・僕と彼女と・
〜だいじゅうよんわ〜
〜だいじゅうよんわ〜
それは、俺の知らない世界。
「やほー。せーちゃん」
教室を出たところで、意外な声を聞く。
なんとミリィさんがいるではないか。偶然通りかかったみたいではなく、その手にはしっかりと鞄が。
「あれ、どうしたんですか」
「んふふー。ちょぉっとねぇ」
「???」
「今日はお互いに仕事がないから一緒に帰ろうってね」
「あってもなくても一緒な気がしますが」
「それはそれー。これはこれー」
「は、はぁ」
放課後でも元気いっぱいなミリィさん。
さて、一体何があったのか。
ここで話しててもしょうがないので帰ることに。
昇降口で再合流して、多くの生徒でにぎわう校門を抜けて駅までの道を歩く。
いろいろ話してるわけだけど、やっぱり機嫌がいいのか良い事があったのか。
いつも以上にミリィさんは笑顔。
「ねね、せーちゃん」
「ん?」
「今日はさ、この後なんか用事でもあるのかにゃ?」
制服をくいくい引っ張りながら尋ねてくるその姿は、なんとも猫を連想させる。
これがまた妙に似合うものだから、俺の心にクリーンヒッt……いや、なんでもない。
「………………」
「あり? どしたの」
「いえ……なんでも。それで、俺に用があるかでしたっけ?」
「そそ。お暇かねぇ?」
「んー、夕飯の買い物くらいしかありませんから特に用事はないですね。親は相変わらず遅いみたいですから、ご飯は残り物でもいいでしょうし」
「そっかぁ。じゃあさ、ウチに遊びに来ないかね。って言うか、おいでなさい」
「ミリィさんの家にですか?」
「うん。誰もいないから一人でヒマなんだよー」
話によると、ミリィさんの両親は週末まで出張でいないらしい。
それで、一人で夕飯食べるのもアレだから一緒にどうかな、と言うことだ。
俺としても一人で食べるより二人で食べたほうがいいし、何よりミリィさんと一緒なら、ね。
だからもちろん二つ返事でOK。
と、言うわけで。本日はこれからミリィさんの家に行くことになりました。 ……そういや俺、家の前まではほぼ毎日行ってるけど家の中はまだ一回しか行ったことないや。
久しぶりに混まない電車に乗って……
久しぶりに夕日が沈まないうちに帰ってこれて。そして……
久しぶりに家の前より先に足を進めた。
ガチャ
「さささ、どうぞあがっちゃって下さいな」
おじゃましますと言って中に入る。
うーん、やっぱり人の家だと少し緊張するね。
ましてや……彼女とはいえ女の人の家に入るんだものな。
「あたしの部屋の場所覚えてるっけ?」
「あー、はい……一応は」
「それじゃ、入って待ってて。お茶持ってくるよ」
そう言うとミリィさんは俺一人残して居間へと入っていってしまった。
いや、いくら覚えてるからって……ね。
俺は仮にも男ですぜ? いや、だからって何かするわけじゃないけど……
信用されてるのか、それとも何も気にしてないのか。
ここで待ってても仕方がないので階段を上がって部屋へと向かうことにした。
階段を上がったすぐ左側。そこにミリィさんの部屋がある。
開けっ放しのドアからは、ちょうど夕日が当たってオレンジ色に光ってる部屋の中が見えた。
やっぱり小声で『おじゃまします…』と言って入る。
主のいない部屋はシーンと静まり返っていて、夕日と混じってなんだか物悲しさを覚えた。
壁に鞄を立てかけて床に座ろうかなって思ったときに、トントントンと階段を上る音。
すぐに小さめのペットボトル二本を持ったミリィさんがやってきた。
「はい、お茶」
「どうもです」
「急須で入れようかなって思ってお湯沸かそうとしたんだけど、肝心の茶葉がなかったから止めちゃった」
あははーとミリィさんが笑う。
まぁでも、ペットのお茶でも結構美味しいからね。
頂きますといって、くいっと一口含んだ。
「座らないの?」
「ん? あー、何処に座ろうかなぁと」
「ベットでいいんじゃない?」
ピッと指差すその先にあるのはもちろんベット。
いや……何といいますかその、ね。うん…。
「床じゃあ冷たいでしょ?」
「は、はぁ……」
「ほらぁ、おいでなさいって〜」
先にベットに腰掛けて、すぐ隣をポンポンとたたく。
