日常は突然に消え去る 二
「どうしても、私でないといけないんですか?」
「うむ……先方がいたく君をお気に入りでね。是非にと指名が来たよ」
「そうですか……」
「うちの今後のためにも、是非行ってくれないだろうか?」
「―――と、言うわけでだな。実に久しぶりの横一の家なのだよ。わかるかね? 皆の衆」
「はいはい、分かったからそう興奮しないの」
今日は大晦日。
今年も今日で終わろうとしている。
思い返せば、今まで経験した事無いくらいいろんなことがめまぐるしく過ぎていった一年だった。
二年になって、11年ぶりにひかりと再会して……
「でもひかり」
「ん?」
「あたし達まで来ても良かったの? その、今日は大晦日なんだし……二人でいるとか……さ」
「ううんっそんな事無いよ。こうやってみんなで集まるのって久しぶりでしょ? だから私も嬉しいよ♪ ね、はじめっ」
「えっ?! あ、そそうだな」
いろいろ考えててついボーっとしてたな……
「それにね……」
「それに?」
「はじめとは毎日一緒にいるから♪」
「あらま〜……」
「マジか!? うわーノロケられた!」
一番ハデに騒いでるのは、実は尚哉だと言うのを忘れてはいけない。
さやかもそれを聞いてビックリしてはいるけど、何ていうか……嬉しそうな顔でひかりを見ている。
暖かい眼差しで見守ると言うか……こう…あぁ、例えにくい。
「さやか、こうなったら俺たちも対抗してノロケるべよ!」
「はぁ? あんた何ワケのわかんない事言ってるのよ。それに、ちょっとお酒飲みすぎ!」
「気にするな気にするな! 今日は大晦日だってばに〜。久しいからパァッと騒ぐんだよ」
そういいながら更にお酒の入ったコップを一気に仰ぐ。
……尚哉、お酒強いハズなのにもう酔ってるんだろうか…?
「まぁ、コレはとにかくとして……良かったわね。はじめもひかりも」
しっかりと俺達を見据えてさやかが言った。
笑ってるけど、ちょっと真剣みが入った言葉。
分かってる。さやかが何を言いたいかは。
だからこそうんと頷く。
余計な言葉は、いらないから……。
「はじめ、ちゃんとひかりを幸せにしてあげなさいよ〜」
「分かってるよ」
「ひかりも、はじめと仲良くね」
「うんっ♪」
なんか、さやかが一瞬だけどっちかの母親に見えたような気が……
と、急にさやかがニヤッと笑った。
「で、二人はどこまでいったの?」
「……え?」
「さ、さやか?」
「キスは……あ、もう会った最初の段階でしちゃってるんだっけ。だったらその上とか、ね?」
『えぇっ?!』
…撤回。次の瞬間には子悪魔に見えた!
「そ、そりゃあいくらなんでも、まだそこまでは……な、なぁ?」
「う、うん……」
「そこまでって、どこまで?」
「う、そそれは……」
まさか、はめられたとか?
「ちゃんと言わないと〜、あることない事報告しちゃうわよ?」
「そ、それは一種の脅迫じゃないか?」
「ううん、そんな事は無いわよ? ただ、親友として知っておかないといけないことだもんね。いろいろと」
「うぅ…………」
「さぁほらほら〜、こういうことは来年に持ち越すものじゃないでしょ? 今のうちに言っておいた方が楽になるわよ〜」
ちらりとひかりを見れば、俺と同じく困惑な様子。
お互いどうしようかと悩んでる。
ひかりも俺が見てるのに気がついたらしく、視線を俺に向けた。
すると、ウィンクするかのように片目を瞑った。
え、あの……まさか?
「お、俺に任せる……と?」
「え、なに?」
「あーいや、こっちの話だ……うん」
どうする……言うか言わないか……。
さやかは急かすような視線で俺を見てるし、ひかりもじっと俺を見てる。
……えぇい、ままよ!!
「一緒に……寝てるくらいは、してるよ……」
「わぁおっ。流石ね〜」
「言っとくけど、それ以上ってのはないからな!」
「誰もそんな事言ってないじゃない。それとも、実はってやつなの?」
「ないないないない! 絶対無い」
「そ、そんな強く否定しなくても……」
さやかに遊ばれて、ひかりには頬を膨らまされて、なんか……ふと、前に戻ったみたいな気がした。
ついこの間までにぎやかに過ごしてたあの時を……。
俺にとって本当に楽しかった時間だった。
でも、今はもどりたくはない。
だって俺にはひかりがいるから。
しかし彼女だけいればいいってワケじゃない。
俺の隣に一番大切な人がいて、そして尚哉やさやかがいて……。
この空間が、ずっとずっと、続いていって欲しいと願ってる。
カラカラカラ……
「はぁー……」
少しだけ酔いが回ったみたいだからベランダに出た。
そういえば、お酒飲むのは久しぶりだったかも。
尚哉なんかさっきから酔い潰れて寝ちゃってるし、同じくさやかもひかりも寄り添うようにして眠っていた。
飲むより問い詰められる事の方が多かった俺だけがこうして外にいるわけで。
……未成年だからお酒は駄目だろ、なんて意見は却下の方向で……
ぶるっと体が一瞬震える。
今日で終わりとはいえ、やっぱ12月の夜は寒いや…。
でもそれが心地いい。
冷たい空気が、スゥーっと体に溶けていった。
「今年も今日で終わり、かぁ……」
カラカラ……
「ん?」
ドアが開く音がしたので振り返ってみれば、そこには一人の女の子がいた。
「ひかり……」
「こんばんは〜」
「目、覚めたのか?」
「うん。なんか急にヒヤッとしたから起きちゃった」
「あぁ、それ俺がここに出たからだ。悪いな」
「ううん。そんな事ないよ〜。起きなかったら、こうしてはじめと二人っきりにはなれなかったから」
そう言ってひかりが寄り添うと、腕を絡めてキュッと抱きついた。
服越しに感じたひかりの温もりが何とも気持ちいい。
「なんか、あれだな」
「ん?」
「やっと二人になれたって感じ?」
「ふふっそうだね。二人っきりだ〜」
「久しぶりにみんなで騒いだもんだから、余計に新鮮に感じるな」
「うん……」
「今年も、もうすぐ終わりだな……」
「そうだね」
「俺、今年の事は絶対忘れないよ。俺にとって、何よりも大切な一年だった」
「はじめ…」
「来年も、よろしくな」
そう言いながらひかりを見つめて、そしてひかりも俺を見つめて笑顔で頷いた。
自然と距離が縮まって、どちらからともなく目を閉じる。
そして、二人の唇が重なった瞬間に―――
いつもと変わらないけど、何かが変わった気がするこの瞬間。
また新しい年が、今、時を刻み始めた。
「………………」
そっと唇を離して、もう一度見つめ合う。
「年越しキス、だったね」
「あぁ、そうだな…」
「今度は、あけましておめでとうのキス……する?」
「………………」
「……んっ……」
返事の変わりにキスでかえす。
年越し年明けをキスで向かえる……なんかいいな。こういうのも。
今年も、ずっとひかりといられますように……
そうキスをしながら願いを込めた。
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