聖なる日・聖なる瞬間 四
そして、俺達のクリスマスイブが始まった――――
「……到着」
たどり着いたそこは、朝ひかりと会った公園。
他に誰もいないみたいでしんと静まり返ってる。
まさに貸しきり状態…。
どこからか犬の鳴き声が聞こえてくるくらいで、他の音は一切ない。
まるで俺達だけが存在してるような、そんな雰囲気だった。
「………………」
「………………」
お互い黙ってしまう。
気まずいとかそんなのじゃない。
ただ、何と言って切り出せばいいものか。
第一歩が踏み出せない。
何か一言言えば切り出せる。
何か……なにか……。
「あっあの……」『あ…あのさ……』
………………
ひかりも、同じような事を考えてたんだろうか。
言葉が被って出鼻が挫かれた。
最初の一手が失敗に終わって、また押し黙ってしまう。
でもそれは俺だけだった。
ひかりは片手をギュッと胸の前で強く握ると、顔を上げ俺の目をじっと見つけた。
「ね、ねぇ……はじめ。私、はじめに伝えたい事があるんだ…ずっとずっと、昔から――」
そこで一旦言葉が止まる。
もう一度ギュッと握ると、一呼吸置いて、そっと…
「好き、だよ。はじめの事」
一瞬だけ強い風がふいて、俺達の間を駆け抜けていく。
あっという間に風通り過ぎ、再び静かになる公園。
ひかりの言葉をもう一度ここその中で繰り返してみる。
ひかり……俺は……
「……ふぅ。俺ってダメなやつだよ、本当に」
「えっ?」
「女の子の方から言わせるなんて、ホントしょうがない。これじゃ男失格だよ」
「え?……え??」
ひかりは何のことなのか分からず困惑してる様子。
そりゃそうだ。
急にこんなことを言われれば俺だって戸惑う。
あぁ、何でもっと早くに言わなかったんだろう。
今になってそう後悔したくなるほど。
だから、これからもう後悔しないために。
俺はひかりに返事を返した。
「ありがとう。ひかり……これは俺の、返答だ――――」
「俺ってダメなやつだよ。本当に」
「えっ?」
「女の子の方から言わせるなんて、ホントしょうがない。これじゃ男失格だよ」
「え?……え??」
言ってる事が良く分からない。
一体、なにをいってるの…?
そして、『俺の、返答だ』と聞こえた瞬間――――
「んっ……?」
ふわりと抱きしめられる感覚と、唇が塞がれる感覚が同時に駆け抜けていった。
瞳を閉じたはじめの顔がすぐ目の前に……。
私……はじめに、キス…されてる?
って事は、これって……。
それが何を意味するのか分かった瞬間、急に心がギュッとなって目頭が熱くなり、瞳に涙が溜まってきて……やがて雫となり頬を伝っていった。
同時に自分の手でギュッとはじめを抱きしめた。
離れたくない……もう、離したくない!
しばらくして、唇を離しじっとはじめを見つめる。
……はじめ……
今まで心の中で溜め込んでいた想いが一気にこみ上がってきた。
涙とともに……私の想いが、一気に溢れ出た――――――
『スッ……ぅくっ……う、うわああぁぁぁぁぁぁぁ〜ん!!!!!!!』
「ひ、ひかり!?」
きつくはじめにしがみついて、顔を胸に押し付けて、涙で顔がくしゃくしゃになっても、もう私の想いは止まらなかった。
『好きだったよ! 私、小さい頃からはじめのことずっと……好きだったよ!! 私にとってはじめは初恋の人だったの。
なのに……なのに! 好きっていう前に、はじめはどこかに行っちゃったんだよ。私っとても寂しかったんだよ……さよならの挨拶も無くて、どこかに行っちゃうって事も知らなくて!
私、本当に寂しかったんだよぉ!! はじめの事、好きだったのに……自分の想いを伝えようと思ったのに。あのお祭りのとき、本当に言おうと思ったんだよ……好きだよって。でも、私たち迷子になっちゃって、それどころじゃなかった。
それでも、あのペンダントをはじめがくれたとき、本当に嬉しかった。はじめがあの時言った言葉覚えてる?『ひかりは俺がまもってあげるから』そう言ってくれたから、私は頑張れたんだよ。
本当は、心細くて泣きそうだったのに。はじめのあの言葉が、私を勇気付けてくれた。寂しさを吹き飛ばしてくれたんだよ。だから、その勇気ではじめに告白しようと思ったのに……なのにはじめは、私の前から……。急に一人取り残された私の気持ちがわかる!?
