〜17、海へ行こう!(その3)〜


ガラガラガラ…

湯煙の向こうでドアが開いた。
別に開く事に異議をとなえてるわけじゃない。
話が終わったと思ったから。
でも問題は……そのドアを開けた人物の格好にあるんだ。


「っ!?……ふっニ人とも、なっなななんで!? お俺が入ってるってこと知ってるだろ!?」
「えぇ…」
「うん…」
「じっじゃあどうして!?」

俺が見たのは―――バスタオル一枚と言う非常に危険な格好をしたさやかとひかりだった。

「はじめ……隣、いい?」
「へっ!? あ、いやその……おっ俺もう上がろうか?」
「いいの……いいから」

チャポン、と音がしてさやかが俺の隣に浸かった。
ひかりも同様に反対側に浸かる。
それでも二人は何も話そうとはしない。

「……な、なぁ。一体どうしたんだよ」

今俺はニ人に肩を背中で挟まれている。
もちろん肩にはタオルなど巻いているはずもないので、直接肌が触れている状態だ。

「別に、どうもないわよ……ね? ひかり」
「うん……」
「そ、そうか?」

確かに見た感じ変わらないように思えるけど、そこは伊達に幼馴染をやってるわけじゃない。
何か隠してるのは見え見えだ。
特にそれとわかるのは、ひかりの元気がないと言う事。

「……………」
「……………」
「……………」

それっきりパタリと会話が止んだ。
お互い何も話さずただ時間だけが過ぎてゆく。
さっき部屋にいた時はあんなに楽しそうに話してたのに…。
まさか俺を追い払ったときに何かあったのか?
う〜ん、いつも仲のいいニ人だから何かあるようにはとても思えない。
やっぱり俺の思い過ごしだろうか?

「なぁ、俺そろそろ上がるわ」
「「あっ……」」

ずっと浸かっていてのぼせそうになったので、一人風呂から上がる事にした。
待って……と言いたそうなニ人を残して脱衣所へと足を向ける。
浴衣に着替えて部屋に戻り少し涼もうとベランダにでた。
あんなに暑かった昼間が嘘のように心地よい風が火照った体を撫でてゆく。
沢山の人で賑わっていた浜辺も今では波打つ音しか聞こえてこない。
黒い海の上には光り輝く真ん丸のお月様がある。
雲一つ無い空、星と一緒に見えるから風流さを感じる。

「夏は夜って言うけど、あれは当たりだな〜」

…ホントは少し意味が違うけど。
ま、それはいいとしてだ。

「さやかとひかり、一体どうしたんだろう」

これはありえない事だが、喧嘩でもしたんだろうか?
でもそれなら何のために俺がいる風呂に来たっていうんだろう?

「まさか……俺が関係あるとか」

はははっ、まさかな。
考えすぎだ……風呂上り直後の所為かな?
まだすこし火照ってるから、もう少しここでのんびりしていよう。


しばらくして、さやかとひかりも部屋に戻ってきた。
相変わらず二人とも黙ったまま。
そんなニ人にお茶を差し出すが『ありがとう…』とだけ言ってまた黙り込んでしまう。
せっかくの旅行なのに、これじゃあ面白くないな。
はぁ〜、もう寝ようか。
明日になれば戻っているといいけれど……大丈夫かなぁ?



「はじめ、寝ちゃったね……」
「うん……そうね。それで―――本当はどうなの? ひかり」

真剣な眼差しでさやかが私を見ている。
どうしてこんなことになったかと言うと、さっきはじめが席を外し時にさやかが言ったことから始まった―――

『あのね、ひかりは……はじめの事、好き?』

そう聞いたときは凄いビックリした。
最初は冗談半分で聞いてきたと思ってたけど、次の一言が本気だと言う事を決めた。

『あたしは好きよ。はじめの事』

……そ、そうだよね。
すっと一緒にいたんだもん。
好きになっておかしくないよね……

『ひかりはどうなの?はじめの事、好き?』
『わっ私は、はじめのこと……』

どもっちゃって上手く話せない。
それで、とっさに『お風呂で話すよ』って言ってしまった。
ニ人でお風呂に行ったのはいいけど、私たちが来たときはじめは凄い驚いていた。
上がろうとするはじめをさやかが引き止めて、そのまましばらく沈黙する。
結局何も言えないまま、はじめは上がってしまい、私たちもその後しばらくしてからお風呂を後にした。
そして今―――

