エピローグ “そしてまた、一緒に……”

そしてまた、桜の咲く季節がやってきた。


「今年もよろしくね。はじめ」
「ああ。こちらこそよろしくな。さやか」
「今年も一緒されてやる。横一」
「俺は無理にとは言わないぞ?」
「……冗談だ」

毎年恒例のクラス発表。
やっぱり一緒の三人組。
ついに別れるって事はなかったな。
まぁ、今年から俺たちは続に言うところの“受験生”ってやつ。
三年ぶりの言葉だな。
イヤでも何でも勉強が付きまとってくるわけ。
一応、俺は進学組みだ。
さやかも尚哉も進学組みで、三人一緒に同じ大学を受けようかと話をしてる。
尚哉に限っては、学校側から『もっと上を目指してくれ』とお願いされまくってるらしいけど、返す答えはいつも一緒。

『や、メンドイし。学校の意見聞くの癪だし。俺興味ないし』

親を交えての三者面談……正確には、何故かやってきた教頭&校長の前でも言ったものだからさぁ大変。
学校側からすれば、親を味方につければ……なんて考えてたのかもしれないけど、相手は尚哉の親である。
無駄に終わったことは言うまでも無い。
あえて言葉にするとすれば、

『自分の考えたように行動すればいい』

だそうだ。
まぁ、そんな感じで始まった高校生活最後の年。
その始まった週の終わりに、一通の手紙が届いた。

「……ひかりからだ」

ひかりからの手紙……一月ごろから送られてきてて、最近ではほとんど毎週に用に手紙をやり取りしてる。
中身は、向こうのことや自分のことなどが書かれていた。
一応うまくやってるらしい。
ただ、いたる所に“早く帰りたい…”の文字。
ひかりは……いつ帰ってくるんだろうな。
そんな事を考えながら四月はあっという間に過ぎていった。
毎週来ていた手紙に変化がおきたのは、五月に入ってからだった。

「あれ……?」

いつものように郵便ポストに目をやると何も入ってない。
別にそれくらいでは気にならないかもしれないけど、少なくとも俺は気になった。
なぜなら、毎週届いていたひかりからの手紙が来なかったのだ。
まぁ遠く国を隔ててるんだから何かの都合で一日くらい遅れるわなぁ……なんて思いながらまた次の日に見てみることにした。
そして次の日。ない。また次の日。ない。またまた次の日。ない……。
五日経っても手紙は来なかった。
……向こうでもいろいろあるんだろうなぁ、きっと。
結局、あっちで忙しくなったということを想像して、次来る時を待つことにした。
来ないまま日付だけが過ぎていった、ある日のことだった――――――

「それじゃはじめ、また明日ね」
「じゃあな〜」

さやかと尚哉が教室から出て行った。
今日は珍しく俺が別行動を取る。
俗に言う野暮用ってやつで。
これから俺は図書室へ向かうのだ。
仮にも何にも、俺は受験生なのだから。
建前くらいは勉強を……ね?
正確には勉強と言うよりは調べものって言うのかなぁ。
俺も自分の荷物を鞄に入れると、図書室に行くために教室を後にした。

〜その頃――〜

「そういえば、久しぶりじゃない? 尚哉と二人で帰るなんて」
「だな。横一が珍しくいない」
「はじめってば、急に図書室に用があるからって言うから……着いて行けばよかったかな」
「さやかこの後ヒマなのか?」
「んー、ヒマかと言われるとそのようなそうじゃないような? あたしだって一応用はあるのよ」
「そうか〜。ヒマだったら何か食いに行こうと思ったんだがなぁ」
「尚哉の奢りで?」
「俺は横一じゃないからそこまでお人好しじゃない」
「じゃ、行かない」
「うわ〜あっさり言われた」
「あんたにももう少し優しさがあればねぇ……」
「ひどい言われようだなオイ。まるで俺ケチみたいじゃん」
「違うの?」
「さやか……最近俺に冷たいぞ」
「そんな、いつもと変わらな――――――――って、あれ?」
「ぉ……」
「今すれ違ったのって……」
「知り合いとか?」
「いや、なんか何処かで見たことあるような……もしかして、あれって――!」
「ふぅ、やれやれ……さやか」
「ん?」
「やっぱりこれから何か食いにいこうぜ。俺が奢るから」
「ちょ、どしたの急に?」
「気分の変化、かな。……横一おめでとう祝いってやつだ」
「え……じゃあ、やっぱり今のって……!」
「皆まで言うな。さて、行こうぜ」

