32、〜変わり始める日常〜
※このお話は、穂刈 尚哉 の一人称視点で動きます。三人称ではありませんのでご注意ください。※
俺は横一は小学校からの幼馴染だ。
かれこれ十年以上の付き合いというわけだな。
それだけ長いこと一緒にいると、相手のいろんな事を言われずとも判るようになってくる。
流石に全部を知るわけじゃないので一応。
でも、な……。これはいくらなんでも…………
「わ、悪い。俺今日都合悪いんだ。また今度にしてくれないか……」
「え、うっうん……」
「そ、それじゃ」
「あっ……はじめ」
はぁ……またか。
一体何度目だ?
ひかりがガックリと肩を下げて戻ってきた。
下手に同情するのも相手に悪いのでここはいつも通り何も言わない。
まったく、最近どうもおかしいぞ。
横一も、ひかりも、そしてさやかも。
妙によそよそしいと言うか落ち着かないような感じの横一に事あるごとに話し掛けるさやかとひかり。
一体どうしちまったんだか……まぁ、何となく予想はつくんだけどさ。
おそらく、これは――――
「ただいま」
家に帰ってきて居間に顔を出す。
いつも通り妹の茜と梢は台所で夕飯の支度をしてる。
弟の真はきっと部屋だろうな。何せ受験生だし。
俺たちと同じ高校に行くって言ってるから頑張ってるんだろう。……といっても試験結構簡単だけどさ。
とと、俺が言いたいのはそんな事じゃない。もっと大事な事。
「あっおかえり尚哉。夕ご飯もう少しで出来るからちょっと待っててね」
「あぁ……なぁ茜」
「ん? なに」
「後でちょっと話したい事あるから、部屋に来てくれ」
そう言うと、茜が怪訝そうな顔をした。
「襲ったら殺すからね」
「バ〜カ。誰が妹相手に欲情するかよ。そんなんじゃね〜って……まぁとにかく来てくれ」
「はいはい。でも、本当に襲われたら困るから梢も連れて行っていい?」
「だからなぁ……もういいや。好きにしてくれ」
「そうさせてもらいます」
相変わらず口の減らない奴だな〜と思いながら自分の部屋へ。
それから、すぐに夕飯の用意が出来たので真を引っ張り出して下へと降りていった。
どうも夏休みが終わった辺りから真の様子がおかしい。
なんか覇気がなくなったというか、悲壮感にあふれてるというか……
んー、やっぱ部活最後の大会が終わったからかな。
なんだかんだ言って頑張ってたしな。
たまにはそう言うのもいいだろうて。
そんな訳で、あっという間に夕飯終了。
「…なんだかんだ言ったって、自分の部屋が一番落ち着くよな〜」
部屋に戻ってベットに倒れこみながら茜が来るのを待ってる。
ふと、机の上の写真立てが目に入った。
こちらに向かってそれぞれのポーズを決めている四人組。
これって確か……四月の終わりに撮ったやつだ。
横一を中心として、その左にはじゃれて首筋に腕を伸ばして抱きついているひかりと、反対側でそれを見てビックリしているさやか。
そして俺がその前で座り込んでピースしている。
あの頃が一番平和だって言うのか……
コンコン
「尚哉〜きたわよ〜」
「あたしも〜」
茜は結局梢を連れてきた。
まぁ邪魔しなければ問題ないかね。
さて、じゃあ本題を切り出すとしますか………
……翌朝、いつもより早く起きて学校へと歩いていく。
早く出すぎたか? 同じ制服を着た奴をほとんど見かけなかった。
勿論教室にも一番乗り。
あ〜、ここまで真面目に学校に来たことってあったかな……ないな。至上初めてだ。
静かな教室の中で、昨晩の事を思い出す―――
『えぇっ!? あんたいきなり何言ってるの』
『尚哉が壊れた〜』
『っせ〜な。いいから真面目に聞け!』
『わ、わかったわよ〜。そんな怒らなくても……まぁ、確かにそういう感情を押さえておくのは辛いよ』
『うん。自分の想いが伝わらないんじゃないかって心配になるよ』
『それは……お前のときみたいにか? 茜』
『えっ? そ、それはその……うん』
『そうか……』
『ねぇ、なんでであたしには聞かないの〜?』
『元々お前は呼んでない。それに経験なさそうだし』
『差別だよ〜』
『えぇい話をそらすなー!』
『やっぱり尚哉壊れてるよ』
『……そうね。でも何かあったのかしら……急にこんな事聞くなんて』
「恋心、ねぇ〜」
俺が考えてた事はまさに的中していた。
さやかとひかりは……
そして恐らくだけど、横一の最近の動揺振りを見てるとあいつも……絶対気付いてるはずだ。
もしあれで気がついてないとしたら、朴念仁を通り越してただのボケだぜ。
あいつは……それを知ってて避けてるんだろうか。
もしそうだとしたら―――いや、もう少し様子を見てみよう。
この考えが……俺の考えすぎだったらいいんだけどな。
『やっぱり、好きな人とはずっと一緒にいたいって思うもん。……私だってそうだった訳だし。それを、拒否されるんじゃなくてはぐらかされたりしたら……とっても辛い事だと思うよ』
『まぁそうだろうな』
『私思うんだ。ちょっと変な例えだけど……心ってダムなんだと思う』
『……ダム?』
『うん。ダムって水を溜めて置くものでしょ? それが想いに変わっただけ。ほら、ずっと溜めておくと溢れちゃうから少しずつ出してるでしょ? それはきっと好きな人へのアプローチなんだよ。
でもそれが上手くかみ合わないと、想いと言う名の水はドンドン溜まっていく……そして、溜まり続けて行くと―――』
『いつか溢れる?』
『うん……そんな事になっちゃったら、きっと心は壊れちゃうよ。誰にも修復不可能なほど……』
『お前は、そんな事にはなってないのか?』
『……全部、放出しちゃった。もう心残りはないよ……。彼はいいお友達、だよ』
『そう……か』
心はダム、そう茜は言った。
俺にはよくわからないけど何かあってる気がする。
あの事から考えると、さやかとひかりの“ダム”は溜まり続けている事になる。
そしてそれを出さないようにしているのが……つっかえ棒の役割をしてるのが横一。
様子を見ること一週間。結局何の変わりもなかった。
それどころか三人の様子はますます変わってきた。
完全によそよそしくなってる。
さやかとひかりも元気がない。
……そろそろ限界かな。
やっぱり、横一に言わなきゃなんないか……
俺は無意識の内に拳に力をこめていた。
「なぁ、横一」
「ん〜?」
あくる日の放課後、帰ろうとする横一を呼び止める。
さやかとひかりには茜達に頼んで呼び出してもらった。
今日これから話すのは、ニ人にとっても、横一にとっても…
とても大事な話……
あぁ、やっぱり俺ってお人よしかもしんない。
そんな事を考えながら、横一を連れて夕方の屋上へと階段を上って行った。
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