+-+-春の詩声サクラにのせて+-+-
横浜一を中心とする3人が高校2年生へと進学し、新たに千堂 ひかりが加わった頃、
時を同じくして、こんな人物達も新入生としてやってきていた―――。
「しゅんすけ〜、お客さんだぜ」
クラス内に一際大きな声が響く。
今はまだ新学期が始まったばかりで授業もなく、こういった自由時間が多くとられていた。
時間的に言えばもうすぐ昼と言ったところか。
そして、呼ばれたのを聞いて一人の男子生徒が慌てて駆け寄っていく。
どうやら、彼が呼ばれた人物らしい。
「だれ?」
「見りゃあ分かるよ。それより……」
急に肩を組んだかと思うと、くっ付くくらい顔を接近させて、低めの声で言った。
「お前、学校のアイドルと呼ばれている人といつの間に知り合ったんだよ?」
「……アイドル? なんだそれ?」
「とぼけるなよ。もうネタは上がってるんだぜ? 今なら学食でカツ丼出してやっから白状しな」
さながら、この会話は刑事ドラマにでも出てきそうな内容だ。
でも言われた本人は何のことやらサッパリ分からない。
「何を訳のわからんことを……それに、大体この学校に学食なんてねぇだろ。いいから離せって」
なおも続けようとする彼を振り払うと、お客が待つ廊下へと出る。
「おまたせ。俺になんかy………って、姉ちゃん!? 一体なんの用だよ」
「やっほ〜♪元気にしてる、俊介?」
そこに立っていたのは姉ちゃんこと 千堂 ひかり であった。
そして、呼ばれた人物こそが、ひかりの1つ年下の弟 俊介 である。
「そりゃ、元気だよ。姉ちゃんこそ、一人暮らし始めて少し経つけどもう慣れた?」
「うん。でも、お夕飯とかみんなで食べる事が多いし1人でいるのは大体お風呂入る時と寝るときくらいかな?」
「……みんな?」
一人で住んでいるのに、皆で食べるとは……これ如何に?
「あっみんなって言うのはね。私の住んでる部屋の隣に同じクラスの男の子がいるの。あとその―――」
「男ぉッ!?」
廊下中に響き渡るような声。
その衝撃は目の前にいるひかりはともかくとして、2人の会話を教室の影からこっそりと聞いていた男子生徒・はては教室内にまで及んだ。
「きゃっ!……んもう〜大声出さないでよ〜!ビックリしたでしょ」
「そんな事言ってる場合じゃない!確か、姉ちゃんのクラスって2―2だったよな?」
「えっう、うん……そうだけど」
「……………………」
と、急に俊介がクルリと180度回転したかと思うと、脱兎の如く走り出した。
「あっ!ちょっと俊介、その男の子って言うのはねー………って聞いてないよ。んもう〜人の話は最後まで聞きなさいって教わらなかったの〜」
はぁ…と溜息1つ、すぐにその後を追っていった。
「(一体何処のどいつだ。姉ちゃんたぶらかそうとしてる野郎は!)」
4段飛ばしで階段を駆け下りて、廊下にたむろっている生徒を巧みに避けながら目的地である2-2へ走る。
「(……あった、ここだ!)」
そして、扉を開けようと―――
「……あれ?」
ここで、肝心な事に気がついた。
「そいつの名前……聞いてないや」
万事休すか?
