〜13、雨の中の二人(前編)〜
今日は一学期の終業式。
長きに渡った授業から開放されて、待ちに待った夏休みが始まる。
期末テストも無事に済んだし!
ちなみに、テストの結果は、いつも通りと言えばいつも通りだが。
ま、それは置いといて! 休みが来るってのはやっぱりいいものだ。
心が知らず知らずの内に弾んでくる。
「はじめ、さっきから誰もいない方向に何ぶつぶつ言ってるの?」
俺の隣にいたさやかが言った。
「い、いや……何でもないぞ(口に出ていたか……)」
「そう? にしても校長先生の話は相変わらず長いわねぇ。足が痛くなっちゃった」
ウチの学校の校長の話はとにかく長い!
まぁどこの校長の話も長いと思うけど、こりゃ長すぎだ。
下手をすると軽く小一時間くらいは平気で語りつづけるマシンガントークぶりだ。
一体どこからそんな量の弾丸(話題)出してくるんだ本当に。
まったく……それをただただ立って聞いてる俺たちの身にもなって欲しい。
これは予想だが、校長の話を真面目に聞いているのは全くと言っていいほどいないだろうなぁ。
と、その時天井のほうから何かを叩く音が。
次第に間隔が早くなって、遂には誰もが聞こえるくらいの音を立て始めた。
「あら……雨かな?」
側面の窓を見ながら呟くさやか。
強く降って来たみたいで、さっきまで濡れてなかったガラスは完全に雨に打たれてる。
窓開けたら雨の音が聞こえてきそうだ。
「でも今朝の天気予報では晴れって言ってたぞ」
「じゃあ、はずれね」
「はぁ〜……そうみたいだな」
天気予報は大いに外れた。
……あれ、そういや今日は傘持ってたっけ?
長々とした校長の話が終わって、教室に帰る頃にはすでに雨は本降りも本降りと言える位なまでに。
止む気配など全く無く、学校終了時でバケツをひっくり返したような土砂降りだ。
ここまでまとまって降るのって久しぶりだ。
「それじゃあ、私は部活でミーティングがあるから先に行くね」
「おう、じゃあな」
「またね」
「んじゃ」
ひかりは、テニス部のミーティングがあるとかで行ってしまった。
「はじめはミーティング無いの? 同じ部なのに」
「さぁ? あったら俺も行ってるんだがな」
何で女子の方があって、俺たちのほうは無いんだろう?
まぁ、別にいいけどさ。
「俺も用事があるから帰るわ」
「尚哉は傘持ってるの?」
「普段から折り畳みを持ち歩いてる。それじゃ」
尚哉も行ってしまった。
そのあと、昇降口までさやかと降りてきた。
俺たちと同じように傘を持ってきていない連中がどうしようかとたむろしてる。
「さやか、どうするよこれ。濡れて帰るより他はないみたいだぞ」
「仕方ないか……このまま当分止みそうもないし、潔く濡れて帰りましょ」
「だな。鞄くらいは傘代わりになるかねぇ」
途方にくれている者たちをよそに、うんっと頷くと雨の中走り出した。
一応鞄を頭に載せて走ってるけど、それは何の意味もなくあっと言う間に服はびしょ濡れになり、靴も水浸しと化した。
濡れた服が肌にべっとりと纏わりついて気持ち悪い。
「さやか、一旦俺の家に寄っていけよ。雨宿りだ」
「そうさせてもらう………きゃっ!!」
「どうした」
「な、何でもないわよ! そそれより早く急ぎましょ」
夏の夕立恐るべし!
