Marine☆Dream
〜ひかりちゃんと行こう!〜
「えっ、遊園地のチケット?」
休み時間。
めんどくさい授業から開放されて、ん〜っと伸びをしていると、ひかりに廊下に呼び出された。
何かと思って行ってみると、今度は手を引かれて何処かへと連れて行かれる……
一体何なんだ?俺をどこへ運ぶんだ?
などと考えているうちに、いつの間にか相談事がある時はいつも来る場所――学校の最上階、つまり屋上にきていた。
何故かうちの学校の生徒は屋上に来たがらない。
だから俺たちは事あるごとに利用している。
絶対とは言えないけど、誰も来るはずないんだし。
そして、そこでひかりに見せられたのが遊園地のチケットと言うわけ。
「うん。2枚あるんだけど、一緒にどうかなって」
「あぁ、俺は構わないけど」
「ホント?本当にいいの?」
「嘘は言わないって」
「ありがとう、はじめ♪」
心の底から嬉しそうに笑うひかり。
それを見ていると、何だかこっちも嬉しくなってくる。
不思議な魅力っていうのかなぁ?何てね。
「それじゃあ、何曜日に行こっか?学校がおやすみな土曜日と日曜日、空いてる日はある?」
「土日はいつだって暇だなぁ。それはひかりだって知ってるだろ?いつも来てんだから」
「あっ、そうだったね〜。えへへ」
ふ〜む、それじゃあどっちがいいかなぁ……
「はじめ、それなら土曜日のほうが良いんじゃないかな?もし疲れても、日曜日にゆっくりできるよ」
そう、だな。
よし、土曜日に行くとするか!
「わかった。んじゃ、土曜に決定っと」
「うん!」
予定が決まったその時、ちょうど休み時間終了のチャイムが鳴った――
〜土曜日〜
ピピピピピピピピピピピピピピ――
起床を告げる音が鳴り響いてる。
手探りでそいつを止めて、しばらくそのままじっとしたあといそいそと起き上がった。
「ん〜……!!」
カーテンの隙間から漏れる起きたての目には眩しい光。
シャッとカーテンを開けると、一気に部屋になだれ込んできた。
今日もよく晴れている。
出かけるには絶好の日和だな。
壁にかかっているカレンダーには、今日の日付のところに赤い色で『遊園地にGOッ♪』と丸文字で書かれてる。
これは、ひかりが昨日書いていったものだ。
約束の時間と場所は8:00に駅前。
でも、ここはやっぱり早めに居ないといけない――と尚哉が言っていた。
と言うか、今になって思えばあいつ何で俺たちが出掛けること知ってるんだ?
まさか盗み聞き……なんてことはないか。
さてと、遅れちゃまずいから出かける用意でもしますかぁ!
〜AM7:55 駅前〜
もうすぐ約束の8時。
休みの日でも駅前はこの時間でも結構の人が歩いてる。
う〜む、ひかり見つけられるかなぁ?
ちょっと心配になってきたぞ……
「やっほ〜」
「……え?」
えらく髪の毛の長い、ちょっと大人びた感じのする女の人に声を掛けられた。
誰……この人?俺のこと知ってるみたいだけど、会ったことあったっけなぁ?
「……むぅっ、ヒドイよ〜。はじめ」
え?この喋り方って……まさか。
「ひかり?」
「そうだよ〜」
ちょっと悲しそうな感じで声が返ってきた。
うわ〜、いつもと全然印象違うよこれ。
髪の毛普通に下ろしてて、ワンポイントで髪の毛の一部を結んでる水色のリボン。
これじゃあパッと見ただけじゃ分からないかもなぁ。
「いやぁゴメンゴメン。ポニーテールかと思ってたから気がつかなかった」
気がつかなかったと言うより……まるで別人?
「ん〜、私が髪型かえるとみんな決まってそう言うんだよね。そんなに違うのかなぁ?」
完膚なきまでに違います。えぇ。
…でも、ひかりはこの髪型でもいいな。
何より、ひかりのポニーテール以外の髪型を見るというのは新鮮だ。
「ははは。でも、ちゃんと似合ってるから大丈夫!」
「ホント?よかったぁ」
ニッコリと微笑んだときに、同時に後ろのリボンがふわっと揺れた。
「よしっ、じゃあ行こうか」
「うんっ」
ここから目的地の遊園地までは、電車とバスを使って約1時間の所にある。
車内は子供連れの家族が何組も見うけられた。
この人たちも、やっぱり行くところは一緒かな?