と、そこに運良く中から1人の男子生徒が出てきた。
「あ、あのっすいません」
「ん? 何かようかい?」
「姉ちゃん……あ、いや。千堂 ひかりと仲がいい男子って誰です?」
これを聞いた瞬間、その生徒の顔色が変わった。
どちらかと言うとこれは、あんた何者だよと何言ってんだ?と言うのが混ざったような表情というべきか。
「……あっちにいる2人がそうだよ。ほら、窓側後ろに座ってる奴」
そう聞くや否や、ズンズンと教室内へと入っていく。
突然の1年生の来訪で、クラス中の視線が集まるが、んな事は気にしない。
「あれ……俊介?」
途中、誰かに呼ばれたような気がしたがここに来る事自体が初めてなので自分を知るものはいない。きっと気のせいだろうと割り切った。
そして――――
「姉ちゃんたぶらかしてるってのはお前らか?」
「……ん?」
「…え?」
何がなんだかさっぱり分からず、素っ頓狂な声を上げる2人。
するとその内の一人が、あっと声を出した。
「少年……もしかして、あの時の絡まれカップルか?」
「あ? 何だそれ」
「去年の夏、女の子と一緒にいて変な奴らに絡まれただろ」
「あぁ……」
何でそんな事知ってるんだ?
…と、ここで何かに思い当たる。確かあの時―――
「そんで、2人組の男に助けられたろ? ほら、あの後新聞にも載ったし」
「あ……」
思い出した。
あれは、2日ぐらい後だったろうか。自分たちを助けてくれた少年2人のことが新聞に載っていた。
しかも、何故か少しだけ悪者扱いされていたような……?
「彼女、まだ元気?」
隣にいたもう一人が言った。
「え、えぇ……まぁ」
「そうか〜。それはよかったよ。でも、あの時は大変だったよなぁ〜」
「うむ。何故か先生に呼び出し食らって怒られたからな」
俊介をよそに、2人で懐かしむかのように話し始めた。
そういえば、俊介も思い当たる節があった。
彼らの顔、初めて見るとは思えない……
そして、次の一言が決定的だった。
「左手だけで十分だったよな、あれ。弱すぎて話しにならんかった」
「……あぁっ!?」
全てが一直線に繋がった。
あの時の少年が言った一言を、俊介は覚えていたのだ。
それがあまりに凄すぎて……
『左手で十分かな?』
『そぉっぽい』
「ひょっとしてあの時助けてくれた―――!?」
「おいおい……今思い出してくれたのかい? 俺たち見てすぐに思い出したよ」
「良い避けを演じていた少年を忘れるわけないだろ。いっぺんお手合わせ願いたいくらいだ」
とんでもない。
そんなことしたら瞬殺される。
俊介はやんわりと断った。
と、ここで後ろから彼を呼ぶ声が。
「はぁ……はぁ……し、しゅんすけぇ〜」
「あれ姉ちゃん、付いてきたの?」
「当たり前だよ……絶対何か勘違いしてそうだもん……あのね、その男の子って言うのはね……」
…………………………
「……うそぉ!?」
教室中に俊介の叫び声がこだました―――。
「ね…姉ちゃんの隣の部屋に住んでるのって、はじめ兄ちゃん!?」
「うっす♪ いや〜まさか助けたのがあの俊介だったとはなぁ。大きくなってまぁ……全っ然気がつかなかったよ」
そう。ひかりの部屋の隣人は、昔隣に住んでいたはじめ兄ちゃんこと 横浜 一 だったのだ。
驚きのあまり口がポカンと開いたまま戻らない俊介と、大して驚いたふうでもないはじめ。
この対照的な差はなに?
そしてもう一人、俊介と同じくポカンと見つめているのが……はじめの隣にいた尚哉である。
「お……おい。これは一体なんだ?俺たちが助けたこの少年って、横一の知り合いだったのか?」
と、ほとんど一人蚊帳の外……と言った感じだった。
事実、その後復活した俊介とはじめは懐かしそうに昔話をしているし、ひかりもそれを見て嬉しそうにニコニコと笑っていた。
「……やれやれ。仲間外れの俺は、のんびりと昼寝タイムと行きましょうか」
そして、彼らの話を子守唄のようにして眠りについた。
たったったったった………
「え〜いっ!」
ドカァッ!!
