か)」
「どうかしたの?」
「ちょっと、昔を思い出してた。ここ、昔よく遊んでた公園なんだよ」
「そうなんだ…小さい頃のはじめって、どんな感じだったのかなぁ?」
急に…あの頃の思い出が蘇ってきた。
まだ小学校にも上がっていない、それこそ毎日夕方遅くまで遊んでいたあの頃。
俺の手には、もう一人の子の手があった。
家が隣で、ふとした事から一緒に遊ぶようになって、一緒にご飯食べたり、
一緒にお風呂に入ったり、一緒に泊まって寝たり……全部が懐かしい思い出だった。
― 今、あの子はどうしているだろう? ―
― 元気にやっているだろうか? ―
― 俺の事…覚えているだろうか? ―
― 何も言わないで引っ越してしまった事、怒っていないだろうか? ―
「あっ、ちょっとはじめ……」
体が勝手に動いていく。
まるで自分の家に帰るかのように。
そして、昔住んでた家の前で止まる……
その昔、『横浜』と付いていただろう表札入れには別の人のが入ってた。
「これが、はじめが住んでいた家なの?」
「あぁ、九年ぶりの再会だよ。全然……変わってないな」
「ほぉ〜……ここか」
二階のほうへと顔を上げる。
カーテンが閉まっただけの窓から、小さい頃の自分が出てきそうな感じがする。
そして、隣の家へと目を向けると―――――
「あ……………!」
変わっていない…
九年前と全く同じだった。
しっかりと覚えてるという確証はないけど、何となく…
いや、間違いない。
あの子はまだここにいるんだ。
だって、その表札には――――
「あれ?どうしたの、急に笑っちゃって」
「…いや、ちょっと安心しただけ」
「安心?」
「家が残ってた事にか?」
「いや、違うよ。昔を思い懐かしんで、かな」
この言葉、言える時が来るかな…?
「………ただいま」
「さて、次はどこに行こうか?」
住宅地を抜けて、今は川沿いの道を歩いている。
太陽が結構高く上がってきて、気温も上がってきたみたいだ。
もうじき昼かな〜?
「ねぇ、もう少ししたらお昼にしましょうよ」
「ん、そうだな〜ちょうど側に川があるし、それを眺めながら食うってのもいいな」
「でしょ?それに、川が綺麗だから眺めもいいしねっ」
そんな事を話してたときに………
「きゃあっ!!」
「ッ!?」
誰かの悲鳴見たいのが聞こえた。
それも、すぐ近くで。
「はじめ、尚哉、あれ見て!」
さやかが指差すその先には、一組の男女にたかっている数名の、いかにも柄の悪そうな連中が。
「うわ……集団でたかってるよ。多勢に無勢だな」
「さやか、ちょっとここで待っててくれるか?助太刀してくる」
尚哉の一言が行動を決めた。
さやかも、しょうがないわねぇと言いたそうな顔をしている。
「横一、行こうぜ」
「あぁ」
いきなり飛び込んでもしょうがないから、たまたま通りかかったと見せかける為に歩いていく。
その間に、どうやら一悶着始まったらしい。
賊軍の一人が繰り出すパンチを、少年が巧みに避けていた。
「ほぉ〜、避けがうまいなぁ」
「感心するなって。今は避けてられるかもしれないけど、長くはも持たなそうだぞ」
「そうだな。………っと」
ちょうど現場について、避けていた少年の背中が尚哉に当たった。
俺たちを賊軍の仲間と思ったのか、ビックリした顔でこちらを見てる。
壁際にいる女の子も口元を手で抑えて見守っていた。
「少年、なかなか良い避けしてんじゃん。手馴れてる?」
「……はぁ?」
いきなり何を?と言いたそうな顔。
「お、おいっおめぇら何なんだよ」
「口出してんじゃねぇよ。すっこんでな!」
賊軍も標的にこちらを加えたらしい。
ガン付けながら接近して尚哉に掴みかかった。
でも、本人は全然気にしてなく極めて涼しい顔して俺に言った。
「あ〜あ〜あ〜……弱い奴ほどよく吼えるってか?なぁ横一」
「まったくだ」
「んだとごるぁ!」
……あ、巻き舌。
「あのさぁ、悪いこと言わないから、このまま消えな」
「今なら無事でいられるぞ」
一応、退避勧告をしておく。
まぁ、頭に血が上ってる連中には無駄だとは思うけど。
「ごちゃごちゃるせ〜んだよ!」
勢いよく一人が右ストレートを放ってきた。
あ〜……遅い。
余裕で片手キャッチ。
「あ、キミ、ここは俺たちに任せて。彼女を護ってあげないと」
「………あっ、そそうだ、梨乃!!」
慌てて彼女のところへ駆け寄る少年。
ふぅ、んじゃあ後は………
ドスッ!!
