日常は突然に消え去る 一

「千堂君、ちょっと話があるのだが……」
すべてはここから始まった――――――


「はいっはじめ。お夕飯だよ〜」
「待ってましたとも! 早速食べよう」
「うん。いっただきま〜す♪」
「頂きます」

ぱくり、と一口。
ん〜やっぱりひかりが作ったのはうまいなぁ。
ここの所毎日食べられるから嬉しいのなんのって。
それも、あのクリスマスイブの日があったから、かな。

「どう、美味しい?」
「うん。毎日同じコト言ってる気がするけど、グーだ!」
「えへへっやったね」

隣のひかりが満面の笑みを見せる。
ついこの間までは反対側にいたひかりも、今では隣にいる。
些細な事かもしれないけど、俺とひかりにとってはとても大切な事……。
もう離れない、と言う意思表示もあるかもしれない。
十一年間の空白を埋めるかのような。

「今日もはじめの部屋に泊まっていこうかな?」
「最近はそればっかりで自分の部屋に帰ってないな」
「うん。ここが私の第二のお家だよ」
「隣の自分の部屋は……?」
「三番目〜♪」

もう、ひかりが悲しい顔をしなくなった。
いつもニコニコ明るい笑顔。
それがひかりだから。
そして俺もそれを望んでいるから。

「また一緒に寝ようね〜」
「おぅっ」
「お風呂も一緒に入りたいんだけどな〜?」
「それは流石に勘弁して欲しい……」
「ダメ〜?」
「また今度、な……」
「ぶぅ〜っ」

…まぁこんな事もあるけれど、俺達は今幸せな毎日を送ってる。
こんな感じに、明日も、また次の日も流れていくんだろう。

「じゃあ今はキスで我慢しよぅっと」
「おいおぃ、今まだご飯食べてるのに…」
「だってしたくなっちゃったんだもん〜」
「しょうがないなぁ」

こっちを向いて目を瞑るひかりの頬に手を添えて、そっと口付け。
そっと触れるくらいの軽いキスだけど、今はそれで十分。
ひかりだって満足してるみたいだし。
ほんのり染まるひかりの頬がなんとも可愛らしかった。


「それじゃ、電気消すぞ」
「うん」

消灯時間。
パチンとスイッチを切ってベットにもぐりこむ。
お隣にはもちろんひかりがいる。
寒くても、二人で寝れば布団の中も暖かい……なんてな。

「今日もお疲れ様でした」
「うん。はじめもね」
「俺は何もしてないぞ」
「ううん。そんなことないよ。側にいてくれたから……私にとってはすっごく大切な事」
「ひかり……」
「これからも、側に……いてね?」

じっと見つめるひかりをそっと抱きしめると、耳元で囁いた。

「もちろん」
「はじめ……」

この日はお互い抱きしめ合ったまま眠った。
さて、明日は何をしようかなー。


「……ぅむ………ん…」

なんか眩しい。
もう、朝かな……。
そっと目を開けると、そこにひかりが……いない。
あれれと周りを見回そうとしたときに聞こえてくるリズミカルなまな板を叩く音。
そこには、もう着替えて朝ごはんを作っているらしいひかりがいた。

「……ぉはよう……」
「あっはじめ、おはよ〜。今日もいい天気だよ♪」
「んー……そうみたいだな」

欠伸をしながら言葉を返すのが、ちょっと情けない気もするけど。
寝起きなんだから仕方がない。
脳みそに酸素送らねばっと。

「もうすぐ朝ごはんできるから、着替えて待っててね」
「お〜ぅ」

そして今日も、ひかりの作ってくれる朝ごはんで一日が始まる。
前も結構多かったけど、その時とはまた意味が違ってくるからね。
今はもう何ていうか、幸せも一緒に噛みしめてるって言うのかねぇ。
あぁもう、朝から俺は何を恥ずかしくなるような事を……。

「ん、どうしたのはじめ。顔が赤いよ?」
「ん、いやぁちょっと」
「熱でもあるの?」
「いや、そうじゃなくてね……」
「ん〜っと」
「お、おいひかり…?」

お箸をおいたひかりが、まるでキスをするかのような勢いで近づいたかと思うと俺の額と自分の額をそっとあわせた。

「………………」
「んー……」
「………………」
「熱、ないよ……って、あれ? はじめ?」

気がつくと、俺はひかりをギュッと抱きしめていた。
ひかりの鼓動が、俺の服を通してトクン、トクンと伝わってくる。

「ど、どうしたのはじめ……?」
「なんかこう、無性に抱きしめたくなっちゃって」
「急にだからビックリしちゃったよ」
「…すまん」
「でも」
「ん?」

俺の目を見て、そしてニコッと笑った。

「やっぱり、嬉しい方が大きい、かな」
「ひかり……」
「ね、はじめ…」
「なんだ?」
「いま私が考えてる事、分かる?」
「ん〜、そうだなぁ……」

ピーンと来たけど、あえて分からないフリをしてみる。
すぐにひかりがふくれた。
分からないの〜? と言いたそうな目で俺を見る。
これも作戦のうちだ。
そして、しばらく考えるフリをしてひかりが油断した隙を狙って――

「んっ!?」

俺は不意打ちのキスをした。
本当はひかりが望んでた事だから不意打ちとは言い切れないけど……まぁ、奇襲という事でね。

「……ん……はぁ」
「は、はじめ〜。いきなりはズルイよ〜」
「その方が驚くと思って」
「うー……。嬉しい事は嬉しいんだけど、なんか最近のはじめ大胆になってる気がする」
「ん〜、そう?」
「前はこんなこんな事しなかったよ」
「あー、まぁそうかもしれないけど……」

ついこの間までの俺……確かになかったな。
いろいろあったし、そんな余裕とかもなかったか。
でも、よく考えたらひかりとこうして一緒にいるようになってから俺少し変わったかも?
ひかりの言うように、大胆……とか?
自分でもよく分からないけど、こうすればひかりが喜んでくれるんじゃないかって。
そんな風に思うようになったから――。

「ひかり」
「ん?」

今度は俺がひかりをしっかりと見つめて、今思ってることを言った。
俺の思いを……。

「俺はな、ひかりが喜んでくれる、笑っていてくれるんだったらどんな事でもする。そりゃ、ちょっと大胆になったかもしれないけど…… 俺は、ひかりの笑顔を見たいから」
「は、はじめ……」

ひかりの頬にパッと赤みが増した。
…たぶん俺も赤いと思う。

「でも、それがひかりに迷惑掛けるようならすぐに言ってくれ。もう絶対にしないから」
「そ、そんな事ない! メイワクなんて全然ないよっ。むしろ私だって、嬉しいよ……」

尻すぼみに言葉が小さくなっていく。
今の俺達、よく考えるとかなり恥ずかしい会話をしてるのかもしれない。

「………………」
「………………」

案の定会話が途切れ……

「ねぇ、はじめ」
「な、なんだ?」
「……も……」
「も?」
「もう一回だけその……キス、してくれる?」

これを言った時の、頬を紅く染めたひかりの表情は……なんと言うか、すぐにでも抱きしめたくなるような感じのものだった。

「一回といわず、何度でもしてあげるよ」
「はじめ……」

このあと、朝ごはんを食べるよりも長いんじゃないかってくらいに、ひかりと唇を重ね合わせた。
夢でもない、幻でもない、本当に目に前に広がるひかりと過ごす大切な時間。
もう、俺達が離れる事は無いんじゃないかって、本気で思えた。
少なくとも、今この瞬間は――


 

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