「ぐふぉぉっ!?」
いきなり後ろからサブマシンガンで狙撃されたかのような衝撃が走った。
「――ってぇ〜。いきなり誰だよ…って、梢か。何でこんなトコにいるんだ?」
「なにさっきから楽しそうにお話してるの〜?」
俊介に飛びついたのは、梢と呼ばれた女の子。
おんぶされるかのように俊介に後ろからピッタリとくっ付いていた。
「こら〜っ梢! まったくここに来てまでやらないの!」
「あれ、茜もか?一体どうなってんだこりゃ。それにあすかまで」
「わたしは、お姉ちゃんに用があって」
「私は、梢と一緒に付いてきただけ。でもさやかと喋ったけどね。あと、ついでに
これのちょっかい出しに」
そう言って、寝ている尚哉の頭を自分の肘でグリグリとやった。
一気に人物が増えたので、ここでまとめることにしよう。
まず、最初に俊介に飛びついたのが、梢と言う。
それをたしなめたのが、茜である。ちなみに、この2人は双子であり、茜が姉、梢が妹となっている。
お姉ちゃんに用があって来たといっていたのは、あすか。
茜が言っていた、さやかの妹だ。
ここまで出てきた、俊介、梢、茜、あすか、の4名は1年生で同じクラス。
その一同がなぜ2年の教室に集まっているかと言うと………
「いって〜なぁ。寝込みを襲うとは随分大胆になったなぁ茜」
「変なこと言うな馬鹿!!」
むくりと起き上がった尚哉にヘッドロックを繰り出す茜。
「お、おい茜。先輩に向かって何やってんだよ」
すかさず俊介が止めに入るが、茜はそれがどうしたと言わんばかりに涼しい顔。
梢もあすかも苦笑しながら見ていた。
「先輩って……これが? ただのバカ兄貴よ」
「馬鹿って言うな馬鹿って。お兄様と言え」
「お・兄・様・っ♪」
笑いながら言う茜。
でも、その目はまったくと言っていいほど笑っていない。
しかも、よく見たら尚哉の片足を思いっきりふんずけている。
「こ、これは………」
「兄妹なの。尚哉さんと茜と梢は」
やんわりと話すあすか。
「ほぅ〜穂刈姉妹に兄がいたか……あれ? 穂刈……ほかり……ん。ちょっと待てよ。2年で穂刈って言うと――――!?」
もう何度目か、俊介が驚きの声を上げた。
入学式が終って間もない頃、できたばかりの友人からいろいろこの学校について教えてもらった。
何で同じ1年なのに詳しいかはどうでもいいとして、2年の先輩に凄いのがいるんだと言うことを。
その時に、最後に一言こんなことを言っていた。
『穂刈尚哉って先輩には気をつけろよ。何でも、中学時代からのかなりのワルで喧嘩ばっかりしてるらしい。しかも、相手は必ず病院送りにするという……』
これを聞いたとき、俊介の頭の中には髪の毛を凄い色に染めて耳にピアスをした、いかにも暴走族やってます調な姿が浮かんでいた。
しかし、実際によく見てみると……
「なぁ横一、今日は随分と人が多いなぁ〜」
「こらっ、人の話はちゃんと聞いてなさい!!」
「ははは……」
確かに、喧嘩は強そうだ。事実、助けてもらっているんだから。
でも、今まで抱いていた印象はカケラも無かった。
それどころか、のほほんとしたイメージさえ持てる。
「なんか、あれだな」
「あれ?」
「人って、実際に見てみないと分からないよなぁ。噂とか外見で判断しちゃいけないよな」
「???」
人の噂って、こんなものだよなぁ〜と改めて思った俊介だった。
ここで、昼休みを迎えるチャイムが鳴る。
「あっ、チャイム鳴った…」
「戻らないと」
「そうだな……でさ、梢」
「ん〜?」
「今までずぅ〜っと忘れててゴメンだけどさ、いい加減離れてくれ。そろそろ背中がはってきた」
「いや〜」
離れたくない、とでも言うかのようにギュッと抱きつく。
