〜23、Summer night festival(後夜)〜


昼ご飯を食べ終えて、食後のお茶を入れながらさやかが言った。

「ひかりはお祭のときに浴衣とか着ていくの?」
「ん〜……持ってるには持ってるんだけど、着付けが出来るのお母さんしかいないから着るに着れないんだよね」

苦笑しながら言うひかり。
それを聞いて、さやかがニッコリと笑っていった。

「それなら大丈夫。あたし着付けできるわよ」
「ホント?」
「うん。毎年お祭にはちゃんと浴衣着ていってるからね。ひかりのも着付けてあげる」
「ありがと〜さやか♪ でも最近全然着てないからもしかしたらサイズ変わっちゃってるかも……」
「う〜ん、それじゃあ試しに着てみる?」
「そうだね。行くときになって着れないってなっちゃったら大変だし」
「それじゃ二人とも、ちょっとひかりに部屋に言ってくるから絶対に覗いちゃダメよ? もし覗いたら、ね?」

何やら意味ありげに微笑むさやか。
どうやら万が一覗いた場合命の保証は無さそうだ。
もっともはじめと尚哉には覗く気など全く無いようだが。

「おいおい、んな事するわけないだろ」
「だってはじめだって一応男の子だもの。ね、ひかり」
「うん……覗いちゃダメだよ」

そう言って、ニ人はひかりの部屋へ向かった。
残っているのは、はじめと尚哉だけ――当然か。

「……なぁ、尚哉」
「なんだ横一」
「俺って、人の着替えを覗くような人間に見えるか?」
「…………」
「何でそこで黙るんだよ」
「そう言うやつじゃないと信じたい」
「当たり前だ!!」

しばらくして、ニ人が着付けを終えて戻ってきた。
嬉しそうな顔をしている事から、問題なしと言う事が分かる。
ここで各自用意などがあるので一端それぞれの家に戻ることになった。
特に準備する事のないはじめは、夕方までどう過ごすか考えていた。

「それにしても、俺だけだと部屋も静かなものだな〜。さっきまでにぎやかだったのに……」

ドサッとベットに倒れこむ。
さやかとひかりが寝ていたときに使われた布団などはベランダに干されており、今は昨日干しておいたものが敷かれていた。
これでもはじめは布団をニセット持っており、片方を使ってもう片方を干すと言うローテーションを組んでいるのだ。

「夕方まで昼寝でもしてるかな。昨夜はいろいろあって寝付けなかったし」

夜中の出来事を思い出して少し顔が赤くなったが、眠気が優先されているのですぐに忘れてそのまま寝入ってしまった。
ニ時三時と、あっと言う間に時間は過ぎていく――
ジリリリリリリリッ!!

「…ん。も、もうそんな時間か……ふぁ〜ぁ。寝た寝た」

ベットから起き上がり、いそいそと支度を始めた。
しばらくして身支度を済ませて外に出たところで、さやかが歩いてくるのが見えた。
今年もちゃんと浴衣を着てきている。

「よぉさやか」
「あっはじめ。もう出てたの?」
「まぁな。さやかの方こそ来るのが少し早いんじゃないのか。まだ十五分くらいは時間あるぞ」
「あたしはこれからひかりの浴衣着付けないといけないから。着付けるの結構時間かかるのよ?」
「なるほど、それで早めに来た訳だ」
「ふふっそう言うこと。それじゃちょっと待っててね」

さやかはひかりの部屋へと歩いていった。
残ったはじめはさやかの背中を見送った後、ぼぉっとオレンジ色に染まった空を見ていた。
赤に近いオレンジの中に溶け込んだ高く白い雲が幻想的な光景を生み出している。

「なんと言うか、あっという間だったなぁ」

一ヶ月以上に及ぶ夏休みだったが、いざ始まるとそれは本当に早く過ぎていった。
旅行に行ったこと、翔子がやって来たこと……これがこの夏休みで起こったニ大イベントだろう。
もうすぐそんな夏休みも終り、また学校生活が始まる。
色が少しづつ変わろうとしている空を見て、はじめの口から自然と言葉が出た。

