34、〜気付いていた想い・彼の思い〜


「お前は……さやかとひかり、どちらかを選ばなければならない」

確かに尚哉はそう言った。
その選択肢と言うのこそが、さやかでありひかりなんだ。
そして医者でも草津の湯でも治せない不治の病は……
俺はそれを表情を変えずに聞いていた。
驚く事もなく……いや、驚かなくていいんだ。
なぜなら……知っていたから。
尚哉の言っている事を聞いていて、自分についてよく考えてみた。
俺がとってきた行動ってやつを。
その上で、俺は――――

「なぁ、尚哉。人生って非情だよな」
「……はぁ?」
「まぁ聞いてくれよ。自分の目の前に小さい頃から親しい女の子がいる。それも二人人気まであるときてる。そんな中いつも楽しくやってきた。たった一つのことを考えずに……それを考えたら全てが終ってしまうから。 夢って、いつか必ず終わりが来るだろ? それがどんなに楽しい夢だって。これも夢だったんだ……けれど、その一つの事を考えてしまったら夢が終る。現実へと戻ってくる。その現実ってのは随分ヘビーなもンで、なんと二人を好いてしまった。これが考えの結果。夢の終わり」
「………………」
「一緒に仲良くやってきたんだぞ。それを……どちらか選べだなんて、できるわけ……ないだろ」
「でも、選ばないといけない」
「そんな事したら二人が、可哀想だろ……」

自分で何を言ってるのか十分すぎるほどに分かっている。
あまりにも自分勝手で、ご都合的で、尚哉に笑われてもおかしくはなかった。
けど、尚哉ははぁっと溜息をつくと……

「横一は……優しすぎるんだよ。傷つくのが怖いんじゃない。今までがなくなっちまうのが怖いんだ。それがあまりに自分に合ってたんだからな。 でもな横一、その考えの所為で一つ見落としてんのがある。しかもそれが最大級の見落としだ」
「見落とし?」
「さやかとひかりを避けてたときだ。あれは自分での為にも彼女達の為にもって事でやったんだろ? 変わってはいけないと思ったから。 幸せがなくなると思ったから。けどそれは間違いだった。良かれと思ってやってることが、実際は逆なんだよ。むしろ悪化してる。二人は横一が避けるあまりさらに話し掛けようとした。自分なりに解決できるようにと。 けど、それでも横一は避けてた。なぁ横一、心はダムだって知ってるか?」
「ダム?」
「あぁ。ま、これは入り知恵なんだけど……ダムは水を溜めておくところだ。そして、ダムが心とすると、溜まっていく水は……想いだ。その人に対する。溢れないように少しずつ出してるだろ?あれがアプローチみたいなもんだよ。 でもな、そのアプローチすら止められたらどうなる?」
「……溢れる?」
「うん。溜まっていった水はやがて抑えられなくなって、最後には爆発。ダムの決壊……って訳だ。それが人間で起こってみろ。ダムが壊れるって事は、心が壊れるって事だ。心ってのは簡単には治らないぞ。 例えば昔からの失恋を引きずってるのはまだ壊れてるという事だ。新しい恋に進む気がないから。そうなっちまったら……」

そう言って尚哉は下を向いて口をつぐんでしまった。
……知らなかった。
尚哉ってそういう系統は全く興味なし、かと思ってたけど。
いつの間に、か。
うん。本当に知らなかった。

「……変わる前から恐れるな。やれるだけやって、悔いが残らないよう……納得がいくまで動いてみろ……そういう事か?」
「おまえなぁ。悔いが残らないって、二人の対して悔いが残りそうな事してんのか?」
「いや、それはないけど……。間違えちゃいないだろ?」
「ふぅ〜、まったく。この朴念仁君は扱いが大変だよ……」

そうは言ってるものの、尚哉の顔は口調と違ってた。
どこか、スッキリしたような、そんな顔。

「選択肢はこれ以上増える事はない。これは俺が絶対に保証する。だからお前は、自分のケジメをしっかりつけろ」
「何か死にに行くみたいな発言だな」
「それ位になってやってないと、彼女達のほうから離れちまうぞ」
「まさか、尚哉に言われようとはな。我関せず、みたいな行動してたのに」
「こっちだっていろいろと事情があるの。それにあのままだと俺までおかしくなっちまいそうだぜ。会うたびにギクシャクして、話す度にそらされた反応をされてちゃ楽しくもなんともねぇ。 しまいにゃ学校サボるぞ?……って、俺が言うとマジでやりそうだな」
「ははっ……はぁ〜」

