・僕と彼女と・
〜だいじゅうさんわ〜
〜だいじゅうさんわ〜
そういえば、こんな約束、してたよね。
今日から制服も冬の物へと衣替え。
入学して二ヶ月しか着てなかったから久しぶりだなぁ。
それにしても、厚くなっただけに少しだけ動きにくい。
夏服に慣れてたぶんもあるからね。
自転車を漕ぐ足も心なしか重く感じた。
だんだん朝が辛くなってくる季節。
日中は暖かいけど朝夜はもう半袖じゃあ過ごせない。
なんてったって、十月だもんな。
今年も残すところあと三ヶ月ってわけだ。
いや…まだ三ヶ月残ってるって言うべきか。
とにかく、今日も一日は始まったのである。
「(一応、約束みたいなものはしたからなぁ)」
自転車のカゴに入ってる鞄。そしてもう一回り大きくした袋。
何が入ってるのかは後でわかることだ。
だからあえて言わない。
……とと、そんなコト言ってる間に到着だ。
ミリィさんはもうすでに家の前で待ってる。
「おはー」
「おはようございます」
「朝の挨拶の後はもちろんマヨネーズを吸うんだよね? マヨチュッチュ?」
「そのネタは激しく古すぎです。分からない人とかいるんじゃないですか?」
「んーそっかな? まぁいいや。んじゃ、チャッチャと始めますかぁ」
しゃがみ込んで、いつものように後輪軸にステップ装着。
あっという間に準備ができて、今日も今日とてスルリと自転車は走り出した。
肩に感じる重みが薄い。やっぱり冬服の影響か。
そのうちコートとか着だしたらもっとだろうな。
「ねーねーせーちゃん。今日から冬服だね」
「そうですね」
「なんか動き辛くない?」
「確かに少し動き辛いですが……寒いよりかはマシかと」
「でもさぁ、昨日と今日で服装は変化したけど気温は変化してないよね?」
「ま、まぁ……」
「衣替えって難しいねぇ」
しみじみ呟くミリィさん。
でもきっと何にも気にしてないんだろうなぁ。
本当にそうだったみたいで、言葉の後に『まぁ気にしてないけど』ってしっかりと付け加えてくれました。
「で、気にしたといえば……なんか荷物が一つ増えてるよね? それなに」
「あ、これですか」
さっきも言ったけど、カゴの中には俺とミリィさんの鞄の他にもう一つ袋がある。
当然ながらミリィさんも気づいたみたいで。
「軍事機密です」
「君津?」
「…機密です」
「じゃあ教えてくれないの〜?」
直接見えないけど、今のミリィさんは頬を膨らましてるに違いないだろう。
「少なくても今のところは黙秘権を発動しようかと」
「む……せーちゃんがいつになく強気だ。胸押し付けたら教えてくれるかな?」
「…教えませんて。って言うか何ですかその手段は」
「だって気になるんだもんー」
駄々をこねるように体を揺らす。
その度に自転車が不規則な横運動を開始。
漕いでるほうはバランスをとらないといけないから大変も大変。
あーミリィさん、それ以上はやめてください! こっ転ぶって……
「きーにーなーるぅーぞぉー」
「お、落ち着いて……ちゃんと後で判明しますから!」
「……ホント?」
「本当です。だからここはひとまず暴れるのは……」
「むぅ、じゃあそういう事にしとく。嘘だったら半年くらいせーちゃんにご飯たかろ」
「………………」
朝からミリィさん節は全開でした…。
はぁ、俺は俺で朝から変に疲れた…。
「到着……」
「せーちゃん、急がないと電車来ちゃうよ」
「う、うぃっす」
元気なミリィさんとは対象的に俺はヘロヘロ。
今日ばっかりは椅子が空いてることを祈りたかった。
……無駄だけど。
この時間で座るなんて始発以外にないしね。
ゴトンゴトンと揺れる電車の中で、開かないドアに寄りかかりながら一休み。
ミリィさんといえば、一応納得してくれたみたいだけどまだ気になるみたいで…
「ねぇ、せめてヒントくらいは頂けないのかね?」
「ヒント、ですか。んーそうですね……お昼休み、でしょうか」
「昼休み?」
「ミリィさん何か用事ありますか?」
「んー、今日はないよ。チャイムと同時に廊下を走り出すとは思うけどね〜」
「じゃあ、今日は目的地を俺のクラスでお願いします」
「え? でもそんな事したらお昼食べ損ねちゃうよ」
「大丈夫ですって。俺を信じてくださいな」
「うん……そう言うならいいけど……」
なんだろうねぇと言って首をかしげる。
大体は想像ついてるとは思うけど、詳細までは内緒ということで。
