〜14、雨の中の二人(後編)〜
ドサッ―――
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
服が乾いたから取り出そうとしてさやかと俺が同時に立ち上がった。
その時俺は足元に転がっていたテニスボールに足をとられて派手に転んだ。
と、そこまではいいんだ。
問題はその後……
「ん〜……」
転んだ際目を瞑ったので、目を開ける。
するとそこにはさやかの顔があった。
それも目の前に。
5センチ離れてるかも怪しいところだ。
「は、はじめ……?」
「ごっゴメン。つまずいたらしい。…大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫だけど……」
さやかは頬を赤く染めて、俺から目をそらす。
この体勢じゃ、なぁ。
「…だけど?」
「手、触ってる……」
「え……?」
目線をさやかの顔から自分の手へと移動させる。
右手―――は俺のベットに。
左手―――は俺のベットに……ない?
不思議に思ったので左手を少し動かそうとする。
ふにふに
「あっ! ちょ………はじ…め」
さやかが変な声を出した。
あわてて止めてふと考える。 柔らかいような感触???
なんか前にも覚えがあるような……。
変だと思ったので目線を左手があると思われた場所から少しづつ上へ………
すると……
俺の左手は、さやかの胸に添えられていた。
シャツ越しに、まるで鷲づかみをするかのように。
「うわっ!!!!」
一瞬で飛び起きた。
「ご、ごめん!!!!」
四月の時といい今といい、俺は変態か。
「ニ回もこんな事して言うのも説得力無いけど、本当にゴメン!!!!」
流石にもう許してもらえないかも。
「い、いいよ。今のはしょうがない事だし、それに……」
「そ、それに?」
「それに、その………………から」
「えっ?」
「ううん…なんでもない」
それ以降プッツリと会話が途切れた。
お互いベットに座ったままの状態でいる。
聞こえてくるのは、やはり時を刻む音と雨の降る音のみだった。
……どれくらいそうしていただろう。
不意にさやかが俺に言った。
「ねぇ、はじめ」
「な、なんだ」
「あたしってさ、女の子らしくない……かな?」
「えっ…? ど、どうして」
「だってはじめの事よく叩くし、すぐに怒るから。あたしなんかよりもひかりの方がずっとおしとやかで女の子っぽいよね……」
潤んだ瞳でまっすぐ見つめながら、ゆっくりと話すさやか。
その瞳はまるで何かにすがるような感じだ。
……確かに、他の女子やひかりと比べると少しではあるが攻撃的だ。
特に尚哉相手には顕著になってる気がするけど……でも俺はそんな事気にした事は無かった。
なぜなら、それがさやかだったからだ。
そういうところも含めて、さやかだと思ってるから。
もしかして自分が攻撃的だってこと、気にしてるのか?
「あたしって、ホントに……」
「そんな事はないって。さやかはさやか、ひかりはひかり、他は他だろ? それぞれの個性ってもんさ」
何を言おうとしたのかは分からないが、それを遮って言った。
「はじめ……?」
「俺は、さやかが攻撃的だなんて事を気にした事はないぞ」
「えっ」
「だから、さやかもそんな事気にするな」
そっとさやかの頭を撫でる。
壊れ物を扱うかのように、優しく、ゆっくりと。
これって普段から考えると相当恥かしい事してるんじゃないか?
やっぱ、雰囲気がそうさせているんだろうか。
「……ありがとう、はじめ」
さやかが、俺の首に両腕をまわして自分の前に引き寄せた。
―――えっ?
「おっおい、さや……か?」
体はくっついていて、顔もお互いの吐息を感じるほど近くにある。
これは…俺はさやかに抱きしめられてるかのようだ。
俺の両手が中をさまよう。
「はじめ……ちょっとだけ、ゴメンね……」
俺の顔とさやかの顔の距離がゼロになる瞬間、さやかは目を閉じた。
・・・・そして・・・・・
「んむッ!?」
「んっ…………」
首及び体を固定されているので何の抵抗も出来ない。
俺はさやかにされるがままになっていた。
部屋の中に水っぽい音みたいのが響く…。
「む……ん………ん…」
そのうち、さやかが体重をかけてきた。
ドサ、と音がしてキスされたまま押し倒される。
「んっ………」
押し倒されてもその行為はしばらく続いていた。
それにしても、さやかが俺に……
「ん…はぁ」
さやかの方から離れると、ニ人の唇の間に糸みたいなのが出来た。
つぅーっと糸を引き、すぐにプチンと弾けて消える……
「あっ……」
なんか、メチャクチャ恥かしい。
でもさやかはニッコリと微笑んでいる。
この対称的な差は一体なんだろう?
「はじめ……」
抱きついて、押し倒したままの体勢でさやかが言った。
「な、なんだ?」
「うふふっなんでもない♪」
そう言って、また唇を合わせた。
今度は触れるような軽いキスを……
「―――さやかってあんな事するような奴だったか?」
「それは……特別よ。雰囲気とかいろいろ重なったりして、それで……で、でもあたしは、嬉しかったわよ」
それを聞いて、俺は顔全体が真っ赤になった。
「そっ、そうか」
「うんっ♪」
今のさやかは、とても女の子っぽいと心から思えた。
「あっ、雨止んだね」
窓越しに光が入り込んでくる。
どうやら、さっきの出来事の間に止んだみたいだ。
「それにちょうど服も乾いたし。…あらら、シワだらけだ」
「後でアイロンかけないと」
「そうだな」
「さて、と。それじゃあそろそろ帰ろうかな。はじめ、着替え除いたら怒るからね」
「わかってるって」
さやかが着替えてる間は後ろを向いている。
俺が動かないのは、さっきの行為の余韻が残っているせいだろうか。
そして、ごそごそと音がしなくなったと思うと耳元でさやかが囁いた。
「今日の事は誰にも言っちゃダメよ。それじゃねっ!」
バタン…
「………………」
そっと自分の唇に手を当ててみる。
余韻が残っているかのようにしっとりとしていた。
さっきの事を思い出すとまた顔が赤くなる。
「これから、どうなるんだろう」
無意識のうちに言葉が出たが、本当にどうなるのか。
明日から夏休み。
俺は何かが起こりそうな予感がした………。
とんでもなく大きな事が―――
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