「ぐふっ!?」
隣で鈍い音がして、賊軍の一人…尚哉に掴みかかってた奴が地面で悶えていた。
んじゃ、俺も……
「そんなヘロヘロストレートじゃ返り討ち食らうぜ」
「……あぁ?」
ゴッ!!
「…………」
ドサリ
奴の右手を掴んだまま、左手で顔面を狙う。
利き手じゃないから多少威力は落ちてるけど……十分だったみたい。
何も言わずにそのまま地面に倒れた。
何だ、たいした事ないじゃん。
「こ、このやろぉー!!」
「ブッ殺す!!」
全員一気に攻めてきた。
そこで、尚哉がポツリ。
「左手で十分かな?」
「そぉっぽい」
ここで、相手の今後が決まった――――
「ふ〜……やれやれ、肩慣らしにもならなかったぜ」
「外見だけだな。と言っても、外見すらなってなかったけど」
さやかがいる所に戻って、何があったかを伝えた。
向こうさんは全滅、こちらは何の被弾もなし。
まさにパーフェクトゲーム・完全試合!
「あの二人には何も言ってないの?」
「あぁ、だってデートの邪魔したら悪いだろ?」
「……もう十分邪魔したと思うんだけど……」
苦笑いしてるさやか。
いさかいが終った後、何も言わずに去っていったからちょっと悪いことしたかなぁ?
「しょうもない運動したら、余計腹が減ったよ。さやか、昼にしようぜ」
「んもう、ホントに尚哉は〜」
「めっし〜♪」
……こうして、平穏なような平穏じゃないような、春日井町の旅は終った。
まだ午後の部があったけど、あんな事した以上長くいると警察に何か言われかねないから帰ることにした。
う〜ん……たまにはこうやって遊びにくるものいいかもしれないなぁ。
いろいろ判ったこともあるし。
今度、一人でまた来ようかな?
あの子に会いに―――
〜…数日後〜
「なっ!?ちょ、これは……」
突然さやかに呼び出された俺と尚哉。
家に行ってみると、とある新聞の一面を突きつけられた。
その内容は……あぁ!?
「こ、これはぁ!?」
「はっはっはっはっは!!こりゃよく写ってるぜ。誰だよ。いつの間にこんなの撮ってたのか?
……ん、なになに。目撃者の話によると助けに入ったとみられる少年二人(写真左二番目と三番目)
が、中学三年生の不良グループを滅多打ちにした後、逃走した模様?なんじゃこの文は。
正当防衛との意見も出ているが、暴行を受けた少年全員が病院送りになっていることから、
過剰防衛との意見も出ている………うわ、酷く言われたもんだぜ」
「そんなのんきな事言ってる場合じゃないわよ。これが学校の先生に見られでもしたら……」
さやかの心配は現実のものとなった。
後日、学校から連絡があって俺と尚哉は大いに怒られました。
何とか説得して正当防衛になったものの、新聞に載ったので先生に加えて親にまで……
「人を護るのはいいけど、こりゃやりすぎだぞ〜はじめ」
「あんまり人様に迷惑掛けちゃダメよ?」
……両親はあんまり気にしてないみたい?
〜おしまい〜
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