「なんですか、じゃあ俺はこのまま背負っていけと?」
「うん」
「いや、うんって言われても……」
「れっつご〜♪」
「はぁ……それじゃ、姉ちゃん達。また」
片手を上げて帰ろうとした時、ひかりに呼び止められた。
「あっ、ちょっと俊介」
「ん?」
「みんなでお昼一緒に食べない?」
「……みんなって言うと?」
「今ここにいるみんなでだよ」
ここにいるメンバー……
1年生の、俊介・茜・梢・あすか、2年生の、はじめ・尚哉・さやか・ひかり、の計8名。
「ちょっと人数多くないか?」
「大丈夫だよ〜いっぱいお弁当作ってきたから♪」
そう言うと、机の横にかけてあった少し大きめのバックから重箱が2、3箱出てきた。
「でも、俺たちも各自弁当は持ってきてるし……」
「それもあるけど、一緒に食べようって所が大事なんだよ。兄弟揃って食べようって」
「はぁ…ま〜俺は構わないけど」
「あたしも〜♪」
まだ後ろにいた梢も嬉しそうに賛成している。
「私達はどうするあすか」
「いいんじゃないかな。あんまりこう言う機会ってないから」
茜&あすかもOKだ。
「ようっし、それじゃあ俊介と昔トークでもするかなぁ〜」
「じゃあ、荷物持ったら屋上に来てね。あたし達いつもそこで食べてるから」
最後にひかりの隣にいたさやかがしめて、一旦解散となった。
「……はぁ〜」
「あれ? どしたの俊介。そんなため息なんてついちゃって」
教室へと帰る途中、溜息をした俊介に茜が問い掛ける。
「な〜んか、いき行く人全員がこっちを見ていく気がするんだけど……」
「〜♪」
そりゃ、男子が女子を背負って歩いていれば、目だたない方がおかしいだろう。
「梢、もういいかげん離れたらどう?もうすぐ教室に着くわよ」
「教室までこのままがいい〜」
まるで子供そのものだ。
ぶぅ〜っと頬を膨らませて駄々をこねている。
「ホントにもう……完全に俊介に懐いたわね。兄の尚哉にさえこんな事しないって言うのに」
「は、ははは……」
素直に喜べない。
もし女の子を背負うような事があれば、それはとてもラッキーな事。だがこれはどちらかと言えばその逆。
何せ女の子と言うよりは子供……
「…ねぇ、今凄く失礼な事考えてたでしょ」
「そ、そんな事無いって」
オマケに、凄く鋭いときている。
「ホントかなぁ〜?」
「そういう事にしてくれ。ほらっ、もう教室だから降りてくれ〜」
へばり付く梢を何とか離して、教室に一歩入った瞬間、急激な横Gがかかった。
左手を思いっきり何者かに引っ張られた所為だ。
「いってぇ〜。何すんだよ!!……ん?」
よく見ると、そこには自分のクラスの男子ほぼ全員がいた。
しかも、何かただならぬ雰囲気をかもし出しながら。
「俊介ちゃ〜ん……これはどういう事かな?」
一番前にいた生徒がやけに優しい口調で尋ねた。
「は? これって、どれ?」
「とぼけちゃダメだよ〜俊介ちゃん。さぁ……洗いざらい喋ってもらおうじゃないの」
いきなり低い声でそう放った。
どこからか、ゴゴゴゴゴゴ……とか、ドドドドドド……何て効果音が聞こえてきそうだ。
「なんなんだよ一体……俺は出かけてたんだぞ。ちゃんと分かるように説明してくれよ」
「……どうやら、俊介ちゃんは自分がどういう立場にあるかおわかり頂けてないようだぞ諸君」
すると、いろんな所から『万死ッ!!』と言う声が挙がった。
背筋に、何か冷たいものが通ったような感覚がよぎる。
「者ども、やっちまえッ!!」
それが戦闘開始の合図だった。
わ〜っと一斉にみんなが飛びかかってくる。
「えっ!? あ、ちっちょっと待って! 待てってば! わっ……待てって言ってるだろ!!」