「ねぇ、はじめ」
「ん?なんだ」
「お昼は、私がお弁当作ってきたから、一緒に食べようね」
手に持っている少し大きめのバックを揺らしながら言った。
ひかりが作るご飯は、少なくともそこら辺にある食べ物屋よりずっと美味しいから、俺としては大歓迎なお言葉だ。
あ〜、昼が待ち遠しい……
「それにしてもひかり、遊園地のチケットなんて何処で手に入れたんだ?」
「あっそれはね。この間久しぶりに家に遊びに行ったときにお父さんがくれたの」
2枚しかないけど楽しんでおいでって、と付け加えるひかり。
そう言えば、この前『今日は遊びにいけないんだよ〜』と言っていたけど、あのときに貰ったのかな?
ひかりも、久しぶりに家族と会って嬉しかっただろうし。
ガタゴトと揺れる電車の中で笑いながら話していると、降りる駅が近づいてきた。
ゆっくりと減速を始めた電車が、スルスルと駅に滑り込んでいく。
「…うわっ、降りる人多いなぁ」
やっぱり休日……俺たちと同じことを考えてる人は多いみたいだ。
向かう方向がみな一緒だ。
「ひかり、はぐれるなよ」
「えっ?」
ひかりの反応を聞く前に、俺は彼女の左手をギュッと掴んだ。
ちょっとびっくりしているひかりだったが、すぐに笑顔になると手を握り返してきた。
「はじめも、手を離さないでね?」
「もちろん。ひかりが迷子になったら困るからね」
「私そんなに子供じゃないよ!」
ぷく〜っと頬を膨らませるひかりの頭をそっと撫でて、バス停へと歩いていった。
最初に来たやつに乗ろうと思ったけど、ちょうど俺たちの前の人のところで定員一杯になってしまった。
仕方なく、次が来るまで待つ。
「やっぱり、おやすみの日だから人がいっぱいいるね」
「まったくだ。どこか他の所へ行こうという案を出せないのかねぇ」
「私たちも、同じだよ」
「………そうだった」
自分の事忘れてたよ……ははは。
やがて、次のバスがきたのでそれに乗り込む。
当然、俺たちが先頭なので真っ先に座る事が出来た。
このまま立たされっ放しじゃ、着く前に人ごみに押されて疲れるし。
先ほど同様、人をいっぱいに乗せたバスが、重そうに動き出した。
「着いた〜!!」
遊園地の入場門をくぐって、すぅっと息を吸い込むと両手を上に突き上げてそう叫んだ。
バスの中の重苦しい空気から開放された事が嬉しくてたまらない。
そんな俺を見て、ひかりも笑っていた。
「そんなに叫ばなくても」
「さぁひかり、まずは何処に行こうか?」
「う〜ん、そうだなぁ……」
――そして、最初に決まった物は…
「やっぱり、ジェットコースターに乗らないとね♪」
俺たちは、ジェットコースターに乗るための列に並んでいる。
まだ開園したばかりだけあって、待ち時間が少ない。
これが1時間でも遅れれば、その倍は待たされるだろう。
「ここのは凄いんだよ。最高時速が140qなんだって!」
パンフレットを見ながらひかりが驚いている。
140qか……まるで野球のボールになったみたいだな。
「それに、降下角度が最大70度!ほとんど垂直だよ〜」
「うわ……そりゃ凄い事。俺生きてるかな?」
苦手……と言うわけじゃないけど、好きでもない。
まぁ、普通って事。
「私、楽しみでしょうがないよ〜♪」
「ひかりは、絶叫マシン系は好きなのか?」
「うんっ、ジェットコースターは大好きだよ。あ、でもお化け屋敷とかは好きじゃないけど……」
そう言うと、ひかりは鞄の中から何かを取り出した。
「ん?何に使うんだ」
「髪の毛を結ぶの。こうしないと、暴れちゃうんだよね」
なるほど。長い髪の毛を束ねるわけか。
談笑しながら並んでいると、遂に順番が回ってきた。
今、俺の目の前にはいかにも鋭そうな感じのする先頭部分が――って、先頭?