「……きだよ」
「えっ?」
「好き、だよ。前から……ううん。もっと昔、このペンダントを貰う前からはじめの事、好きだよ」

少しの間、さやかは黙ったまま下を向いていたが、

「……そっか」

と言って私のほうに向き直った。

「あのね、ひかりにどうしても言っておこうと思った事があるの」
「言おうと思ったこと?」
「うん…。ひかりがはじめと離れてる間……あたしがはじめと一緒にいる間の事。聞いてくれる?」

そう言うと、さやかは自分の事を少しづつ話し始めた。
はじめと出会った頃の事。
その時どこか悲しそうな表情をしてた事。
中学のときに襲われそうになった所を助けてもらった事。
それは私の知らないはじめの姿だった。

「ひかりがはじめの事が好きって事は初めからわかってたわ」
「えっ?」
「だって、あんなに嬉しそうにして抱きついたでしょ? それに……キスだってしてたし」
「あ……」
「あたしも、はじめの事が好きだったのかも知れない。でも今までずっと幼馴染の関係を続けてきたからそれに気づかなかったのかもしれない」
「さやか…」

長くずっと一緒にいると、恋心って気づかないのかな……
そしたら、もしはじめがお引越しをしなかったら、私も……?
やだよ……
もしそうだったら、私……イヤだよ……

「でも……でもね。今は胸を張って言える。『あたしははじめの事が好き』って。この気持ちに、嘘偽りはない」
「私だってはじめの事……好き。これは前から変わらない事。変えたくない事だよ」
「……じゃあ、あとははじめ次第って事ね」
「……そうだね」

こんなこと言った後なのに、なんだかすごいスッキリした気持ち。
さやかもきっと同じ事を思ってるんだと思う。
だって、さやかもいつもの笑顔よりずっと明るいから。
恋する女の子は綺麗になるって言うみたいだけど、本当みたいだね。
負けないよ、さやか――――



「はじめ〜朝よ。起きなさい」
「そうだよー。起きないと朝ご飯食べちゃうよ」

翌朝、ニ人の声で目が覚めた。
昨日あんなに話さなかったニ人が、何事も無かったかのように笑顔で話し掛けてくる。
やっぱり俺の思い過ごしのようだった。

そう………『だった』なのだ。

「はい、あたしが食べさせてあげる」
「えっ!? いや、いいって……じ、自分で食べられるから」
「はじめ、これとっても美味しいよ。はい、あ〜ん♪」
「いや、だからなぁ」

その日の朝ご飯は、妙にべたべたしてくるさやかとひかりに振り回されっぱなしだった。
一体どうなってるんだ? やっぱり何かあったのか? 昨日のダンマリは何だったんだよ〜!
その後、食事が終わってもニ人は俺の側を離れようとせず両側に座ったまま……。
そのまま旅館を出る時間になってしまい、チェックアウトするために部屋を出ようとした。
結局尚哉の奴来なかったなぁ……

「ん〜………あっいたいた。お〜い、横一ーっ!」

歩き始めたとき(もちろん、さやかとひかりは俺の腕をしっかりと自分の腕と絡めていた)、後ろからいつも聞く声を聞いた。

「いやぁわりぃわりぃ。ついつい寄り道して秋田まで行ってしまった。ははははははっ!」

寄り道で秋田って……ここ何処だと思ってんだよ。
全然逆方向じゃないかよ、ったく。

「おまえなぁ〜。もうチャックアウトだぞ。来るのがすんごく遅すぎ!」
「だから寄り道したって言ったろう。それよりも横一、女の子ニ人を両手に連れるとは……うんうん、青春だな」

なにやら遠い目をして尚哉がほざいている。

「これは、俺じゃなくてさやかとひかりが―――」
「「青春だよね? はじめ♪」」
「…あぁっ。一体どうなってんだよ!……本当に……誰か教えてくれーッ!」

夏はまだまだ始まったばかりだった。

一方、別な場所でも新たな出来事が起ころうとしていた――――



私には憧れの人がいる。
ちょっとニブくて鈍感なところがあるけれど。優しくてカッコ良くて頼りになる人。
昔は夏休みとかによく遊んでいたけど、ここ最近は全く会っていない。
元気でいるかなぁ?
私ももう十五になったから、この休みに決意して遊びに行ってみることにした。
一人暮しを始めたっておばさんが言ってたけど……
久しぶりって事で突然押しかけてみちゃったりして♪
えへへ、そうしてみようかな〜。
日にちはっと……明日までは部活があるから―――うんっ明後日にしよう。
楽しみだなぁ。
彼女とか、出来てないよね?
待っててね、はじめちゃん……。




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