「……綺麗だな」
「そんな、急に言われると恥かしいよ〜」
「――えっ?」

振り返ると、そこには浴衣を着たひかりがさやかと共に立っていた。

「あっでも、そう言ってくれると嬉しい…な」
「いや、俺が言ったのはだな!」

はじめは両手を大きく振りながら顔を真っ赤にしていっている。

「あはははっ。そんなに顔を赤くしなくても分かってるよ〜。私たちに気付かなかったんだから、感想なんて言えるわけないよね」
「でも、あからさまに否定の意を述べられると悲しいわよね〜」
「――――」

茹蛸みたいに真っ赤になったはじめを見て、クスクスと笑うニ人。

「それで、似合ってるかなこの浴衣。どうはじめ?」
「……あぁ、いいんじゃないか。よく似合ってるよ」
「ホント? ありがとっはじめ♪」

嬉しそうにクルっと一回転するひかり。
ひかりの浴衣は、白を基本にひまわりの絵柄のある浴衣だ。
その黄色や緑などの明るい色が、より一層彼女の浴衣姿を引き立てている。

「さやかは……まぁ和風娘だし、似合ってて当然だよな」
「なによ、その和風娘って」
「気にするな」
「そう言われると余計に気になるじゃない。まったく」

両手を腰に当てて怒ったようなポーズを取るさやか。
それが冗談だとはじめもわかっているので、笑いながら言った。

「ハハハ、そうふくれるなって。さやかも似合ってるよ。そう言えば、去年と柄が違うんじゃないか?確か前はもっと明るい色で花火みたいな模様じゃなかったっけ?」
「よく覚えてたのね。ちょっと嬉しいな〜。今年は浴衣を新調してみたの。前のはもう何年か着てたしそろそろ替え頃かなって思って」

今年のさやかの浴衣は、はじめの言った去年までの物とは違って、少し明るめの紺色で赤い斑点が全体に散らばっている柄であった。

「よっみんな集まってるみたいだな」

そこに尚哉がやってきた。
格好ははじめと似ていて、白いシャツにズボンと言ったラフな格好だ。

「あっやっと来た。おそいぞ〜尚哉」
「遅いって、時間通り来たぞ」
「こう言う時はちょっと早めに来るものなの!」

女の子と待ち合わせる時は早く来ないとダメなんだよ!、と尚哉に言っている女性陣。
しかし、あまり興味がないのか尚哉の方はさらっと返した。

「へいへい。遅れてすんませんでした。じゃ、行こうぜ」

途中、見かける人すれ違う人などの大半は浴衣を着ている人で、ついた時にはもうその姿の人でごった返していた。

「うわっ結構賑わってるな〜」
「夏最後のイベントだものね。たくさん人が来るわよ」

ちょっと目を離したら、あっという間に見失いそうだ。

「すごいね。いろんな物があるよ〜」
「はぐれるなよ。ひかり」
「私そんなに子供じゃないよ〜!」

――と、話していたのが五分ほど前。
そして今は……

「まいったな。本当にはぐれたみたいだ」

人ごみの中を歩いているうちに、尚哉とひかりとはぐれてしまった。
さやかははじめの隣りにいたので無事だ。

「どこにいったかな……くそっこの人ごみじゃあ見分けがつかないや」

何処を見ても皆似たような格好をしているので、見つけるのは困難を極めていた。
とりあえずニ人は人の少ないところへ移動する事にした。

「ここなら、あたし達もバラバラになる事はないわね」
「ホントに何処いったんだか」
「がむしゃらに探しても見つからないわよ?」
「そりゃ分かってるけど…」
「せっかくお祭に来たんだから、出店とか見ないと損よ。見回りながら探せばいいんじゃない?」
「向こうもそうやって探してるかな」
「きっとそうよ。だからあたし達もそうしましょ」
「う〜ん……」
「あ〜もうっ。ほらっ行くわよ」

