〜9、テニスっていいよね?〜


「はい、もう大丈夫ね。テニスやってもいいわよ」

保健の先生からようやくOKがでた。
何だかんだ言ってニ週間近くは部活に顔すら出さなかったし、今日は行ってみるかな。
久しぶりに部活。当たり前だが、何も変わっちゃいない。
ラケットすら触ってなかったからな……腕が鈍ってないといいけど。

「あら、横浜君もう怪我は治ったの?」

コートまで足を向けると、テニス部の顧問の先生がやって来た。
男女テニス部があって、それをこの先生一人で顧問をしているのだ。

「はい、もう大丈夫です」
「でも、無理しちゃダメよ。また怪我したら大変だからね」
「わかってます」
「あっ、そう言えばさっき女子部長が横浜君の事探してたわよ。何か用があるみたいで……」

部長が俺を探しているときは、大抵後輩指導をしてくれって頼むときだ。
自分で言うのも馬鹿らしいが俺はテニスが得意だ。
父さんの影響もあるけど、小さい頃からみっちりしごかれたお陰で今では高校生で俺に敵う相手はいない。
当然この部内でも俺が一人群を抜いている状態だ。
それだからか、部長は男女含めて指導は俺に任せると言ってきた。
『私達が教えるよりはずっと技術がつくでしょ?』
…だそうだ。
こんなんでいいのかね?

「あっ、いたいた。横浜く〜ん」
「なんですか。俺を探してたって先生が言ってたんですけど」
「あのね、今日新入部員が入ったの。それで、横浜君にその子をお願いしようと思って……いい?」
「はぁ、構いませんが」

すると部長が『じゃ、お願いね』と言って呼びに行ってしまった。
その間に俺はコートの邪魔にならないような場所から後輩達の練習などを見ていた。
暫くボーっと見ていると不意に視界が真っ暗になり……背中に抱きつかれたような感触があった。

「だ〜れだ?」

と言う声と、

「ち、ちょっとっ千堂さん!?」

と言う部長の声……ん?千堂さん?

「千堂って……まさか、ひかりか?」

「あたり〜♪」

ぱっと視界が開ける。
後ろを向くと、俺に抱きついたまま満面の笑みを浮かべるひかりと顔を真っ赤にしている部長がいた。
ひょっとして、新入部員って言うのは――

「千堂さん、横浜君の事知ってるの?」
「うん」
「そ、それよりひかり。いい加減離れてくれ…恥かしい」
「あはっ☆ はじめ顔真っ赤にしてる〜可愛い〜♪」

そう言ってさらにギュ〜ッと抱きつくひかり。
ああもう、周りの視線が痛い。

「そっそれじゃあ、よろしくお願いね……」

とだけ言い残してささっとこの場を後にする部長。
そんな逃げるようにして走り去らなくても。

「……なぁ、ひかり」
「ん〜?」
「本当にそろそろ離れてくれ。周りの視線が痛い……それもかなり」

俺が言うと、ひかりはちょっと残念そうな顔をして離れた。
それと同時に、さっきまであった視線は弱くなる。
うわ…めっさ極端な。

「ひかりは、中学校の頃はテニスやってたのか?」
「うん」
「そっか。それじゃあ、俺の相手でもしてくれよ」
「うん! いいよ♪」

病み上がりなのでハードな練習はできなかったけど、ひかりといろいろやった。
ニ週間動かさないと、体も鈍る。
こりゃダメだな……走った方がいいみたいだな。
下半身に力が上手く入らない。
捻挫した足を無意識に気づかっているのもあるんだろうけど。
でも久しぶりにやるっていうのはいいものだな。


『お疲れ様でした〜!!』

部活が終わる頃には、日はすでに傾いていて、辺りは暗くなってきていた。
その帰り道、ひかりと話しながら帰る。

「そう言えばひかりはいつからテニスやってるんだ?」
「中学校のころからだよ。最初はお友達と面白そうだからって始めて。それからずっと」
「面白いだろ?」
「うんっ。それもあるけど………」

・・・はじめもいるから・・・

「えっ、何だって? よく聞こえなかった」
「ううん。何でもないよっ♪」
「そっか? ならいいけど……」
「うんっ」

何か言っていたように聞こえたんだけど……ひかりがいいならそれでいっか。

「あっ見てはじめ。一番星だよ」
「ん、おぉ〜ホントだ。一個だけ光ってる」
青と赤が混ざった空に一際輝くひとつの星。
雲がないから一段と綺麗に見える。

「何だか、得した気分だね」
「そうかもな」
「帰ろっか」
「あぁ…」

――春の麗らかさは少しづつなくなり、段々と夏の気配がやって来る。
はじめにとっても、さやかとひかりにとっても、大きな変化が訪れる夏がすぐそこまできていた――




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