33、〜俺が思う事・俺の思う事〜
※これ以降、はじめ の一人称に戻ります。※
変わらない生活。変わらない日常……
俺がいて、さやかがいて、ひかりがいて、そして尚哉がいて……
何も変わらないほうが楽しく過ごせる。
変わっちゃいけない。
それが、みんなの為……俺の為……
こんな考えでいるのはいけない事なんだろうか……?
いつからだろう……
さやかとひかりに話し掛けると、妙に心臓がドキドキ言うようになったのは。
いつからだろう……
よく分からないけど、もっと一緒にいたいって思うようになったのは。
あ、そうだ……あの時からだ。
文化祭が終った夜の頃から―――
俺のこの感じと同じように、彼女達もまた頻繁に話し掛けに来るようになった。
それはいつもの事じゃないかと言われるかもしれないけど……そんなんじゃない。
前までを“1”とすれば今は……“3”いや、もしかしたら“4”かもしれないな。
でも何かが違うんだ。
今までどうり話し掛けようにも、妙なギクシャク感って言うか間合いと言うか。
とにかく会話が続かなくなった。
―相手の顔をまともに見れない―
嫌だった。
心の中で何かが感情を押さえ込もうとしているような、どうにかしようとしてるのに身体が勝手に動く。
ニ人を避けるように……
その後で来る自己嫌悪。
あぁ、また自分はやってしまった。
また彼女達を傷つけてしまった。
でもやっぱり元には戻れなかった。
楽しかったあの頃、みんなが笑っていたあの時。
俺がいたいのは、きっとそこなんだ。
でも今動いたら……全てが失われてしまうそうで。
楽しかった思い出が、虚像のように変化し風化してしまいそうで……
それが怖いから、彼女達と接するのを避けたんだ。
これでいい。
俺にとっても、彼女達にとっても。
これでいいんだ……
そう考えていた。
それが正しいと思った。
だから俺は避けたんだ。
その度に自分が壊れていくような気がした。
分からない感情に押しつぶされそうになってくる。
避ければ避けるほど、ますます一緒にいたいと思っている自分がいる。
同時に心の中でそれを押さえ込もうとしている自分がいる。
ある日、夢の中に俺が出てきた。
その俺はまるで何かを知っているかのようでこう言っていた。
『本当は気がついてるんじゃないのか?』
『自分に言うのもヘンだけど、お前ってずるい奴だよな』
『今すべき事、もう一回考えてみな』
夢は自分の心を写すって言うけど、俺の心は、何か知っているのか……?
ある日の放課後の事。
尚哉に呼び止められた。
何かと思って振り返ると、いつもの顔じゃなかった。
言うなれば、何かを胸に秘めたようなとても真剣そうな表情……
そのまま無言でついていった先は―――屋上。
秋にしては冷たい風が通り過ぎて、ざわっと近くの木々を揺らした。
「もう風が涼しくなっちまったなぁ〜。もうじき、冬だ」
ガシャンと金網を揺らせて、尚哉がもたれ掛かった。
「……そうだな」
「………………」
「………………」
一言そう言ったきり、何も言わなくなってしまった。
俺も、なんだか言葉を発せられない。
一体…ここに何しに来たんだろう。
「横一がこの街に引っ越してきて、俺と……さやかと知り合ってもう十年も経つんだなぁ。時が流れるのは早いものだ」
「あ、あぁ……」
「そして、お前のここに来る前の幼馴染だったひかりが来て、春が過ぎ、夏が過ぎ、今秋も過ぎようとしてる。分かるか?もうすぐ一年だぞ。ついこの間高校ニ年になったと思ったらもう……来年は受験生だ」
「………………」
俺は何も言わずに尚哉の言う事を聞いていた。
真意はわからないけど、尚哉は何かを言おうとしてる。そんな雰囲気を出してた。
「俺たちもそろそろ自分の今後について考えないといけなくなってきたわけだ」
「そ、そうだな」
「でもな、横一。その前に一つだけ決めないといけない事がある」
「……進学か、就職?」
「まぁそれもあるけど。もっと大事な……しかも、それを決めるのは俺じゃない。ましてや、さやかとひかりでもない。決めるのはお前……横浜 一だ」
心臓がドクンと一つ大きく鳴った。
これはあの時と同じ……心がこの先を聞いてはいけないと忠告してくる。
「この意味がわかるか?」
……分かるような、分からないような。
無意識の内に首を振った。
すると、尚哉がはぁっと小さく息をついた。
「言い方を変えるぞ。これはゲームだ。主人公は横一。そしてプレーヤーも横一だ。いま、主人公は一つの選択肢に行き着いた。……一種のシミュレーションゲームだなこれは。
そして横一はそこで足踏みしている。どうすればいいか判らないから。普通なら攻略本を見るなり、人から聞くなどしてその先に進む。でもこれには攻略本もアドバイスもない。何故なら自分で作っていくからだ。
この選択肢の先を、未来を……って、俺は何熱く語ってるんだ。でもな、これには最大の欠点がある。その選択肢にたどり着くと早く答えを出さないといけない。それが掟なんだ。
立ち往生したままでいると、その選択肢の先で待っているものが大変な事になるんだ。もちろん主人公だって。ここで少し過去に振り返るぞ。主人公がスタートしてから今まで、その先に待つものにいろいろと接してきた。
それが会話なり、行動なりと。それらは主人公を必要としているからこそ近づいてきたんだ。でもそれらはある一種の病気みたいのにかかっている。よく言うだろ?医者でも草津の湯でも何たら……って。
それに唯一効果があるのが、最後の選択肢って事だ。どうする?早く選ばないと両方とも病気でエライ事になっちまうぞ」
ふっと風が吹いた。
尚哉の言った事に催促をたてるかのような。
不思議と自分が落ち着いてる事に気付く。
まるで自分もその事を知ってたかのごとく。
「さぁ、答えを出すときだぞ横一。その選択肢は俺にはわからない。けど、横一は知ってるはずだ。何があるのか、そして……その結果も」
「………………」
喉まで出かかって、言葉を飲んでしまった。
何も答えられない……。
尚哉の言いたいことは判る。知っている。俺のすべき事を。
でも、それは―――え?
……知ってるのか?
俺は……
「……まだ、ダメだって言うのか?」
俺が黙っている事を答えないと取ったのか、呆れが入った声で呟いた。
いや、違う。判ってるんだ。でもこの先を言ってしまうと―――
「はぁ……ホント、俺の周りの人間はこう言う事に疎すぎだ。いや、俺も入ってるかもな」
ふっと鼻で笑った。可笑しくてなのか、それとも嘲るようにかは分からない。
けど、その後に何か複雑な顔をして小さく言った。
「そいつらの為にどうにかしようと頑張ってる俺ってホント偉いよ。自分で尊敬しちゃうくらいだ。何か見返りくらいあってもいいとは思わないか? 横一」
「……え?」
「いや……もしかしたら、これからの事が見返りかもな。少しくらいは、自分に利であって欲しいもんだぜ」
そして、
次に尚哉の口から出た言葉は、俺が聞かなければならない言葉であり俺が聞いてはならない言葉だった。
「お前は……さやかとひかり、どちらかを選ばなければならない」
……秋にしては冷たいくらいの風がまた吹いてきて、
俺たちの髪の毛を揺らしていった。
……俺たちを乗せた風が行き着く先は、光か……闇か……
それを決めるのは―――俺自身ということだ。
秋は夕暮れ、か……。
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