しびれを切らしたさやかが、はじめの手を掴んで歩き出した。

「お、おい。そんな引っ張るなって」

さやかに手を引かれるまま、後をついていく。
初めのうちはこんなだったが、いろいろ見回っているうちに慣れてきて、気が付くと探すのを忘れて2人ならんで歩いていた。
勿論、その間も手は繋がれたまま…。
特にお互い意識はしていないようだ。

〜アクセサリー屋さんにて〜

「あっこれかわいいな〜」
「――そうか?(俺にはどれも同じに見えるぞ?)」

〜わた飴屋さんにて〜

「おじさん、わた飴一つ」
「あいよっ!」
「ねぇはじめ、買って♪」
「へっ?あ、あぁ(何故に俺が?ま、いいけど……)」

何だかよく分からないけど、さやかが喜んでいるのでこれでいいのかもな〜と思っているはじめだった。


「〜♪」
「ふぅ…」
「どうしたの、疲れた?」

嬉しそうにわた飴を食べるさやかを見て、はじめはふぅと一息ついた。
今は一通り見終わって小休止しようと言う事でにベンチに座っている。
この辺は露店が並ぶ場所からちょっとだけ離れているので人も少なく、またそんなにうるさくない場所でもあった。

「いや、たださやかが楽しそうだな〜って思って」
「一年に一度のお祭だもの。それにお祭って何だか童心に帰ったような気がして面白いじゃない。……って、あたし達まだそんな歳じゃないけどね」

ぺロッと舌を出しておどけて見せる。
童心に帰ったことと関係あるかはわからないが、それは格好にも現れていた。
いつもかみの毛を結ぶ等しないさやかが、後ろ髪を一部上でまとめて団子状のようにしてある。
それに前髪も少しだがアップにしてあった。
なんと言うか、言葉に表せないような不思議な魅力をしたさやかにはじめはしばしぼーっと見つめていた。
そして、ハッと気付いてあわてて視線をそらす。
どうやら、本人には気付かれなかったらしい。

「――さて、もうひと回りしましょうか」
「ん。そうだな。よしっこうなったらトコトン付き合ってやるぞ!」
「ふふっどうしたの? 急に意気込んじゃって」
「俺も童心に帰ってお祭騒ぎだ。行くぞ、さやか」

これには半分照れ隠しが入っていることを忘れてはいけません。

「……あっいたいた。お〜い、はじめぇ〜さやかぁ〜!!」

いざ出陣と言うところで、前の方で嬉しそうに大きく手を振るひかりの姿が見えた。
 その隣りには、やれやれと言った感じの顔をして両腕を組んでいる尚哉の姿も見える。

「あれは……やっと見つかったか〜。これで一安心だ」

こちらも一安心と言った顔で、はじめがベンチから立ち上がった。
先ほどの勢いもいつの間にか無くなっている。

「そうね。でも……ちょっともったいない、かな?」
「え、なんでだ?」

さやかがニ、三歩前に出て、はじめの方にくるっと向き直ると嬉しそうな笑顔と一緒に言った。

「だって、せっかくはじめとニ人で回れたのにな〜♪」

ヒュルルルルル〜………ド〜ンッ!!
同時に、大きな花火が一発花開いた。
それははじめの視点から見て、丁度さやかの背後に映るようにして―――
もしカメラで撮れたとしたら、それはとても美しい光景だったであろう。
その光景にしばし言葉を失い見つめているはじめ。

「……………………」
「あっ花火…」

先ほどの一発を皮切りに次々と夏の夜空に花火が咲き乱れる。
花火が上がると言う事はもうお祭も終りに差し掛かってきたのだろう。
あっという間だったが、それでも面白かったと素直に言えるような気がする。
そうはじめは思った。

「いきましょ。早くしないと、いい場所取られちゃうわよ」
「……そうだな。行くか」
「うんっ」

まるでそうする事が当たり前のように、ニ人は手を繋いだ。
だがそれに気付くものは誰もいない。
なぜならみんな花火に見入っているから。
はじめとさやかも、実際は意識して手を繋いだわけではないようで、後でお互い真っ赤になって手を離したという……
残り少なくなった夏休みが、花火の音を名残惜しむかのように過ぎていく。
そんな夏の夜だった。




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