ま、頑張れや。横一――――――

「んあ〜。終わったぁ!」

両手を伸ばして、うーんと伸びる。
大きな声で達成感を味わおうにも、ここは図書館。
大声厳禁。騒ぐのはご法度だ。
ここは心の中で言っておくとしよう。
調べていた本を元あった棚に戻して、荷物を整理してから図書館を後にした。
気がつけば空も夕焼けに近い色をしてる。
そんなに時間かかったかな。
人気のほとんどない廊下を抜けて、さっさと靴に履き替える。
放課後とはいえ、静かなものだ。
いつも賑やかな中にいるから、ある意味貴重な時間だろうな。
もっとも、その賑やかな時間も去年と比べればずいぶん静かになったのだが……

「………………」

ひかり、どうしたんだろうな。
もう手紙が来なくなってずいぶん過ぎた。
都合で遅れるにしても、これはちょっと……。
もうそろそろ五月も終わろうって言うのに。
なにか、あったのかな。

「いやいやいやっ!」

俺が弱気になってどうするんだよ。
ひかりは、絶対に戻ってくるって!
約束もしたし、俺の代わりにと渡すものも渡した。
いつ帰ってくるか不明だけど、俺は待ち続けるんだ。
帰ってくるその日まで。

「今度は、こっちから送ってみようかな……?」

いつも来た手紙の返事を書いてただけで、自分から送ったことってないな。
今日あたり俺のほうから書いてみるか。
だったら前回でなくなった手紙とか封筒を買いに行かないと……。
そう思い、普段曲がる道を逆へと向かおうとした時だった。

『そっちは、あなたの家じゃないよ?』
「うん?」

横で声がした。
何かと思って振り向けば、普段俺が帰る方向の道に、少し下を向くと顔が隠れるくらいつばの広い帽子を被った女性が立っていた。
顔も見えないのに女性と分かったのは、髪の毛が長いからだ。
これで男だったら怖いが……少なくとも、さっきの声からすると女性だろう。
……でも、この人誰だろう?
なんで俺の家の方向を知ってるんだ?
ひょっとして知り合いか?
でも女の人で知り合いってほとんどいないしなぁ。
う〜ん…。

「それとも、遠回りして帰るのが好きなの?」
「いや、あの……」
「……なんで、“俺の家を知ってるのか。”って?」

ズバリ思ってることを言われて、うなずく事しかできない。

「む……ひょっとして、もう忘れちゃったの?」
「え?」

な、何のこと……だ? 忘れた?

「たった五ケ月くらいの事なのに……ちょっとがっかりしちゃった」
「え……えぇ?」
「これでも、分からない?」
「あっ……!!!!」

俯いていた顔がこちらを向いた。
左手で被っていた帽子を取る。
さらりとなびく後ろ髪。
そして、帽子を持った左手に光るもの。
忘れない……
忘れはしないさ。
だってそれは、俺自身があげたものだから。
今、俺が待ち続けているもの、それは――――――

俺の目の前で、あの時から少しも変わらないでいた人が、満面の笑みで俺を迎えてくれた。
………………
ば、ばかやろう。
急に見たから……声が、出ないじゃないか。
身体が……震えてきたじゃないか。
目から……なんか溢れてきそうじゃないか。
落ち着け、落ち着け俺……。
心境を悟られないように小さく深呼吸して息を整えて、俺も最大級の笑顔で見つめ返した。そして……


「おかえり、ひかり――――――」

「ただいまっ。はじめ♪」


〜おわり......〜



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