とにかく、ここはお昼まで一気に進めてみれば分かるものだ。
………………
…ホントに飛んだよ。
時間はまもなく四限終了の頃。
誰もが早く終われと祈ってるところだろう。
特に売店組みは……鳴ったと同時が戦闘開始。
俺も何回か行った事あるけど、遠慮してたらどんどんモノが無くなっていったものな。
あれが嫌だから自分で作ることにしたんだし。
コツコツ
ん? 何か今音がしたような……
コツコツ
ちなみに、だが……
俺の席は廊下側の一番後ろ。
つまりはすぐ隣にドアがある。
そのドアが俺に聞こえるくらいの音でコツコツ言ってるんだ。
なんだろうとそっと見てみると……
「(み、ミリィ……さん)」
ほんのり開けたドアから、ミリィさんが覗き込んでた。
やほーとでも言いたそうに手を振ってる。
「ど、どうしたんですか……?」
本当に囁くぐらいの小声でドアに向かって話す。
「んとねー、ちょっと早く終わったからもう来たの」
「な、なるほど……」
なんとも早いご登場で……
「教室入ってもいい?」
「そりゃ無理ですよ……もうチャイムが鳴りますから―――」
見計らうかのようにタイミング良くなるチャイム。戦闘開始の合図が室内に響く。
先生の号令を無視して走り出す生徒に紛れながらミリィさんが入ってきた。
いやー、よく通り抜けたこと。
「と、言うわけでせーちゃん。転進してこっちに来たよ。もうお腹ペコペコ」
「了解です。時にミリィさん」
「うに?」
「今はなにが一番食べたいですか?」
「お昼ご飯」
……いや、そうじゃなくて……
「…食べ物で、です」
「もー、そんな事は言わなくてもせーちゃんだって分かってるクセに」
「まぁそうですね。そんな訳で……ハイ、これです」
脇に置いておいた朝から謎のままの鞄を机に置く。
「ミリィさんのお望みのものがここに」
「え……? ひょっとしてこれは」
「前に言ってたじゃないですか。今度作ってきますって」
じーっと鞄を見つめるミリィさん。
これは中身を見せたほうがいいんだろうか。
迷ってるうちにパッと視界から消えてしまった。
……あれ?
「み、ミリィさん?」
「せーちゃん。のんびりしてるヒマはないよ! 転進に次ぐ転進……次の戦地は図書準備室!」
「はぁ?」
「あーもうっ。ここじゃ食べられないから場所移動するの。さぁ行こうやれ行こうそれ行こう」
「えっちょっとミリィさ……って引っ張らないで。ボタンが弾け…あぅっ!」
襟首をしっかり掴まれたままズルズルと引きずられて教室を後にする。
俺がドアとか壁にぶつかろうがお構いなしに引っ張ってくミリィさん。
もちろんアレが入った鞄は大切に持ってる。
んー、この光景傍から見たら相当にヘンだろうな……
「はい、到着!」
ズルズル引っ張られることしばらく。やっと開放された場所は図書準備室。
準備室といっても名前だけで、実際は図書委員が好き勝手に使っちゃってる理想と現実がかけ離れてるステキ空間だ。
みんな昼とか放課後に居座るらしいけど、今日は誰もいない様子。
まぁ都合が良いといえばそうなんだけど。
「ささ、せーちゃん。早速食べようそれ食べよう」
「ミリィさん…元気ですね。俺なんかもうここに来るだけでボロボロですよ」
「そりゃーもう。鞄の中身がアレと判ったら黙っちゃいられないよね。開けてもいい?」
「えぇ、いいですよ。あんまり味には自信ありませんが」
「なに言ってるかね。せーちゃんの腕前はこのあたしがよっく知ってるんだから!」
鞄からタッパーを取り出してふたを開ける。
すでに答えは出てるけど、中身はミリィさんの大好物であるサンドイッチ。
基本であるタマゴサンドからツナ、レタス、ハムと言ったものまで各種作ってみました。
いやーサンドイッチなんて久しぶりに作ったわ。
一応お腹に溜まるものもってコトで、おにぎりも二・三個作ってきてある。
「やたーっサンドイッチだぁ〜♪」
今のミリィさんの表情は、上の上。まさに最上級の微笑って言ってもいいだろうなぁ。
ホントにサンドイッチが好きなんだってわかる。
作ったほうとしても、これだけ喜んでもらえるなら甲斐があるというもの。
「それじゃ、いっただっきまーす!」
準備室に、ミリィさんの嬉しそうな声が響いた。
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