マテと言ってはいわかりましたって待つ奴がいるかボケェ!とでも言うかのように突っ込んでくる。
その光景を、少し離れたところから見つめている茜、梢、あすかの3人。
「あら〜俊介滅多打ちだよ」
「何かあったのかしら?」
「さぁ……でも、すごいね、俊介。全部避けてるよ」
「ホントだ〜」
避けは俊介の本分ですから。
「捕まえた!」
「うわっ!?」
が、一瞬の隙をつかれて捕獲された。
まぁ無理もないか。
いくら避けるのが得意な俊介とは言え、数が数。
多勢に無勢と言うやつだ。
捕まえた生徒に加わり、逃がすかとばかりに更に数名が腕を抑える。
「だ〜から、俺が何したってんだよ」
「そこまでシラを切るなら教えてやろう。我らが偵察隊がよこした情報によると、貴様 千堂 ひかり様と仲が良いそうだな」
「だから、あれは姉ちゃんだって!」
「嘘をつくな! 確かに苗字は一緒だが、似てない!」
「つ〜か、何で来て早々姉ちゃんがそんな風になってるんだよ。まだ学校始まって3日目だぞ」
「噂だと、秋津 さやか様と同じくらいの人気が……」
「だから、人の話を聞けって。お〜い」
「五月蝿い! だからだから言うな! 飲み物にするぞこん畜生!」
「あ〜もう話がまとまらない。いいから離せって。昼飯が食えね〜だろ!いつまでもここでもたもたしてると、もしかしたら姉ちゃんたち来るk」
ガラガラ…
「俊介ーまだ準備できないの〜? 早く行こう……って、あれ?」
凍った。
俊介が、彼を押さえていた男子が。
何故なら、ドアを開けて来たのは……
「あれ……俊介? 何やってるの」
「ん〜、どうしたひかり。俊介は?」
「あら、あすかに茜まで。こんな所で何で立ってるの?」
「横一、メシ……ん? おぉ、何かやってるのか?」
「わかんない。それより、俺に飯要求してどうするんだよ尚哉」
「「「「っ!!!!!!!!!!!!」」」」
さっきから彼らが様付けしていたひかりが、さやかが。
高校生テニスNO.1を誇る、横浜 一が。
そして、自分たちが近寄りたくないと思っていた人物、穂刈 尚哉がいた。
まさに、堂々たるメンバーの勢ぞろいであった。
「少年……俊介って言ったっけ? この前みたいに助太刀いるか?」
コキっと手の関節を鳴らす尚哉を見て、ぶんぶんぶんっと首をふる。何故か押さえている男子生徒も。
止めて、そんな事したらボクたちは……とでも言いたそうだ。
「ほら、俊介もいつまでもお友達と遊んでないで、ご飯食べに行こう」
差し出された姉の手を握りかえすと、引っ張り起してくれた。
彼らは凍りついたまま動かない。
何故なら、笑顔で尚哉に見られているから。
ある意味、尚哉はこの状況を楽しんでいるようにも見える。
「さて、行こうか」
「あ、あぁ……」
その後は、今までの出来事が嘘のように穏やかに過ぎていった。
クラスメート達も、あの事があって以来ひかりが姉だと認めたようで、何も言ってこない。
普通にじゃれたり遊んだりしている。
とりあえず、落ち着いたようだ。
そんなある日……
バス停。そこに、一人の少女が降り立った。
大きな鞄を一つ持った少女が。
「…………ついた」
と小さく呟くと、何かが書かれた紙を持って歩き始めた。
途中、とある学校の前で立ち止まる。
『霞ヶ丘高校』
と書いてある。
大きな瞳を細めて、その校舎を見上げた。
「ここ、か……」
目に焼き付けるかのようにじっと見つめる。
そして、またゆっくりと歩き出した。
肩ほどまである赤い髪を風になびかせながら――――――
時は、ゆっくりと、そして穏やかに流れていた。
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