伝えようと思った言葉も言えないまま心に残ってしまった想いを、伝えられない気持ちを。私は、自分をキライになったよ。何て意気地が無いんだろう…どうしてあと少しの勇気が持てなかったんだろう…どうして、言おうとした事を言わなかったんだろうって。
もしかしたら、はじめは私の事キライなんじゃないかって思ったりもした。だから、相手にしたくないから、何も言わずにいなくなったのかと思った……。でも、きっとそうじゃない。それは違うって必死に思いながら。また、はじめに逢えるって信じながら、願いながら……過ごしてきたんだよ。
そうしたら、ようやく願いがかなったんだよ。初めて教室に入ったあの日、クラスの人の中ではじめを見つけた。うそっ……って思ったけど、やっぱりはじめだった。嬉しかった……思わず抱きしめたくらい嬉しかった。
私の願いがようやく神様に届いたと思った。その日から今までずっとはじめにアピールしてきたのに、はじめはそれに答えてくれなかった。夏休み前に二人で出かけたあの時、私ははじめに聞いたよね?『私の事、好き?』って。あれは、私の精一杯の勇気だったの。
そして、一種の賭けだったんだよ。もしここで拒絶されたら……キライって言われたら……そう考えたら怖くなった。だから、はじめに理由を聞かれたときにとっさに別のことを言ったの。あの時ほど自分が意気地なしだと思ったことは無いよ。
ずっと言おうと思っていたことなのに、気がついたら言う事が怖くなってた。もし断られたら、今までの自分は何だったんだろうって……気がついたら、私は守ってたんだよ。私の事を、私の心を……だって、キライって言われたら、私、ここにいることが出来なくなっちゃうんだもの。
想いは積み重ねるといいって言うけど、積み重ねすぎは返ってマイナスになるんだよ? だから……怖くなっちゃうから、帰りの電車から家までの間、本当は寝てなかったんだよ。聞こえたでしょ?『ペンダント、ありがとう』って言葉。あれは、寝言じゃなく、私の心からの感謝の言葉だった。
毎日毎日、私の心の中ではじめの存在が大きくなっていく。十一年間も溜めてるから、もう溢れちゃうよ。伝えたかった言葉…伝えたかった想い。もう、私の想いは限界だったんだから……はじめの事が好きって言う事でいっぱいだったんだから!
十一年間の想いで、いっぱいだったんだからぁぁぁ〜ッ!!』
…知らなかった。
いや、知りもしなかった。
普段あんなに元気で明るかったひかりが、心の中では苦しんでいた事に。
そして、そんな事知らずに俺は……自分の勝手でひかりの事傷つけて……
俺は……最低じゃないか。
何が幼馴染だ……何がひかりのことを考えて、だ……。
何も……考えれてなかったじゃないか……。
気が付けば涙が両頬を伝っていく。
いま、俺に何かを言う資格はない。
俺は、ひかりの言葉を全て受け止めなければいけないのだから。
ひかりの十一年分の言葉・想い、その全部を…。
「ぐすっ……ぇぐっ……すん…………」
「ひかり……」
それからしばらくして、俺はひかりに話しかけた。
「ごめん……ごめんな。黙って引っ越しちゃってから今日まで……全部俺が悪いんだ。俺がもう少しハッキリしてれば……でも、これだけは分かってほしい。俺もひかりの事が好きだよ。ひかりと同じく、小さい頃からずっと……引っ越してからだってひかりの事忘れたことは無かった。
そして、また逢えたらちゃんと自分の気持ちを伝えようって。…それからずいぶん遅くなっちゃったけど、遠回りになっちゃったけど、俺の気持ちは昔から変わっていないよ」
「うん……うん……」
「ひかり……ありがとう。好きだよ……」
もう離さないと言う意思表示のように、俺はきつく抱きしめると、そっとキスをした。
〜 3.聖なる日・聖なる瞬間 〜
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