「はじめ〜、私たち先頭だよ♪やったぁ!」
「ま、マジですか………」
喜ぶひかりと、唖然とする俺。
う〜ん、対称的。
座席に座り込んで、安全ベルトを下げる。
これでもう逃げる事は出来なくなったわけだ。
…逃げないけどさ。
「楽しみだねっ」
「ま、前だけは勘弁してほしかった」
「一番前、嫌いなの?」
「嫌いと言うか、前に何もないと余計に恐怖心が……」
「大丈夫だよ」
…安心して、私がいるから…
「…えっ?」
耳元で、ひかりが何かを呟いた。
でも、その寸前にマシンが動き出したので聞き取れなかった。
もう1回と言おうとしても、ガタガタと坂を登り始める状態なのでそれどころではない。
あ〜、みるみる地上が遠くなっていくよ〜……
天に向かって突き進んでるって感じだ。
やっぱり空は青かった……なんて。
そして、視界が水平になったその時――
ギュッ…
「え?」
落下する一瞬、右手を捕まれるような感触、そして……
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜!!!!!!」
逆Gが身体全体にかかり、頬が引きつっていくのを覚えながら、俺は地上へと吸い込まれていった……
「大丈夫?はじめ…」
「な、何とか………」
ジェットコースターから降りた後の2人の様子は、はたから見ても違うと分かるだろう。
面白かった〜、と満面の笑みを浮かべるひかりと、げっそりとしている俺。
こ、これはあまりに過激だった……
「急降下爆撃の気持ちが…分かった気がする……」
「きゅうこうか?何の事?」
頭に?マークを浮かべているひかり。
「…俺もよく分からない。ふと頭に浮かんできた」
混乱しててうまく処理ができない……
「そこのベンチで休む?」
ひかりの提案に素直に頷く。
……うぇっぷ。
ベンチに腰掛け、空を仰ぐ。
気のせいか、まだグルグル回ってる。
こんなに弱かったっけなぁ……?
目を瞑っても、回転感が間隔として続いてる。
こりゃ重症だ。
久しく乗ってないからだろう。
「はじめ、大丈夫?何か飲む?」
「あ〜……そうだな。すまない、ひかり」
そこらで買ってくるかと思ったら、鞄から水筒を取り出した。
適量カップに入れて、渡してくれる。
それを一気に飲み干す。
キーンと冷たく冷えた麦茶が、体全体を包み込んでいった。
「効く〜」
……我ながら、年よりくさいようなセリフを。
でも、冷たさが体全体に一気に伝わっていくとこう言ってもおかしくはないだろうなぁ。
「―――うん。少し楽になった」
「本当に大丈夫?」
「おうっ、じゃあ次は何処に行こうか?」
それから、なるべく過激なアトラクションは避けて次々とノルマを消化していった。
避けた、とは言っても途中でひかり曰くそれほど激しくないコースター系を乗ったけど。
例えば、ひねり込みが何度にもわたって続いたやつとか、宙返りが3連続くらい一気にあったのとか、モノレールみたいに上からつるされるたタイプの高速マシーンなどなど……
よく考えたら、こっちの方がよっぽど激しいんじゃないか?
う〜ん、恐るべきひかりの説得力。
「あ〜、もうお昼の時間だね。はじめ」
「ん?どれ……ホントだ。早い時期にいろんな物に乗れたからあっという間だったな」
「そうだね。私はもう満足だよ〜♪」
幸せそうな笑みを浮かべるひかり。
「はじめっ、ご飯食べようよ。ねっ?」
「ははっ、本当に嬉しそうだな。う〜んと、じゃあそこの椅子とかがある所で食べるか」
「うん!」
ひかりの作ってきた弁当は、いつも学校に持ってくるようなものではなく、種類を多くして1つあたりの大きさを小さくしてある。
これなら、お皿を使わなくても手にとって食べきれるサイズだ。
こう言った配慮はとてもありがたい。
さすがひかりだ!
かゆいところに手が届くと言うか、何と言うか……とにかくいいんだよ!
「さすがはひかりだ。うまいうまい」
「あ〜、それって『上手い』と『美味い』って言いたいんでしょ?」
「ははは、バレたか。うんっ、その通り。よく判ったな〜」
「だって、前にも学校で言ってたよ〜」
「む、そうか……」
―――なんて事を話しながら昼ご飯を食べ終えて、午後の部へ。
前半に混みそうなものから乗ったため、後半はゆったりとしたものが中心。
ボートに乗ったり、変なメガネをつけて見る映画みたいなのを見たりと。
勢いがなくなった、と思われるかもしれないけどこれはこれで楽しめる。
アトラクションを楽しむと言うよりも、それを通してひかりと話す、と言う楽しみかな?
……ジェットコースター乗りながら話せないし。
「はじめぇ〜、何だか目がチカチカするよ〜?」
「そりゃ3D酔いってやつじゃないのか?メガネ外してみ」
「うわぁ……今度は画面がぼやけてるよ〜」
「……それはメガネをはずした所為だ。このメガネが立体的に見えるようにしてるんだよ」
「そうなんだ〜。ちょっと慣れるまで時間がかかりそうだね」
その後、ひかりがお約束とも言うべき、手を前に出して接近してくるように見える物を捕まえようとしていた。
その姿がおかしくてつい笑ってしまい、ぶぅ〜っと頬を膨らますひかり。
いや、悪かったから気を害さないでくれって。
「いいもん。どうせ私はお約束ですよ〜だ」
「そんな膨れないでくれよ。すまん、本当に悪かったって。な、ひかり」
両手を合わせて、何度か謝ったら何とか許してくれた。
でも、そのとき笑っていたって事は実は遊んでいた?