舐めて掛かると痛い目にあう。
家に着く頃には全身びしょ濡れはもちろんの事、鞄に入っていた教科書やノート・プリントにいたるまで全部濡れてしまった。
……鞄を裏返したら水が流れてきたぞ? 一体どんだけ溜まってたんだよ……
「ふぃ〜まいったまいった。大丈夫か、さやか―――あぁ!!」
「どうしたのよ。急に大声出して」
「いや、その。お、怒るなよ。ふ…服が透けてる」
「えぇっ!?……はぁ〜、この雨じゃしょうがないわね。着衣水泳でもしたと思えばいいかな」
「……………」
「…ちょっと、見たら怒るわよ」
もう見えてるんですけどね……
「わ、わかってるさ。それより風邪引くといけないから早く服を乾かさないと。俺は洗面所で着替えるからさやかはこっちの部屋で着替えてくれ。……と言ってもここに女の子物の服なんかあるわけないし……どうする?」
「はじめの服でいいわよ。別にずっと着てるわけじゃないんだし」
「じゃ、終わったら声掛けてくれよ。それまでは出てこないから」
「うん。わかった」
「服は、何処にあるか知ってるよな?」
「もちろん。伊達に何度も来てる訳じゃないから大丈夫よ」
ガチャリ
「ふぅ…。夏場の天気予報はアテにならないな」
濡れた服を脱ぎながら、一人呟く。
なんか洗濯したばかりの服を着てたみたいで本当に嫌な感じ。
「あ、そうだ。鞄の中の物も乾かさないと。…なんだか、悲惨な事になってそうだな〜」
特にプリント類はあまり見たくないなぁ。
さっき鞄から水出てきた時点で大体どうなっているか想像はついている。
全滅必須かぁ……大事なものとかあったかな。
コンコン
「はじめ、もう着替え終わったわよ」
「分かった。それじゃあ出るぞ」
出た。さやかを見た。
暫し沈黙……と言うか絶句。
「な、なぁさやか」
「な、なに……よ」
「どれ着てもいいって言ったけどさ、何故にYシャツしか着てないの?」
「だ、だって……それに、シャツだけじゃないわよ。ちゃんとズボンだって借りてる」
さやかの服装は俺が普段学校へ着ていくシャツと普段着のズボンのみだ。
おまけに服の上からニつのボタンは掛けられてない。
……なんだ、お約束って言いたいのか?
「そ、それじゃあ服を乾かすから……」
俺のとさやかのをまとめて乾燥機に放り込んで、乾くまで待つ。
いくら夏とは言え、雨の中傘無しで走ってきたので体は冷えてる。
そこで何か暖かいものでも作ろうと台所へ向かった。
「ん〜お茶とコーヒーしかないか」
「どうしたの?」
後ろからヒョイっとさやかが顔を覗かせてくる。
「さやか、お茶とコーヒーどっちがいい? まぁ聞くまでもないと思うけど」
「も・ち・ろ・ん・お茶よ」
即答。愚問だったようだ。
「お茶ならあたしが煎れてあげるわ。はじめは座って待ってて」
「あぁ、分かった」
知っての通りさやかは大のお茶好きだ。
そのお茶好きが我が家にも浸透している。
それは急須や茶葉が常備されてることだ。
家によく来るさやかが強制的に俺に買わせたんだが……
最初はめんどくさいと思ったけど、飲んでみるとこれがなかなかに美味い。
それ以来俺もお茶は急須で入れるようになり飲む機会も増えたワケだ。
「はい、お茶出来たわよ」
「サンキュ〜」
こぽぽぽぽ……と湯飲み茶碗に注がれていく。
熱い湯飲みの端をそっと持ち上げてずずずっと啜れば、口の中が一気に暖かくなる。
「はぁ〜……やっぱお茶は美味いわな」
「じじくさいわよ」
「そうか? でもお茶とか飲むとつい言いたくなるんだよな〜。はぁ〜とか」
「ふふっ、そうかもね」
―――と、会話が続いたのも最初だけで、後はお茶をすする音と雨の音だけが聞こえていた。
お互い黙ったまま…………
「……………」
「……………」
なんか……こう言う時って変にさやかを意識してしまう。
目を逸らしても、いつの間にかさやかの方を向いてるし。
なんて言うかその……俺ってバカか?
「はぁ…」
静かな空間に、さやかの溜息が響く。
前にもこんなことがあったような気がするなぁ。
「ねぇ、はじめ」
「な、なんだ?」
「雨……止まないね」
「止まないな…」
「服……乾かないね」
「そうだな……」
やはり会話が続かない。
家の中までじめじめしてしまいそうだ。
ピーッピーッピーッピーッ
急に音が鳴り響く。
どうやら乾燥終了みたいだ。
やれやれ、なんとかなったな…。
「あっ、俺が取ってくるよ」
「い、いいわよ。あたしがやるから」
ニ人同時に立ち上がりる。
と、その時―――
ツルッ
「うわぁっ!!」
「えっ…きゃッ?!」
乾燥機に向かって歩き出そうとしたときに、それは起こった…………
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