俺も尚哉の隣に立って外を見た。
空はすっかり紅く染まって、東の空はうっすらと紫色になっている。
今日も一日が終わろうとしてるんだなぁ。俺にとって大きな一日が。

「なぁ、尚哉」
「ん?」
「俺ってさ、自分のとってる行動がみんなの為になると思ってやっていたんだけど、実際は違ったんだな。実際は……自分を、いや、自分の心護ってただけかもしんないな。 今になって……尚哉に言われて、何か分かった気がする。同時にやっと心の中が分かったような……そんな気持ちも」
「心の中って……お前、気付いてたのか?」
「そうかもしんない。でも、認めたくないのってあるだろ? 今までの楽しかった生活。尚哉の言うとおり、俺にとって本当に居心地のいい世界だったよ」
「だからこそ、って事か?」

無言で、コクリと頷いた。

「……そっか。なら、俺が言いたいことは終ったぜ。気付いてもらえたようだし。これもでもし分からなかったら、俺は横一を殴らなければならなかった、かも」
「おいおい、そら穏やかじゃないな」
「それと同じくらい、もしかしたらそれ以上の苦しみをさやかとひかりが受けてるんだぞ。天誅ってもんさ」
「……慢心した言い方かもしんないけど、一ついいか?」
「どうした? ここまで来たらど〜んと来いだ」
「お前は……何とも思ってないのか?さやかとひかりの事を」

 ピクッと、尚哉の眉が動いた。と、言う事はやっぱり……

「中学のとき……」
「え?」
「中学のとき、さやかの事少し気にしてた。今思えば、あの時の俺って今の横一と同じだこりゃ。いつも三人ワイワイやってて、それが楽しくて……もし、俺がさやかに告ってこの関係が壊れたら…… 俺の所為だろ?俺が言わなくていいこと言う事で、親友を無くしたくなかったから……だから、胸の内にしまったんだ。そしたら、何も気にならなくなった。俺の初恋(?)はこれでお終い。 だから、せめて横一には……な」
「尚哉……」

興味がないと思われた尚哉も、実は……か。
そんな事があったのに……

「ありがとう」
「へっ?」
「ありがとうって。やっぱり尚哉は、いい奴だ。………って、この言葉こそが慢心そのものっぽいな」
「…………なっな〜にを言ってるかなこの横一君は! お、俺は自分の為にだな……決して人がどうとかなんて……」

めっちゃくちゃ動揺してる。もう手なんかバタバタ動かしちゃって。珍しい事もあるものだ。

「だからだな……って、おい笑うな!」
「いやいや、ゴメン。珍しく尚哉の慌てぶりを見たものだから」
「ったくよぉ〜。もうヤメヤメ、場の空気が冷めちまった。撤収撤収〜っと」

クルリと回れ右して、一人歩き出してしまった。
が、すぐにこちらを振り返って、

「後は、お前次第だからな」

と真剣な顔していった。
だから、俺も……
「あぁ、分かってる」

「あ〜……語った〜」

体をほぐすように伸びをする尚哉。
確かに、尚哉とじっくり話すのって久しぶりな気がする。
いつもは……さやかとひかりもいたからな。

「それにしても、あの例えは凄かったな。ゲームとはね。あれも入り知恵?」
「んにゃ。俺のオリジナル。ふと頭に浮かんだもんだから即採用した。我ながらナイスあいであ」
「ホントだよ。でさ、その知恵って誰から受けたんだ? まさかさやか達じゃないよな?」
「おいおい。そんな事あるわけないだろ。これはな……俺たちより年下で、俺たちよりツライ恋をした、一人の少女の助言だよ」

その目は前を向いてるけど、どこか遠くを見てるような、そんな目だった。
俺たちより年下? ツライ恋? 一人の少女……誰だろう?
というか、尚哉に年下の女の子の知り合いがいたとは。
……あれ、まてよ。

「俺たちよりツライ恋って、何で尚哉が入ってるんだ?」
「ふっ……気にするな。ちょっとした言葉のあやってやつよ」
「うわ〜、嘘くさ。絶対何か隠してるよ」
「さぁ〜て、どうかな〜?」

……この後は、尚哉の言葉に隠された事の真偽について話したため、もうその会話は打ち切られた。
あとは……俺の行動次第ってか。
でも、その前に二人には謝っておかないと。
少し機嫌が悪かった、って事にしようかな。
流石に、いきなり本題言うわけにはいかないし。
何にせよ、もう既にさいは投げられたんだ。


夢が覚めて、現実へと目を向ける……
夢がどんなに楽しくても、それは夢。
幻でしかない。
現実なら、その先を見れる。
自分の手で、自分の行動で。
だから、夢から覚めたんだ……
夢に、そして、自分に決着をつけるため
―――




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