ま、まぁ……いいか。ははは。
「ねぇ、はじめ……」
「ん?」
空の色が、少しずつ変わりはじめて今では綺麗なオレンジ色に染まっていた。
何となく、それと共にひかりがそわそわしてるような気がしてならないんだけど。
「最後に、さ。あれ…乗ろうよ」
そう言ってひかりが指差したのは観覧車。
あれですな。遊園地の風物詩。
恋人達の最後を飾る場所……
「おう……」
どうしてか知らないけど、心臓がドキドキ。
先ほどから無意識に繋いでいた手に、今更ながら恥かしさが。
おいおいおい…俺までどうしちゃったんだよ。
ただ、観覧車に乗るだけじゃないか。
ただ……
ごゆっくり、と言う係員の声と共にドアが閉まった。
ゆっくりと、本当にゆっくりと上昇していく観覧車。
本当なら、ここで沈みつつある陽をちょっぴりしんみりムードで見ているものなんだろうが、それどころじゃない。
狭い室内の中、ひかりと対面で座っている。
少し手を伸ばそうものならすぐに触れそうだ。
そのことを考えただけで………
「ね、ねぇ…はじめ」
「な…なんだ」
「夕陽……キレイだね」
「そ、そう…だな」
もちろん、まともに夕陽なんて拝んでません。
お互い、両手をギュッと閉じたまま膝の上に乗せて、下を向いていた。
時々、様子を見ようとして顔を上げると、ひかりも顔を上げていて目が合ってしまう。
そして、思わず両方ともあたふたと目を離す……
一体何やってんだ俺たちは。
観覧車も、いつの間にか折り返し地点に到達しようとしている。
このまま……何にもしないで終っちまうのか?
「はじめ……」
と、ひかりが何かを言おうとした時だった。
グラグラ……ガクンッ
「えっうわっ!?」
俺に話し掛けようとして姿勢を若干前に倒していたひかりが、突然観覧車が揺れた事によりバランスを崩した。
この場合、もちろん倒れるのは前であり、そこには俺が。
「っと……だ、大丈夫か?」
「う、うん……平気……!」
この時、何も考えてなかった。
ひかりが、顔を上げるまでは……
「あっ……」
「は、はじ……め…」
後少し動こうなら触れてしまうくらい、極めて至近距離にひかりの顔…いや、目があった。
もう10cm離れてるかも危うい。
完全に、お互い見つめ合う感じになっていた。
「っ…………」
みるみるひかりの顔が赤く染まっていくのが見える。
普段こう言うことがあったら、きっと真っ先に離れてただろう。
でも、今回は―――
「ひかり………」
俺の左手がひかりの頬に触れた。
もう何が何だか分からない。
「はじめ………」
ひかりの大きな瞳がゆっくりと閉じた。
どちらからって訳じゃなく、2人の顔が近づいていく。
まるでそうする事が当たり前のように、俺の目も閉ざされた。
すぐ後、唇に今まで感じたことの無いほどの柔らかさが………
一体どれくらいしていたんだろう。
一瞬だったかもしれないし、かなり長い時間だったかもしれない。
そっと顔を離すと、何だかとても恥かしくて目を合わせられなかった。
「……………」
「……………」
ちらっと横目で外を見てみると、何となくさっきと景色が同じような気がする。
と、言う事はさっきの揺れって、まさか……
「ねぇ……はじめぇ」
こちらを向いてないけど、小さな声で尋ねた。
心なしか、語尾が延びている。
「これは……事故、なんだよね」
「あ、あぁ……」
観覧車停止なんて何だかお約束な気がしてしょうがないんだけど。
「だったら、さ」
「ん?」
「これも……事故なんだよ。きっと」
ひかりの白い腕が俺の首筋に絡みつき、引き寄せる。
「……え?」
俺が、その事について考える事は無かった。
何故なら、その後ひかりに………
結局、復旧して下に降りるまで約2時間を要した。
それまでの間は、ずっと―――――
「今日は、楽しかったよ♪」
「あぁ、俺もだ」
「それじゃあ、お休みっはじめ」
パタン
ひかりの家のドアが閉まった。
俺も、隣の自分の家に入る。
「ふぅ〜…………」
電気もつけないで、そのままドサッとベットに倒れこんだ。
月明かりだけが部屋を照らしている。
「………………」
そっと、自分の唇に触れてみると……
そこはまだ、あの時の感触を忘れまいとしているかのように、しっとりとしていた。
ふぅ〜…。
風呂、入るかな。
そして夜は更けていった………
〜おしまいっ♪〜
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