聖なる日・聖なる瞬間 二

久しぶり。
そう、久しぶりだ。
こんなに穏やかな時が流れたのは。
つい最近まで、忘れてたこの時間…。


「ひかり」
「うん、なぁに?」
「なにしたい? 実は誘っておいて何もないってのが現状で……すまない」
「ううん。しょうがないよ。予定が変わっちゃったんだもん。でもね、私は今こうしてはじめと一緒にいるときの方が良かったかなって思ってるんだ。さやかには悪いんだけどね…えへへ」
「そ、そうか?」
「うんっ」

にっこりとした笑み。
ひかりの嘘偽りない証拠。
俺の緊張していた心を溶かしてくれる、彼女の笑顔。
ふぅっと一つ呼吸をして、気持ちを切り替えた。

「よしっじゃあ映画でも行くか。映画」
「えいが?」
「おう。デートの定番と言えば映画っしょ」
「で、デート……」

ひかりの頬がポッと赤くなった。

「ひかり〜、顔赤くなってるぞ」
「だ、だって……はじめが、急にそんな事言うんだもん。はじめは恥ずかしくないの?」
「そりゃあまぁ恥ずかしいけど…。でも、気にしない。今日はそうするって決めた」
「そうなの?」
「うん。そうだ。じゃあ映画館行こうか」
「う、うん」

目的地も決まったところで早速映画館へ。
映画なんて最近見てないからなぁ。
言ってみたはいいものの、何を見ようなんてのは決めてなかった。
これで二人とも興味あるのがなかったらどうしよう…?
今更心配になってきた。
映画館前について、でかでかと貼られてるポスターを見上げてみると、それはまぁ結構な種類が。
子供向けのアニメ映画とか、クリスマスモノの映画とか。アクションとかホラーとか、コメディとかロマンスなどなど。
さて、何を見よう?

「何か見たいものってある?」
「私? う〜ん、怖いのとかはイヤだなぁ。アニメもちょっと知らないやつだし……あれはどうかな?」

ひかりが指差したのは、最近公開されたばかりの映画だった。
一週間だけ神の力が使えたら……と言うもの。
テレビで何度か予告見たことあるし、俺も少し興味がある。

「いいな。俺もテレビで見て気になってたんだよ」
「じゃああれ見よう」
「おっけー」

こうして映画館へと入っていった。
館内は猛烈って程じゃないけど、人で賑わってる。
俺達が見ようとしてる映画も席が殆ど埋まってて、運良く真ん中辺りの席二つを確保できた。
映画は前だと首が痛くなるからな。真ん中がちょうどいいんだ。

「ひかり、ちょっと荷物見ててくれるか? 飲み物とか買ってくる」
「あ、うん」
「何か飲みたいものある?」
「飲みたいものは、えぇっと……それじゃあ、はじめにお任せって事で」
「お任せか…。変なの買ってきても文句はナシだぞ?」
「大丈夫だよ。はじめはそんな事しないもん」

何と言うか、ひかりは俺のことを完全に信頼しきってる。
それを裏切るつもりは毛頭ないけど、もう少し人を疑うって言うのも大事かも?
あ……いや、そんな事はないな。
自惚れかもしれないけど、俺だけだ。
いや、俺だから信頼してるの…かも。
さやかや尚哉に見せない部分ってあるからな。
それを見れるってのは嬉しい。うん。

「まぁそうだな。それじゃ暖かいのと冷たいのは?」
「それじゃあ…冷たいので」
「りょうかい。じゃあちょっと行ってくる」
「うん。行ってらっしゃい〜」

売店で飲み物とお菓子をちょこっと買ってから席へと戻る。
座った瞬間に始まりのブザーが鳴って、照明が落ちていった。
ざわざわしてたのが一気にし〜んとなる。
さぁ、始まりだ。

「………………」

この話は、平凡普通な主人公がある日突然やってきた神と名乗る人物から力を授かる事から始まる。
頭で願った事が具現化したり、思ったことを実行に移したり、一般では超能力とされているものをやってみたりと。
当初は何でも出来ると喜んでいた主人公。でも、その力でも唯の一つだけ出来ない事があった。
それは、人間の心を操る事。
主人公が密かに想いを馳せていた相手を、何度振り向かせようとしてもダメ。
いつしか、力だけに頼っていた主人公が間違いに気づき、自分の力で振り向かせようとする……

「………………」

ひかりが気になってちらりと見てみると、集中してるみたいで俺が見てることには気づいてない。
飲み物を置く場所にあるジュースも、手をつけてないようで全然減ってなかった。

「(邪魔しちゃ悪いな…)」

俺も再びスクリーンへと視線を戻した。


エンドの文字が降りてきて、徐々に室内が明るくなってきた。
二時間なんてあっという間……あれから集中してみてしまったから特にそう感じた。
うん。面白かった。
クライマックス辺りなんか、言葉で表すのが勿体無いくらい。
まさに自分の目で確かめろって感じに。
涙を誘うものじゃないけど、無事ハッピーエンドを迎えて心もいい気持ちだ。

「ん〜……はぁ、面白かったね。はじめ」
「そうだな。気が付いたらのめり込んでたよ」
「体が縮こんじゃったよ〜」

そう言ってふたたび、う〜ん、と伸びをするひかり。

「あ、これ飲むの忘れちゃってた……うぅ、氷が溶けてて味が薄いよぅ…」
「そんな無理して飲まなくていいよ。飲み物だったらまた買ってあげるからさ」
「ごめんね」
「気にするなって。映画を楽しんでもらっただけで十分十分。これでつまんない何て言われたら凹むけど……」
「ううん。とっても面白かったよ」
「だろ? だから俺は満足。な?」
「うんっ」
「さてと。もうお昼過ぎてるけどどうするか? ひかりはお腹空いてる?」
「ん〜、空いてるには空いてるよ」
「場所は外歩きながら考える?」
「そうだね。私体がすっかり硬くなっちゃったから少し歩きたいな〜」
「っし、それじゃ行くか」
「は〜い」

映画館の外に出ると、さっきまで忘れてた外の寒さにぶるっと震えた。
冬の空っぽい少し暗めの雲が更に寒さを増やしてるような気がする。
思わず両手をポケットに突っ込んでしまう。

「おぉっ寒っ……これは早いところ屋内へ入った方がいいなぁ」
「うん……でも、私は少し平気、かな」
「え?」
「こうしてれば、暖かいもん」

ぎゅっ。
ひかりが俺の右腕に自分の腕を絡めてぴったりと寄ってきた。
こ、これなら確かに俺も暖かくていいけど……

「ひ、ひかり……?」
「あれ? 今度ははじめが真っ赤になっちゃったよ〜。さっきは大丈夫だったのにね」
「あ、あれとこれとは根本的に違うだろ?」
「でも、デートだよ♪」
「うっ…」
「じゃあ、れっつご〜」

どうやら今度は俺のほうが緊張しちゃったみたいで…。
勢いが完全に入れ替わっていた。
歩きながらちらちら周りを見ていれば、俺達と同じような事してるのを幾度か見かけた。
みんな緊張どころか楽しそうに歩いている。
ひょっとして、俺だけ…?


 

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