〜27、文化祭(準備期間)〜
校内――
あちらこちらから生徒達の声が聞こえてくる。
何かを求めて廊下を駆ける者。
大きなベニヤ板を四人がかりで運んでいく者。
装飾道具を運んでいる者などなど……
まさに今月末に催される文化祭に向けて意気揚揚とその準備に励んでいた。
それははじめのクラスも同じだ。
効率のいい座席配置や装飾デザインなどを紙に記してみんなで決めていた。
その目は授業中とは全く違った輝いた瞳をしている。
ま、それは当然と言えば当然か。
「ふむっ。こんなんでいいかな?」
一人の男子生徒が図面を書き終え、側にいた人に見せる。
その紙には先ほども言ったように喫茶店の座席配置について描かれていた。
何度も描き直したようで、所々黒ずんでいて紙もしわが出来ている。
「おっいいんじゃないか。じゃあこれ先生に見せてこいよ」
「わかった」
嬉しそうに紙を持って教室を出て行く。
どうやらはじめのクラスも順調に動き出したみたいだ。
「ねぇ、衣装は恵梨の所で作ってくれるみたいよ」
「やったぁ〜!」
所変わってこちらは女子。
こちらも着る衣装の目処がたったようで、わ〜っと喜んでいる。
しかもオーダーメイドだ。
この文化祭のためだけにである。
この意気込みは凄いとしか言い様がない。
「なぁ、横浜と穂刈でペンキ借りてきてくれないか?」
「んあ? 俺たちでか」
「何でペンキを使うんだ?」
「看板作るんだよ。喫茶店の。んでそれを新津に作らせる。何たって美術部だからな」
「な〜るほど。分かった〜持ってくる。いこうぜ尚哉」
「おぉ」
「頼むぜ〜」
頼み終わると、今度はその新津と言われた彼に『おまえ美術部なんだから看板作れーッ!』と言いながら駆けて行った。
それを見て苦笑するはじめと尚哉。
「さて、行くか」
「おう」
資材と生徒で溢れ返っている廊下を歩くニ人。
何処も皆一生懸命だ。
「にしても、あいつはこう言うことになると奮起する奴だよな〜」
「まったくだ。お祭り男なんだろうなぁ、夜ノ森は。去年同じクラスの時もああだったし」
ちなみに、その夜ノ森が先の計画時に『コスプレ喫茶』と言う意見を発言したと言うのは余談である。
「おっ、あれひかりじゃないか、横一」
前のほうを指差す尚哉。
なるほど、そこには何やらいろんなものが入ったダンボールを重そうに持ちながらフラフラと歩いているひかりがいた。
フラつくと同時に後ろのポニーテールが左右に揺れている。
「ずいぶんと重そうだな、ひかり」
「え、あっはじめ〜」
はじめを見つけた途端に、パァッと笑顔になるひかり。
「何持ってるんだ?」
「うんと、装飾材料ってここに書いてあるけど……絶対にそれ以外の物入ってるよこれ。すんごく重たいもん」
「そっか。じゃあそれ俺が持っていくよ。教室に運ぶんだろ?」
「え、うん……でも」
「まぁまぁ。ひかりは尚哉とペンキ取りに行ってくれ。俺はその荷物を持って教室に行くから」
「でも、いいの?」
悪いよ……と言いたそうなひかりの顔。
はじめは笑顔で『大丈夫っ』と言ってひかりからダンボールを受け取った。
「よいしょっと、うわホントに重たいなこれ。装飾材料がこんな重たかったか? 一体何入ってるんだろう。……ま、いいや。それじゃ、頼んだよ。ひかり、尚哉」
「う、うん……」
「落とすんじゃないぞ」
「だ〜いじょうぶだって。それじゃ、また教室で」
手を振る代わりに持ったダンボールを軽く上げると、はじめは教室へと歩いていった。
ひかりの時とは違ってフラつかずにちゃんと歩いている。
しばらくそれを見つめていた後、ふいに彼女が呟いた。
「……尚哉」
「ん? どうしたひかり」
「急いでペンキ取りに行って教室に戻るよ!」
打って変わって突然大きな声で言ったひかりに、思わずビックリする尚哉。
「どっどうしたんだよひかり」
「早く取りに行って教室に戻ろう。でないとはじめに悪いもん」
さ、早く!と促される。
そして先に駆け出していくひかりを見て、やれやれと呟く尚哉であった。
「ホント、何と言うか…アレだねぇ。うんうん」
「尚哉ぁ〜早く〜」
「あ〜…はいはい。今行くって!」
そして教室……
「あれ、はじめ。尚哉とペンキ取りに行ったんじゃなかったの?」
教室に戻ったはじめは先ほどの話を聞いていたらしいさやかに声をかけられた。
「あぁ、途中でこのダンボール抱えたひかりを見かけてさ、代わりに俺が持ってきたんだ。こんな重いもの持たせたらかわいそうだろ?」
コンコンとそのダンボールを叩くはじめ。
「……それって、相手がひかりだったから?」
「そんな訳ないだろ。相手が誰だろうとこう言うふうにしたさ」
何言ってんだよ、と言うはじめ。
「あたしでも?」
「もちろん」
「そう。ま、そういう事にしておいてあげましょう」
「何だよそれ……それより、なんに使うんだこれ? 相当重たいぞ」
「開けてみれば分かるんじゃない?」
そして、ダンボールを開けてみると……
「何で装飾材料の中に工具セットが入ってるんだよ……どうりで運んでるときにガチャガチャ言うと思ったよ」
「あはは……これじゃあ、重くても無理ないわね」
入っているものを見てはぁ〜と溜息をつくニ人だった。
「え〜っそんなのが入ってたの? それは重かったはずだよ〜」
帰り道、いつものように四人一緒に帰る。
夏が終ってまだそれ程経っていなくても、帰る時間が七時を回れば空も暗い。
辛うじて西の空がうっすらと紫に染まっている程度だ。
「装飾材料と工具セットは違うよなぁ。誰だよ、あの中に入れたの」
「去年使った人じゃない?」
「ん〜そうだろうけどさ」
過ぎたことはしょうがないと割り切った四人は、その後は別の話をして帰っていった。
そして数日のときが流れ……
校内では今日も作業に追われている者達で賑わっていた。
時間も既に放課後に入っており、生徒の数は減ってはいるがまだまだ熱気は失われていない。
「……ふぅ、ちょっと休憩してくる」
はじめはクラスの人に声をかけると廊下に出た。
珍しく、シ〜ンとしている廊下。
あれだけ活気に溢れていたのが嘘のように静まり返っていた。
どうやら他のクラスはもう帰ってしまったみたいだ。
「五時過ぎ……か。そりゃ帰ってもおかしくはない時間だよなぁ」
時計を見ながらふと呟いて、廊下の窓から外を見る。
オレンジ色に染まった空が、少しだけ憂愁を漂わせていた。
しばらくそこから外を見たあと、はじめは歩き出す。
教室とは逆の方向に。
誰も残っていない教室の前を通って階段を上り、上の階へと上がっていく。
三階四階と上がり、辿り着いたそこは――
ギイィィ……
重たい扉を開けると空がすぐそこにあった。
ここは学校の最上階、つまりは屋上だ。
秋の風が優しく髪の毛を撫でていく。
そこではじめは長く伸びるもう一つの影を見つけた。
目で追っていくと、そこには一人の少女。
しかもよく見知った子が手すりに体を預けて、ぼ〜っと何かを見ていた。
「あれは――――――
……さやかか?」
……ひかり?」