ほんの少し躊躇した後に俺もそれに習って腰掛ける。
今日三度目の『おじゃまします…』という言葉と共に。
「ふぅ……なんかこうしてただお茶を飲むって言うのも、いいかもね」
「そ、そうですね」
「サンドイッチがあればもっと最高だったかも?」
「お昼に食べたじゃないですか……。そう言えばどうでした? 美味しかったですか」
「うん。そりゃあもう! 次もまたお願いしたいくらいだったよ」
「ミリィさんさえよければいつだっていいですよ」
「じゃあ毎日お願い〜」
「……毎日だと飽きてしまいますよ?」
「モーマンタイー。一年365日サンドイッチでも飽きない自信がありますっ。えっへん!」
どうだ、とばかりに胸を反らす。
その柔らかな二つの膨らみに目が行ってしまったのは言うまでもないだろう。
「ま、まぁ……作ってくる時は前もって言いますので……」
「うぃっ。よろしくお願いしちゃいまーす」
顔の辺りが少しだけ火照った感じがする。きっと紅くなってるに違いない。
だって……あの時の事、ちょっと思い出しちゃったから……はぁ。
「ねね、せーちゃん」
「な、なんですか?」
「疲れた?」
「え?」
「だって今ため息付いたみたいだし、それに朝だっていつも自転車に乗せてくれてるから。せーちゃん疲れてないかなって」
「疲れてない……と言えば嘘になりますが、別にこれくらいなら大丈夫ですよ。まだまだ動けます」
「そっか。さっすが男の子だね」
「男の子です。ハイ」
「でもねーせーちゃん」
人差し指でツンツンとほっぺをつついてくるミリィさん。
「たまには休息も必要だよー。と、言うわけで……ゴロン」
「なにしてるんですか?」
「ゴロ寝〜」
ペットのお茶をポーンと枕元に投げて、そのまま大の字に寝転がってしまった。
ブレザーが少しめくれて中のブラウスが見える。
シワになっちゃいますよ?
「せーちゃんも横になれば〜? お夕飯までまだ時間もあるし、ゆっくりしようよ」
「なんか少し悪いような気もしますが……いいんですか?」
「うん。一緒にゴロゴロしてよー」
「はぁ。じゃあ失礼して……」
どさって感じに倒れこむ。
重い、と言われたかのようにベットが軽くギシリときしんだ。
ミリィさんに習って大の字になる。あー確かにゆっくりだな。いや、のんびりの方が近いかもしれない。
そういや最近こんな時間に寝転がるなんてしてなかったからなぁ。ちょっと新鮮な感じ。
オレンジ色に染まる天井を見つめながらしばらくぼぉっとしてると、不意に左腕が重くなった。
見れば、ミリィさんが俺の腕に頭を乗せてるではないか。
これはなんと言うか、腕枕ってやつですかな?
「へへ〜。せーちゃん枕」
「硬いですよ?」
「んん〜。そんなことないよ。それにオプションも付いてるし」
「おぷしょん?」
「これには抱き枕の機能も付いてるのでありますー」
ギュッという感じに横から抱きつかれる。
すぐ首元にミリィさんの息遣いが……
ドクンと心臓が一つ大きく跳ねた。
「ね、付いてたでしょ?」
「は……はぁ」
俺は今それどころじゃありません。
だ、抱きつかれてるせいで……あぅ。
「む。なんか反応が薄いなー。そういう子にはオシオキが必要だね」
「えっ…? ちょ、みりぃさん…?」
ギシッと音がして目の前が少しだけ暗くなる。
俺の前には両手を立てて覆い被さるミリィさんが。
気のせいかわからないけど、ミリィさんの頬はなんだか赤く見えた。
「動いちゃだめだよせーちゃん。もちろん逃げてもだめ」
「こ、これじゃ逃げられませんて。まるで組み敷かれてるみたいで……」
「言ったでしょ。オシオキってね。だからせーちゃん覚悟するよーに」
「み、ミリィさん……」
ふふっと笑うと、右手でこぼれ髪をかき上げるような仕草をする。
妙に悦っぽく感じるそれは見てる俺の方がドキドキモノ。
さっきから心臓が警報のごとく鳴りっ放しだ。
「せーちゃん……」
徐々に近づくミリィさん。部屋の壁に俺たちの影がはっきりと写ってるのが横目に見えた。
そして……二つの影が一つに重なるまでそう時間はかからなかった。
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